見出し画像

#2 リアルを感じるUIデザイン-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載

本連載は、Nintendo Switch向けソフト「レッツプレイ!オインクゲームズ」の制作過程をまとめたインタビュー記事です。2022/4/1から4/29まで、全5回にわたって毎週金曜日公開で連載していきます。冊子版はゲームマーケット2022春のオインクゲームズブース、およびオインクゲームズ公式オンラインショップで発売予定です。今後も追加タイトルについての記事を更新していく予定ですので、気になる方はぜひマガジン登録を!

本記事は、#1 コロナ禍でも遊べるボードゲームの開発-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載 からの続きです。

インタビュー その1 (スタータップス、海底探険、月面探険)

リアルなボードゲームの上にUIがのったXR(Mixed Reality)

-コンセプトをどのように実現していったのでしょうか。

(新)佐々木さんからきたのはコンセプトの一枚絵だけで、それがどういうコンセプトで作られたかは、実は今初めて聞きました(笑)。答え合わせとしては、あってましたね。ボードゲームをデジタル化するとなった時に色々選択肢はあると思うんですが、2Dでゲームデザインの部分だけ再現するという作り方が、世の中には多いと思っていて。一枚絵を見た時、特に「海底探険」のコンセプトを見たときに感じたのですが、そこをあえて3Dを作るんだな、というのは感じました。その辺から、モノがあってそれを囲っているという雰囲気を大事にしているのは分かって、それを崩さないように作っていこうと思いました。
最初は3Dモデリングから着手しました。モデリングの部分はちゃんと嘘をつかないように気をつけながら、かなり、コンポーネントに忠実になるように気をつけて作りましたね。実際3D の画面で見た時も、現実感を感じるように。あんまりデジタル感が出ないように…影とかライティングとか、細かいテクスチャのようなディテールは、気づかないところも多いとは思うんですが、こだわって作っています。

3Dモデリングの様子。
(左)「スタータップス」の独占禁止チップ。チップの抜きの方向を意識して片方だけ丸みのある断面にしたり、ニックまで再現されている。
(中)「スタータップス」のカード。実際の商品と同じく、表面に絹目格子のエンボスがかかっている。
(右)「海底探険」のコマ。木の質感や、ちょっとした凹みまで再現されている。

(新)アニメーションの方でも、現実感を損なわないように気をつけていて。例えば、3Dのものをアニメーションするときは、拡大縮小はしないようにしています。現実のものは大きくなったり小さくなったりしないので。でも面白みのあるアニメーションになるよう工夫しています。
レッツプレイ!オインクゲームズの画面って、3Dの部分があって、その上にXR(Mixed Relity)でUIが乗せられているイメージなんですよね。リアルなボードゲームをやっていて、その上にUIが乗っているみたいなイメージです。現実のものをあまり邪魔しないし、それでいてよりわかりやすく、というところが最も意識しているところですね。なので全体的にシンプルめ、情報も絞り気味です。

-XRのようなUIというのは面白いですね!コンポーネント自体は、実際のものとほぼ同じということでしょうか?

 (佐)「スタータップス」のカードのデザインは変えました。元々のカードデザインは、自分の前に同じ色を置いていく際に、帯の部分を重ねて置いていけばいいようなデザインにしていたんです。ボードゲームは人が処理するので、やり方がわかりやすいように、こっそり情報を埋め込んでいるんですよね。でも、デジタル化するとその部分をコンピューターがやってくれるので、そういうきっかけってなくてもいい。それによって犠牲にしているものもなくはないので。「スタータップス」の場合はデジタルでは帯は必要なくて、逆に、画面に小さく表示されるので、色が判別しやすいよう、全面を色にしました。デジタル化する時に、コンピューターがやってくれるから必要なくなる部分は省き、デジタル化で必要になるところは加えていっている形ですね。大事なのは、リアルなテーブルを囲んでいるその感じであって、元のコンポーネントの忠実な再現ではないので。

 (新)大きく変わっているのはそこだけですね。

「スタータップス」のカードデザイン。オリジナル(左)では、置き方がわかりやすいよう上下に帯が入っているデザイン。デジタル(右)では、帯を省き、逆に色の判別がしやすいよう、全面が色になっている。

(佐)元々のアナログのコンポーネントって、アナログ的なわかりやすさがたくさん盛り込まれていて。例えば「スタータップス」の得点チップは、オモテは1点なのですが、ゲームの最後に人に渡す時に裏返すと3点になるようになっています。このオモテとウラという要素を、デジタルにした時に取り去ってしまうと、ものすごく説明が大変になるんです。アナログのメタファー自体がすごく優秀なので、デジタルでもそんなにいじらず、そのまま使うことになりました。
逆に「月面探険」のタンクのUIとかは、アナログからデジタルにする時に変えています。アナログゲームでは、小さいカード1枚に他のカードとか物資チップが乗せたりするのですが。あれは、アナログのコンポーネントに入れるための仕掛けであって、本来個数がわかればいいので、そこは変えちゃったりしています。

「スタータップス」のチップ。オリジナル(左)では、オモテが1点、ウラが3点になっており、これはデジタル(右)でもそのまま再現されている。
「月面探険」のタンク。オリジナル(左)では小さなカードを並べて、上に酸素カードや物資を乗せて使う。デジタル(右)ではプレイヤーアイコンの横にゲージがあり、その上に酸素カードや物資が表示されるようになっている。

