観劇感想文 11/10 『私と11輪の物語』
corichに投稿しようと思ったんだけど、見つけれずこちらへ書かせて頂いております。
「やさしい世界」さんの事は、以前から気になっていて、公演があると
知ってすぐに予約をさせて頂こうと思ったのだが…
ん?「やさしくない世界」??
え?あれ??
色々と調べてみると「やさしい世界」さんと対をなす存在らしい。
主宰も同じく新田澄海さん。
やさしくないのかぁ、どうしようかなぁと思ったが、少なくともグロいとか
そういうものではなさそうだったので思い切って予約。
結果としては、確かにやさしくはなかった。
でも、すごく良かった。
とても好きな終わり方。
小劇場の演劇では珍しくないが、どんなストーリーなのかは、事前には正直、よく分からなかった。
ただ、開演前にパンフレットを読んでいて、主宰の挨拶文でまず驚く。
「生きるためじゃない人間の娯楽に付き合わされる生き物達は
何を考えているんだろう?人間をどう思っているんだろう?」
これ、まさに、自分が日々考えていること。
同じことを考え、そして、それを演劇という形に落とし込んでいただいたこと、そして、それを観ることが出来る事がとても嬉しいし、ありがたかった。
本作に登場する唯一の人間であるサトルは人間の視点からすると、非常に優しい好青年。
彼は純粋により美しいモノを作るために研究をしている。
いわゆる、品質改良というやつなのだろうが、植物の目線で捉えると、それは、リンゴがいうように本来は「禁忌」。
本来の姿からより美しくなることを、劇中では「狂う」と表現する。
友達であるカスミを助けるどころか、クミの目の前で処置を施され「狂う」カスミ。
そして、同じように狂い咲く花々たち。
それを嬉しそうに見守るサトル。
ちょっとトラウマ級のシーンだが名シーンだと思う。
世間では、愛玩という名の下に、動物たちは様々な改良を施されている。
それが結果として彼らの生きる力を強くするならまだしも、むしろそれを削ることで、彼らは新しい姿を強制的に与えられている。
チョウが指摘するように「許可なく」。
動物、特にペットとしてその存在感を大きくしているイヌやネコは、表情も豊かで感情を表現することも、自由に動き回ることもできるので、近年はヒトと同列に扱う動きが広まっているように思う。
イヌやネコに限ったことではなく、動物全般にもその動きは広まりつつあるが、植物とて、それは同じことなのだということを、思い知らされた。
劇中で彼女たちが話すように、植物は自らの意思で歩くことも、栄養を摂取することもかなわない。
己の身に起こる、ありとあらゆる事を受け入れないといけない。
生きていくために、彼女たちは美しくあって、様々な生き物たちの注目を浴びなくては行けない。
けれども、それが彼女たちにとっての最大の脅威である人間の目にも触れてしまうというのは、何とも皮肉な話だ。
劇中でカスミが「誰も悪くないってこんなにつらいのね」というシーンがある。
思わずハッとしてしまった。
確かにその通り。
リンゴも言うように
「どうにもならないことはどうにもならないもの」
である。
恐らくはヨシノ同様長い時を生きてきたリンゴ。
彼女の言葉は正論だ。
「仲がいいから平和なんじゃない。程よい距離感を保てるから平和なのよ」
彼女の言うことは間違いなく正しい。
ただ、その根底にあるのは、自ら行動することができない自分たちに対しての諦観だと感じる。
リンゴ自身、そしてきっとヨシノや昆虫、人間も、カスミのようにすべての種族が分かり合える世界を間違いなく望んでいる。
同時にそれがいかに難しいことか、植物という受け身で生きてゆくほかない種族にとっては、絶望的なまでに難しいことも知っている。
多くの植物にとってカスミの語る理想は「想像するのは自由」な夢物語でしかない。
叶いもしない夢なら、それは見ることすら苦痛なのかもしれない。
