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#1 コロナ禍でも遊べるボードゲームの開発-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載

本連載は、Nintendo Switch向けソフト「レッツプレイ!オインクゲームズ」の制作過程をまとめたインタビュー記事です。2022/4/1から4/29まで、全5回にわたって毎週金曜日公開で連載していきます。冊子版はゲームマーケット2022春のオインクゲームズブース、およびオインクゲームズ公式オンラインショップで発売予定です。今後も追加タイトルについての記事を更新していく予定ですので、気になる方はぜひマガジン登録を!

レッツプレイ!オインクゲームズ / Let's Play! Oink Games 2021

2021年12月にNintendo Switchでリリース。同年5〜6月にクラウドファンディングKickstarterにて開発資金を募るプロジェクト「Oink Games +」を実施し、1,689人の皆様から、合計6,520,797円の支援を受け開発した。リリース時の収録タイトルは「海底探険」「エセ芸術家ニューヨークへ行く」「スタータップス」「月面探険」の4作。
-プレイ人数: 1〜8人
-ジャンル: ボードゲーム

直接会うことができなくても、ひとつのテーブルを囲んでいるかのように、気軽にオンラインでボードゲームを遊びたい!「レッツプレイ!オインクゲームズ」では、「海底探険」や「エセ芸術家ニューヨークへ行く」など、オインクゲームズの人気小箱ゲームをオンラインで遊ぶことができます。おうちで家族と遊ぶもよし、離れた友達と遊ぶもよし、CPUと対戦して腕試しするもよし。ボードゲームを、いろんな形で遊びつくそう!

PROFILE

DIRECTOR / UI
佐々木隼 / JUN SASAKI
2010年にオインクゲームズを設立。同社が開発する多くのゲームのディレクション、ゲームデザイン、アートワークを手がける。文中では(佐)と記載。
UI / PROGRAMMING
新藤愛大 / YOSHIHIRO SHINDO
プログラマー・テクニカルアーティスト。オインクゲームズの全てのデジタルゲームのエフェクト、アニメーション、インタラクションを手がける。文中では(新)と記載。
PROGRAMMING
浦義裕 / YOSHIHIRO URA - きゅぶんず / kyubuns
小さくて綺麗なものが作りたい。実力はGitHubをご覧ください。文中では(浦)と記載。
PROGRAMMING
土江智明 / TOMOAKI TSUCHIE
プログラマー。ややこしいものが好き。今作ではCPUなど担当。文中では(土)と記載。

インタビュー その1 (スタータップス、海底探険、月面探険)

コロナ禍でも遊べるボードゲームの開発は、「スタータップス」から

-ボードゲームをデジタル化するプロジェクトは、どのように始まったのでしょう。

 (佐)実は以前から、オインクゲームズのボードゲームをデジタル化しないのかと、よく聞かれていました。でも、フィジカルなゲームをそのままデジタル化しても、大事な部分が削がれてしまうように感じていました。対面して、モノをちゃんと使って遊ぶほうが面白い。デジタルでやるなら、デジタルに合ったゲームをちゃんと考えないと、うまくいかないと思っていたんですよね。
ですが、コロナ禍で、デジタル化してみてもいいかも、という気持ちになったんですよね。集まれるなら会ってボードゲームをすればいいですが、集まりづらくなった今、デジタル化にちゃんと取り組んでいかないといけないという問題意識が生まれました。コロナ禍によってボードゲームという娯楽自体が危うくなっているように感じていて。離れている人とも一緒にボードゲームができる環境を整えなければならないと感じました。
世の中が「オンラインでボードゲーム的な遊びをする」ということを受け入れるような流れも感じていました。『Among us』も人狼的なゲームですし、いわゆるボードゲーム的な面白さを、オンラインで遊ぶ土壌ができはじめている。ボードゲームをzoomなどのオンライン会議システムをつかって遠隔で遊ぶようになったり、逆に、オンライン会議システムで遊ぶためのゲームも世の中に出てきていたりしますよね。
オインクゲームズにはプログラマーも揃っているので、やるならば自分たちでしっかり開拓していこうと思って始めました。まず「スタータップス」の画面のコンセプトデザインつくりはじめるところから始まって、実際プログラミングに着手したのはその後でしたね。

(浦)コンセプトデザインをもらったのが2020年10月30日で、そこから作り始めました。

 (土)浦さんと自分の2人ですぐに作り始めて、その年のゲムマ秋(11月14日)の時には、「スタータップス」を遊べる状態になっていましたね。

 -最初のタイトルに「スタータップス」を選んだのはなぜですか?