プレイヤーの感じ方のリアルを、演出で再現する

(佐)アナログゲームのコンポーネントそのままで、ゲームが動くものを忠実に作って行ったんですが…いざ途中までできて遊んでみたら、なんかちょっと微妙だな、となったんです。プレイはできるけど、すごく淡々と行われている印象だったんですよね。実は、コンポーネントをそのまま再現しただけでは、リアルな感じ方を再現できていなかったんです。リアルな空間でのボードゲームのプレイって、何か起こってる時にプレイヤーがそこに注目したり、グッと集中して見る、みたいなことがあって、それが再現できてないんだと気づきました。元々は、あまり演出とかは入れない方向で考えていたのですが、カメラが寄ったりとか、何か起こった時に特徴的なアニメーションを入れたりする演出を、新藤さんにお願いしていきました。

 (新)その辺が、レッツプレイ!オインクゲームズがちゃんと完成するかしないかの分かれ道だった気がします。ゲームが淡々と感じてしまって、やってることは同じなのに印象が違う、盛り上がりがない、そこはデジタルの演出を入れないと感じないんだな、というのが作ってみてわかった部分でした。あと大きいのは、他のプレイヤーを感じるかどうかという部分ですね。そこも当初は薄くて。それを解決するために、他の人の選択肢を見えるようにするとか、そういうのを入れていった結果、リアルで他の人が悩んでいるのを見ているような体験ができるようになりました。どうしてもそこはデジタルにすると完全に抜け落ちてしまうので、そこはUIで入れないといけないところなんだなと思いました。

(佐)そこはほんと気づきがありました。例えば「海底探険」では、空気が減っていくのって、ボード上の小さいコマを動かすだけなのですが。でも空気が減るのって、プレイヤーにとっては大事件なんですよね。なのに、画面上では小さい面積で表示されるので、人の感覚とすごくズレる。

(新)自分で動かすのと勝手に動くのも、全然違うんだなと思いました。『桃太郎電鉄』みたいなダイスの演出を入れたのも、良かったですよね。ゴロゴロってダイスが回って、プレイヤーが操作することでダイスが振られるものです。

「スタータップス」の演出。
カードや独占禁止チップが場に出された時、カメラがその部分にクローズアップする演出を入れることで、プレイヤーがそこに注目していることを再現している。また、他プレイヤーの手札の影を入れ、操作に合わせて動かすことで、そこにプレイヤーがいることを伝えている。
「海底探険」の演出。
(左上)ダイスは自動的に振られるのではなく、ゴロゴロとダイスが回り、プレイヤーが操作することでそれが振られるという演出が入っており、「いい目出ろ〜」と念じながらダイスを振る現実感が演出されている。
(右上)プレイヤーが選択肢を悩んでいる時には、その選択肢を他のプレイヤーにも表示し、それが天秤のように揺れている演出で、悩んでいる様子を伝えている。
(下)潜水艦ボードの空気マーカーが減る時には、カメラがその部分にクローズアップする。

-リアルで人が感じることをデジタルで再現すると、現実そのものとは異なるものになる、というのはとても面白いですね。

 (佐)あと、「海底探険」をアナログとデジタル両方でやってみて、興味深かったことがあって。デジタルでやってると、初手で遺跡チップを拾うこと、よくやるんですが、アナログでやるとそれをしづらいということに気づきました。というのも、アナログだと、実空間でチップとブランクチップを入れ替えて…という動作のコストが、デジタルと比較して大きかったんですよね。そのせいで、初手に気軽にやれない雰囲気が生まれていた。その手順の多さによって、どちらかというと拾わない方向に、思考がちょっとだけバイアスかかるんですよ。そこの心理的な負荷が全然違うと気づいて、驚きました。

 (新)それは結構、いい面も悪い面もありますね。デジタルだと複雑な処理を勝手にやってくれてプレイしやすい反面、そういう重みみたいなものを感じづらくなって、淡白なものに感じやすくなる。『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』の開発話で聞いたことがあるんですが、マップ移動する時にあえてボタンをたくさん押させるようにしているところがあるそうです。

 (佐)「海底探険」の遺跡チップを拾う時も、もしかして「本当に拾いますか?」というのを一回表示するようにすると、だいぶ違うかもしれませんね。Twitterで、発言前に確認をはさむと書き込みづらくなる、みたいな現象に似ていますね。デジタルって、実際のモノを使って遊ぶのより、淡白になるんですよね、重さとか手触りとかもないので。手順の確認みたいなものも、いちいち入れていく必要があるんですよね。

 (土)「海底探険」の最初のコマを置くアニメーションもそれですね。

 (佐)自分のコマの色が分からなくなってしまうので、それを確認させるという目的が一番大きいんですが。でも、そのコマを置く儀式というか、プレイヤーがそのコマに憑依する意識、みたいな意味合いがあるんだなと思いました。

 (新)実はあそこだけ、3Dモデルが何もない空間に浮いてるんですよね。その瞬間はまだデジタル側というか。そこからプレイヤーが操作することで、その空間に入っていく、やるぞという気持ちになる。ゲームの始まりのシーケンスがあっさりしすぎていると、気持ちがあまり乗らないというのも感じていて。

 (土)「スタータップス」ゲーム開始時にカードをシャッフルする演出もありますね。

 (新)あれは半分趣味ですが(笑)、手札を配るのをちゃんと見せなきゃいけないというのはありました。手札を配るところを見せないと、いきなりゲームが始まってやらされる唐突感があったんですよね。

 (佐)これはちゃんとランダムで切り直されてるんだよという感じが、わかりますよね。

 (土)実際のゲームで、座った瞬間にカードが既に配られていたら、急な感じがしますね。

 (佐)デジタルだから、実際のところは、アナログゲームのシャッフルよりもよく混ざってますよね(笑)。

「海底探険」のスタート時には、各プレイヤーのコマをしっかり見せて、操作をすると潜水艦にそのコマを乗せられる。
「スタータップス」のスタート時には、カードがシャッフルされ手札が配られる演出がある。


#3 スピード感ある開発の秘密-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載 に続きます。

いいなと思ったら応援しよう!