リンゴの
「昔の私みたいで嫌になるわ」
という言葉は、あまりにも。あまりにも重い。
この物語…というか、この劇団にとって、大きなテーマの一つは、劇団名でもある
「やさしくない世界」
なんだろうと思う。
本作について言えば、
「誰も悪くないが、どうにもならないこと」
が一つのテーマと感じる。
植物たちは、人間、もっと言えばサトルの所業を禁忌と解釈しつつも「美しくあり続ける」という彼女たちの意義に合致してしまうがために、自身が「狂う」ことに怯えつつもそれを受け入れて生きている。
だから彼女たちはサトルを恨まない。
サトルの「より美しいものをつくりたい」という純粋な思いを、受け入れている。
しかしである。
サトル自身はこうも語る。
「本来の色から別な色になるんだ。苦しくないはずないよな。けどきれいになる。その為の苦痛はしょうがないんだよ」
これは痛烈である。
彼は自身の所業が、禁忌であることを、どの程度の意識においてかはともかくとして、間違いなく認識している。
穿った見方にすぎるのかもしれないが、私はこの言葉を、主宰から我々人間に対しての痛烈なる皮肉、あるいは警鐘と捉えた。
私自身もサトルのようになっていないか。
そんな問いを突き付けられたような思いがした。
本作は時系列や場面が入れ替わることもなく、すんなりと話の筋は頭に入ってくる。
しかしながら、その内容は非常に重厚かつ繊細で、時が経てば経つほど、心に染みわたってくる。
道徳的、倫理的な観点からも非常に優れた演劇でもあり、多くの人に観て頂いて、色々なものを感じて欲しい作品だと感じた。
カスミが理想とした世界。
彼女たちがなしえなかった世界の構築がいつか現実になるように。
本作を彩った12人(?)の登場人物。
そのキャラ設定が実に秀逸で素晴らしかった。
キャラがしっかり立っている。
衣装も雰囲気にぴったりと合い、素敵だった。
アンケートで誰が好きですか?的なのがあったけど、選べないですわ。
結局、全員に〇しちゃった。
参考にならない回答ですいません。
最後は、そんな皆様を振り返りつつ、つらつらと。
※パンフレット掲載順のご紹介です。
◎カスミ(田中園子さん)
観劇前にTwitterでフォローしていただいた田中さん。唯一、終演後ご挨拶
させて頂きました。
カスミ草の花言葉そのままのキャラクターに衣装。
純粋な思いが「やさしくない世界」に対して一石を投じたと思います。
「どうしようもないこと」と受け入れてしまっているものは日常でも
結構あるんですけど、彼女の語る理想に、私自身思うところはありました。
少なくとも「想像」は逃避や諦めのためでなく、未来のための想像でありたいと思います。
◎クミ(くらしなみさとさん)
大好き。ほんと大好き。
ただ一人、研究対象ではなかった彼女。
周りの花たちが怯えながらも狂い咲いていくのを見守りつつも、花として生を受けながら、花として認識されない自分との差に、何とも言えない思いはあったろうと思います。
そんな自分をかわいいと言ってくれたカスミに、そのままでいてほしいと願い、絶交を言い渡すシーン、そして、トリにカスミを託す一連のシーンの演技、本当に素晴らしかったです。よく通る澄んだ声が素敵でした。
クミの思いも虚しく、カスミは狂ってしまって…カスミやクミの気持ちを思うと涙なしには観られませんでした。
◎ヨシノ(彩未そらさん)
リンゴと同様に長い時間を見つめ続けてきたであろうヨシノ。
リンゴとヨシノは現状を受け入れることについては、同じ立場だけれど、
ヨシノの方がより保守的であったように感じます。
カスミが語る理想を「想像するのは自由」というリンゴをたしなめるヨシノ。
それはヨシノなりの、カスミに対しての優しさだったと感じます。
その優雅な所作はまさしくソメイヨシノそのもの。
表情もとても柔らかかったけれど、感情論に走った時の表情はとても迫力がありました。
