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観劇感想文 1/26 『卒業式、実行』

corich投稿用に書いていたんだけど、まさかの『国府台ダブルス』で一括り。
頑張って短くまとめたつもりだったんだけど、それでもそれなりになって
しまった感想文を二つ並べるのも憚られたので、自分のnoteで公開する
事にしました。
劇団関係者各位的にはcorichさんに投稿した方が宣伝になると思うから嬉しいと思うんだけれど…確認不足でした。面目ない…

以下、感想文でございます。


国府台ダブルスの一翼を担う本作。
再演らしいけれど、私は初見。
冨坂さんの書かれた『宇宙からの婚約者』は拝見したことがあるけど、
アガリスクさんとしての演劇を拝見するのはこれが初めて。

アガリスクエンターテイメントと言えば、素人の私でも「あいつはすごいぜ」的な存在であることはぼんやり知っているし、去年の何かの企画で見かけた、好きな劇団ランキング的なやつでも1位だった気がするので、小劇場界隈では巨人的な(読売じゃない)立ち位置なんだろうなと勝手に思っていた。

その勝手な想像を裏付けたのが、冒頭のまだ幕すら開いていない場面でのシーン。
第2ボタンがどうのこうのというシーンなんだけど、超序盤どころか、超々々序盤である。
にもかかわらず、既に結構な熱量の笑いが起きたのには正直、驚いた。
確かに笑えるシーンではあるんだけど、個人的には「クスっと笑う」程度
だったので。

私は寄席ならまだしも、あんな開始数分であれだけの笑いが起きた演劇なぞ観たことがない。
「笑い」ってそれなりに会場の空気が温まってないと(空調的な意味ではなく)起きにくい。
だいたい、観ている側が、目の前の物語の空気感に馴染むというか、一体になるまで、それなりの時間は要するし、
「笑って良いの?ねぇ、良いの??」
みたいな観客同士が探り合うような空気が開演後しばらくはあるので、会場の空気がまだ冷えているような序盤のお笑いシーンは、ちょっとスベリ気味になるのが私の中で通例である。

再演ものだし、開演前のお客さん同士の会話を聞いていると、リピーターも多いようだったから、会場の空気が温まるまでの時間がそこまで必要でなかった面はあるのかもしれないけれど、その辺を差し引いても「アガリスクさんの演劇」に対しての信頼度の高さ、期待度の高さというのを、あの笑い声から強く感じた。すげーな、おい。

本編の方も、そんな皆様の信頼と期待を裏切らない素晴らしき一大エンターテイメントだったわけで、大いに笑って泣いて楽しませて頂いた。

大雑把に言えば賛成派と反対派の対立に中立の立場の人間が翻弄される物語なのだけれど、なかなかにそんなに単純な話でもなく、学生、教員、保護者、OB、先輩、後輩、などの個人的信条、あるいは政治的信条などなどなどが複雑に入り組み、なかなか前には進まない。

こういう展開って、時々じれったくて、もどかしく、イライラしてしまうことも私の場合は珍しくはないんだけど、何しろテンポが良いので、全く気にならなかった。

本作で私が一番すごいなと思ったのは、どの登場人物もキャラがものすごく立っていた事。

最初に本作を観劇しようと決めた時の第一印象は、
「登場人物多すぎじゃないか?」
ということ。

ところが蓋を開けてみれば決してそんなことは無かった。
もちろん、舞台上にいる時間は、キャラによってそれぞれ。
けれども各々にちゃんと重要な役割があるし、その個性も際立っている。
台本の冒頭に登場人物紹介があるのだけれど「そういやこんな人いたな」的なものは一切ない。

キャラの個性って作りすぎてしまうと、
「いねーよ、こんなやつ」
みたいなのが出来上がってしまって白けてしまうんだけど、どのキャラも攻めすぎず、かといって地味になりすぎずのバランスが絶妙で、本編とは別に、彼らを観ているだけでも十分に楽しかった。
キャラの魅力だけで、グイグイ前のめりになれる。
だからこそ、この遅々として進まない議論も気にならずに観られたのかなという気もしている。
そのキャラに魂を吹き込んでくださった、役者の皆様の技量と熱演に感謝の思いでいっぱい。

そんな魅力的なキャラの中で、とにかく圧倒的な個性とオーラを放っていたのが中田先生。
いや、もう、私、大好きです中田先生。
全キャラの中で一番いなそうなキャラなんだけど、学校っていう空間の中では、結構こういう変わった先生いたよな、と思いながら観ておりました。

その語り口も、その立ち居振る舞いも、全てが大好き。
本編での立ち位置では、マイペースすぎて、委員各位を苛立たせてしまうけれど、私は中田先生が大好きすぎて先生の話はずっと聞いていたかった。
しかも、なにげに良いこと言ってて、単なる攪乱キャラじゃない。

中田先生を演じられた中田さん(ややこしい)も素晴らしかった。
私は素人なので演技について突っ込んだコメントをすることは出来ないけれど、素人目に観て、台本上の中田先生を、舞台上で再現するのって、ものすごく難しかったんじゃないかという気がする。

特にあの口調。
あの独特の抑揚のつけ方はすごく真似したくなるんだけど、ものすごく真似しづらい。
完全に自分の体に染みこませないとああいう風にはできないような気がする。
勝手な想像で恐縮だけれど、役作りでは結構、ご苦労があったのではと素人ながらに思う次第。