(佐)ボードゲームのデジタル化でいうと、ブラウザ上で遊べる『ボードゲームアリーナ』が一番使われてるんじゃないかなと思っています。あとはNintendo Switchの『世界のアソビ大全51』とか、そのあたりでしょうか。僕自身もプレイしますが、現実空間で友達と遊ぶ体験とは、けっこう違うものになるなというのは感じていて。何か新しい方法で、いい感じにデジタル化できないかなというのはずっと思っていたことで、今も思っています。
そんなふうに、僕自身はボードゲームをデジタル化することに対してどちらかというと否定的というか、疑ってかかっていました。最初に「スタータップス」を実装しようと思ったのは、対面の面白さにあまり依存しないものの方がいいと思ったからです。プレイヤー同士でリアクションや表情を見たり、会話したり、というところに面白さの肝があるようなタイトルは、デジタル化に向かないよなぁと常々思っていたので、そうじゃないものから始めようと。「スタータップス」は会話しなくても淡々とゲームを回すことができ、デジタルでも比較的面白くなるんじゃないかと思いました。麻雀やテキサスホールデンポーカーのように、オンラインにも向いていそうだなと。僕自身の作品だったので試しやすかったというのはあります。 

ボードゲームアリーナのプレイイメージ。
出典:https://ja.boardgamearena.com/

-デジタル化にあたり、考えたことなどあれば教えてください。

 (佐)デジタル化で大事にしたかったのは、人と会わなくてもボードゲームができること。なので、オンラインで他のプレイヤーと一緒に遊ぶことを第一に考えました。副次的に、1人でも遊べたらいいと思いましたが、そっちはそこまで重要視していません。 
zoomなどのビデオチャットで友達とつなぎながら遊ぶ、というのを想定していました。昨今世の中的にもビデオチャットが一般的になってきたので、会話の部分はそっちに委ねることができそうだったのはよかったですね。以前だったら、チャットをゲーム内に入れたりしなくてはいけず大変だったはずです。zoomやdiscordが広まっていたのでデジタル化に踏み出せたというのはあると思います。

 -Nintendo Switch向けに開発したのはなぜでしょう?

(佐)どのプラットフォームで出すかは、当初はあまり考えていませんでした。最初のモックはスマホで作っていましたし。最初は、研究開発みたいな感じで開発を進めていました。「スタータップス」だけでスマホ向けに発売しようかとも考えていたのですが、それだと商品としては弱い。Nintendo Switchで出すのが、お客さんからすればお金を出しやすく、きちんと利益になるのではと思い、最終的にはまずNintendo Switchで発売することにしました。Kickstarter のリワードとしてもそちらの方が配りやすい、というのもありましたね。今後他のプラットフォームへの展開も考えています。

Kickstarterキャンペーン用の画像。当初は「Oink Games+」というプロジェクト名だった。
Kickstarterキャンペーン用の動画。zoomなどで会話しながら、離れた人とも遊べるイメージを伝えている。

 -最初の収録タイトルはどう選んだのですか?

 (佐)「スタータップス」はオンラインでもゲームになりやすいものとして最初に開発したのですが、商品にする時に売りになるものという視点では、オインクゲームズで一番売れている「海底探険」がまずは思い浮かびました。非公開情報がないのでオフラインでひとつの画面でもプレイできるし、ファミリー層の支持も高いNintendo Switchにぴったりなゲームですよね。その次は「月面探険」で、これはやりごたえがあり、1人プレイでも遊ばれそうなゲームとして選びました。
でも実は、世の中的に、『Among Us』のような人狼的なゲームを遊んだり、実況プレイしたり、野良で知らない人とでも全然遊ぶんだな、というのが見えてきていて。「エセ芸術家ニューヨークへ行く」とか「インサイダーゲーム」みたいなゲームも、オンラインで遊ぶことが受け入れられる土壌があるなと感じていて、「月面探険」より早くするのもありだったかも、と思っているところです。
ここ1〜2年で、世の中の意識がすごく変化している状況で、あらかじめ考えるのは難しいんですけどね。コロナ禍がパッと収束してしまうという可能性もあって。そうしたら、ボードゲームは会って遊べばいいでしょ、となって、あまり世の中に受け入れられない可能性もありますよね。