◎リンゴ(國﨑理恵さん)
リンゴはとにかくかっこいい。
何もかもお見通しで、夢を操ることもできる。
リンゴはヨシノ以上に長い時間を見つめ続けてきたように思う。
カスミが思う理想の世界を、実現不可能と思いながらも、その想像を止めようとしなかったのは、ヨシノとは違った優しさだったのかなと思います。
決して感情論に走ることのないリンゴ。
けれど、
「昔の私みたいで嫌になるわ」
という例のシーンで、初めて自身の感情を言葉にする。
この色々な思いの詰まったセリフの語り口が素晴らしかったです。
ちょっと鳥肌が立ちました。
首から下げていた世界で一番有名なリンゴのタグに思わずニンマリ。
ところで、本作に登場する皆様で唯一、いまだにTwitterのアカウントを見つけられず、フォローさせて頂けてない…探し方が悪いのかも。申し訳ありません。
終始、凛々しく、存在感のあったリンゴが大好きでした。
◎ヒマリ(木村優香さん)
ザ・ヒマワリでしたね。
弾けるようなかわいらしさ、そして、まっすぐな感情表現。
ヒマワリ以上にヒマワリだったように思います。まぶしかった。
でも、何といっても、あの薬を飲まされるシーンですよねぇ。
ハチが身を挺したおかげで、その場は逃れたものの、きっと彼女もまた、
いつかは薬を飲まされてしまう。
個人的には、ほかのどのキャラよりも、ヒマリが薬を飲まされてしまうのは
つらいかな。
クミがカスミに、そのままでいてほしいと願ったように、ヒマリにも
あの明るく元気なヒマリのままでいてほしい。
それはもちろん、ほかの植物についても同じなんだけど、何となく、ヒマリには特にその思いが強い。
◎カブト(和埖くるりさん)
ちょっとカッコよすぎでしょう、カブト。
その所作も、声も、語り口も全てがかっこよかった。すごかったー。
劇中では忌み嫌われるカブトだけど、個人的には、彼に共感できる部分が非常に多かったです。
彼自身は、毒をもっているという理由で、他の花とは差別的に扱われていたことを恨んではいたものの、それこそ「どうしようもないもの」という気持ちは持っていたように思いました。
だから、きっとサトルを憎み、恨み切れない。
そうやって思うと、カブトが抱える内面の闇は深いなと感じます。
まぁ、そういう部分も含めて、かっこよかったし、好きなんですけど。
◎ベラ(きだたまきさん)
ベラはかっこよかったですねー。
そして美しかった。
でも「孤高の美しさ」。
それゆえの寂しさはきっと彼女の中にはずっとあったんだろうなと思います。
モーリーに対して、本音を吐露するシーンは胸を打たれました。
この時の笑顔をモーリーは
「素敵な笑顔ですね」
と評するんだけど、この時の笑顔、ほんとに素敵だった。
どの演目でも、印象に残っている誰かの表情っていうのはあるものだけど、
本作については、この時のベラの笑顔がまさにそれ。
ハートを鷲掴まれました。素晴らしかったです、本当に。
◎トリ(鈴木遼さん)
トリ、メッチャいいやつなんですよね。
個人的には最大の癒し系。
あんまり自分の思いを主張することのないトリだけれど、終盤、クミに
託されて、カスミを説得するシーン。
カスミに疑われながらも、必死に、そして、半ば強引に脱出を促すトリの
姿に胸が熱くなりました。
クミとトリが二人で話すシーンも良かった。
クミも良い子だなと思うけど、トリも本当にナイスガイ。
この二人のシーン、大好きでした。
◎ハチ(犬山こころさん)
どのキャラについてもいえることだけど、ハチもまたハチっぽかった(笑)。
カブトに脅されたり、大好きなヒマリに素直になれなかったり、何というか、ある意味、愛されキャラ感があったんだけど、ヒマリを助けるために、
サトルを刺す場面はすごかった。
ハチの一刺し。
つまりは命を懸けた一撃。
想像していなかったこともあったけれど、あまりにも驚いて凍り付いてしまった。
え?マジで!?ほんとに!!?