演技的なものでちょっと感動してしまったのが校長先生。
確か、美術部の絵が完成してないと知った時だったと思うんだけど、激昂するシーンがあって、その時に顔が真っ赤になっておられた。

今回、私は最前列で観劇させて頂いていたので、役者様の表情というのが、ものすごく見えやすかったんだけど、あれはホントにびっくりしたな。
私は泣くことくらいはできても、演技で顔色を変えることが出来るなんて不可能だと思ってたから。

映画などに比べて演劇は物語への没入感は高い。
それが魅力ではあるんだけれど、完全にその世界の中にダイブしきれてるかと言えば、やっぱりそんなことは無い。
周りを観ればお客さんはいるし、最前列は視界にお客さんは入ってこないものの、舞台上の照明の動きとかは逆に目に入ってきてしまうから、やっぱり、頭のどこかで
「これはフィクションだ」
という意識は残っている。

それは舞台上の役者様もそういうものだと思っていた。
もちろん舞台上では与えられた役になりきるのだろうと思う。
けれど、別人格である以上、100%その人間になることはもちろん出来ないわけで、限りなく100に近いところまでどうやってもっていくかが、役者様の技量というものなのかな、と思っている。

どうにも埋められない何%かの筆頭が、人間の生理的反応、例えば涙であったり、発汗であったり、そして、顔色であったりだと思う。

浅い話で本当に申し訳ないのだけれど、素人の私にとって「演じる」ということは「~のふりをする」と同義だと思っていた。
笑っている振り、泣いている振り、怒っている振りなどなど…
そういうものの行き着いた先にプロの演技というものがあるんだろうと。

でも、そんな浅い世界じゃないんだなって、北川さん演じる校長の顔を真っ赤にして激昂する姿を見て思った。
あぁ、今、北川さんは北川校長を演じてるんじゃなくて、校長そのものなんだな、と。
観てて、メッチャ怖かったもん、校長。

中田さんと北川さんについて書きだすと余裕で5記事くらいは書けてしまうので、ここでいったん締めてしまうけれど、演劇、そして演技というものの奥深さを改めて思い知らされた気がした。演劇ってやっぱりすごい。

さて、本編の方に話を戻すと、結局、何も決まらないまま、卒業式は開会。
まさに成り行きで進行する様子が目の前で展開されるわけだけれど、ここまでひどいケースはレアだとしても、これに近いケースというのは、卒業式に限ったことではなく、どんなイベントでもあるんだろうなと思いながら観ていた。

当日パンフでも触れられている通り、この物語は、国府台高校を舞台にしているだけで、どこの組織や会社でも十分にありえる話。
そういう意味では結構身近な物語で、実際に自分が委員会の立場だったらどうするだろうかとちょっと考えたりもしてしまった。

雛形の放送の時のトーンと、揉めてるときのトーンが象徴するように、会場とその裏側は別世界。
それがだんだんと混じり合って、熊谷のスピーチをきっかけに田中のスピーチで完全に一体になってしまうのだけれど、この辺りの展開の持っていき方は、舞台美術のギミックも含めて背筋がゾクゾクするような高揚感でいっぱいになった。
熊谷のスピーチも良かったし。泣いた。

新旧の委員同士の対決でもあり、片思いの相手との対決でもあるこのシーンは、本編で最大の見どころ。
双方が顔を合わせず、マイク越しにその思いをぶつけあう設定がすごく良かった。
榎並の静かに、そして毅然として対峙するところ、めちゃくちゃカッコよかった。
こういうシーン大好き。
田中の次の手を先読みするシーンが私はすごく好きなんだけど、津和野的にはかなり複雑だったろうな。

榎並を筆頭に、卒業式実行委員のメンバーは、有志の雛形も含めて、それぞれ何となくであったり、憧れの君のためであったり、ふわっとした感じで始めたものの、最終的にはそんな思いも吹き飛び、委員たる責務を立派に果たすところが眩しいなと思う。
榎並も最後には、卒実としての思いを田中からの受け売りではなくて、自身の言葉で語れるようになっているのでは。
もしかすると、田中も委員を始めたきっかけはその程度だったのかもと想像してみたり。

その田中と榎並のその後も興味深い。
卒業式の後の約束で二人が何を語るのか。それとも語ることすらないのか。
個人的には、それぞれの卒実への思いをマイク越しではなく、対面で語り
あってほしい気がする。
二人の目指した形はそれぞれ間違いではないし、お互いにそこから発見もあるだろうから。

最終的に、卒業式は結果として双方の折衷になる。
それなりに丸くは収まるんだけれど、生徒側か、学校側かと問われれば、私は学校側だったな。
美術部の絵の問題もそうだけれど、生徒側にかなりの脇の甘さがあるのは否めないし、率直に言えば「自治」というものを履き違えている感はある。
そこに対して、学校側はかなりの寛容さと辛抱強さで、接していたなというのが私の正直な思い。
自主か、統制かという問題はとかく統制側が悪者に回ることが多いのだけれど、単純なそういう対立の図式だけに終わらせていなかった所に脚本の繊細さを感じた。

ダブルスにふさわしく、文句なしのダブルコール。
噂に名高いアガリスクさんの演劇、心の底から楽しませて頂きました。
劇団関係者の皆様、役者の皆様、素晴らしい舞台をありがとうございました!

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