友達同士でボードゲームを遊ぶ、臨場感・手触り感を再現するUI

 -全体のデザインコンセプトを教えてください。

(佐)いろんな可能性があったと思うんですが、ボードゲームは人と人との関わりがメインだと思っていて、それをなるべく邪魔しない方がいいと考えました。ボードゲームの文脈の延長線上にこれがあるというイメージ。デジタルゲームによくある演出やビジュアルにするのではなく、アナログゲームからあまり離れたくない、という気持ちがありました。なので、空気感とか、手触りとか、ボードゲームというメディアのいいところを再現したくて。ノスタルジー的なことになるかもしれないですが、そういうのが感じられるビジュアルコンセプトを作っていきました。
最初のゲーム選択画面は、なんで逆光なのかめちゃくちゃ聞かれますね。ボードゲームの箱ではなく、それを遊んでいる場の方が主役なので、箱の奥に賑わっている場がある、みたいな雰囲気にしたかったんです。が、やや伝わりにくかったかもしれません(笑)BGMは、みんな好きな音楽を聴きながらやってくれればよくて、そんなに主張がない感じにしたいという気持ちはありました。
まずはボードゲームの面白さをそのままデジタルにしたいというのがコンセプトとしてあるので、いったん、ランキングみたいな余計なものは考えないことにしました。友達の家でボードゲームする時に、世界ランキングなんて気にしないですよね。友達同士でボードゲームを遊ぶというコンセプトに集中しました。ランキングはあったらあったでもちろんいいんですけど、そうすると開発スピードも遅くなってしまうので、何を重視するかを明確にして、なるべく早く進めたかった。あとは、そういう腕くらべや大会のようなものはユーザーが勝手にやる時代になってきていると思っていて。ゲームのほうでサポートする必要もないんじゃないかと割り切ってしまいました。

ゲーム選択画面のデザイン。箱の奥に賑わっている場があるボードゲームカフェのような雰囲気。

-そういったコンセプトをベースに、UIが作られていったのですね。

(佐)UI制作の流れとしては、最初に画面のコンセプト部分、雰囲気を僕が作りました。なんとなくこういうレイアウトで、テーブルとかコンポーネントがこんな感じで画面に出ますよ、というのを作ります。そのあとは新藤さんに丸投げして、細かいところはお任せする形です。
今のところどのタイトルも、ボードゲームらしい雰囲気、友達と一緒にボードゲームをやってるんだっていう感じを意識しています。例えば、デジタルになればカメラの視点は真上からでもいいし、いろいろ豪華な演出もできてしまうわけですが…現実でボードゲームをやっている時の景色、角度になるような視点で、なるべく作っています。もちろんプレイしやすさは意識しつつ、です。

やっぱりプレイしてる感じを出したかったので、例えば、余計なチップなども場に見えているようにしたかった。チップの数はただの数字にしてしまってもよかったんですが、モノとして置いておこうと。そういうものもボードゲームを遊んでいる時に大事な要素かなと思っていて。例えば「スタータップス」の手元にある、得点チップ。所持数は数字として表示はしているのですが、ちゃんとチップもその数だけ置いてあるのが、雰囲気として大事かなと。
『モノポリー』にクレジットカード版というのがあって。お金のやりとりが全部クレジットカードでできるんですよね。中央にデバイスがあって、自分のカードを通してお金のやりとりをするんですが…実際プレイしてみて、僕にはあまりよい変更には思えなかったんです。お金やモノを直接やり取りする感覚が、面白さに重要だと強く感じました。なので今回も、使わない予備のチップも、ちゃんとチップとして置くというコンセプトで、今のところ作っています。みんなでテーブルを囲んでいる臨場感ですよね。最初に作った「スタータップス」はそこにこだわりすぎたかなとも思っていますが…。テーブルの広さに限界があって、対応人数が限られてしまったんですよね。今後はアナログ的な部分にこだわりすぎないというのも気にしていきたいとは思っています。

「月面探険」では使っていないOGSチップなども、横に置いてあるようにしています。「海底探険」のブランクチップはさすがに邪魔だったので置いてないのですが。「海底探険」は「スタータップス」の次に作ったので考え方が進んで、雰囲気を盛り上げるために水面の反射エフェクト入れたりしています。テーブルで遊んでいるのに加えて、さらに追加できる楽しさですね。
ー画面のコンセプト的にはこんな感じのことを意識してましたが、手触り部分でそういう雰囲気を醸し出したのは、新藤さんのアニメーションとか、音の力も大きいと思います。僕はそういうコンセプトが一枚絵で伝わるところまでを作りました。新藤さんが、そのコンセプトをすごくよく汲み取ってくれましたね。

プレイ中画面のコンセプト画像。開発の順番は「スタータップス」→「海底探険」→「月面探険」。「月面探険」はいくつかのUIが検討されていた。
ロビー画面のコンセプト画像。
ロゴの変遷。タイトルがなかなか決まらず、ラフでロゴにしてみて字面を確認しながら検討していた。色々なボードゲームが入るので、ロゴは中庸的な落ち着いたトーンで最初は考えていたが、「エセ芸術家」を入れてリリースすることになったなどの変更もあり、場のにぎわいを感じさせるような楽しげな感じに最終的には変わっていった。

#2 リアルを感じるUIデザイン-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載 に続きます。

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