みたいな感じ。
結構、個人的にはショッキングなシーンでした。
ヒマリにとっても、これはショックだったと思うんですよね。
これも「どうにもならないもの」の一つではあるんだけれど、自分の思いを
伝えることなく、この世を去るって…すごく重い。
なんか、いろんなことを考えてしまったシーンでした。
◎チョウ(菅谷桃恵さん)
天真爛漫、自由奔放。
あぁ、確かに蝶ってそういうイメージだなって思いました。
衣装も素敵でしたね。その性格設定と相まって、存在感大きかったです。
個人的に印象に残っているのは、ベラの蜜を吸うシーン。
ちょっとドキッとしましたよね、ここは。
おー!?って思ってしまった(語彙力)。
でも、きれいなシーンでした。
かなり鮮烈なイメージで脳内に刻まれているので、今でも、はっきり
思い出せる。
ちょっと余韻のある感じの演技が素敵でした。
◎サトル(平峰裕太さん)
日を追うごとに私の印象が悪くなっていくサトルさん(笑)。
でも、彼のことを責める資格なんて、自分にはないんですよね。
それなりに気を使ってはいるつもりでも、やっぱり人間としての
エゴが、他の種族にも、そして人間にも出てしまう。
ある程度は仕方ないとは言いつつも、やっぱりどこか間違っている。
本作を拝見するまでは、正直、植物のことまでは考えは及ばなかったわけだし。
人間の器という意味では、正直、私なんかよりもサトルの方が
全然、上だなって思う。
彼、優しいですもん。嫉妬したくなるくらい優しい(笑)。
ところで「アイちゃん」は彼の娘なんだろうか。
本作を鑑賞中はそう思ってたんだけど、台本読んだり、色々と考えているうちに、いや、もしかして彼女?とも思ったり。
今ではまた、彼の娘説が自分の中で大きくなってきてるけど、アイちゃんの設定によっては、ちょっと彼に対してのイメージも変わってくるような気がします。
もうちょっとじっくり考えてみたい。
◎モーリー(小川諒子さん)
まさかロボットだったとは…
開園後しばらくの間、ずっと、テンションのメッチャ高い人間だと思って
ました…恥ずかしい。
このモーリーの立ち位置っていうのが、本作ではものすごく絶妙なんですよね。
人間と植物や昆虫類をつなぐ存在。
モーリーの存在が、この作品の重厚さを一段どころか、数段あげているように思います。
植物の言葉を代弁することができるモーリー。
中盤から終盤にかけて、モーリーは植物たちの本当の思いを汲み取り、サトルに進言するのだけれど、結局、サトルの耳には届かない。
それは、この時代において、モーリー、すなわちロボットがまだ人間の補助的な存在でしかなく、人間と同列に思われていないからだったのだと思います。
もしも、この時代以降、ロボットが市民権を得て、人間と対等に近い存在に
なった時、植物たちの声は、人間の耳にも届き、カスミが理想とした世界は
現実になるのかもしれない。
でも、その時は…世にあふれる多くのSFのように、今度は人間がロボットのエゴに支配されるようになるのかな…
でも、そうなったとしたら、それは因果応報なんでしょうね、きっと…
◎新田澄海さん(主宰・作・演出)
「やさしい世界」「やさしくない世界」の主宰を務める新田さん。
Twitterとかを拝見させていただくと、とてもストイックな方なんだろうなと
感じます。
そして、きっと優しい方。
本作もやさしくない世界ではあるものの、そこで生きている人たちはみんな
やさしい。
作品から主宰のお人柄がにじみ出ているように感じました。
本作をきっかけに植物にも興味を持ちました。
花言葉や植物にまつわる神話、伝承もちょろちょと見ていますが、作中の設定とリンクして色々と想像を膨らませております。
今回から始められたという、役者応援制度。
小劇場で頑張る役者さんを応援したいという気持ちから生まれた制度とのことで、私も喜んで賛同させていただきました。
こういう動きがどんどん広がって欲しいなと思いました。
私ももっと応援できるように頑張ります。
というわけで、本作を創っていただいた劇団関係者の皆様、そして役者の皆様。
素晴らしい舞台を本当にありがとうございました。