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初めて書く物語②


エリーゼ物語 第2幕

アーサーが亡くなって
数年が過ぎ、
エリーゼは18歳になっていました



とても美しい姫に育ちましたが、
笑う事を忘れた人形の様になっていました。

あの日から、エリーゼの日課は時々馬小屋のアポロンに会いに行く事と、アーサーが好きだった東屋にて本を読むことだけ。


王様とお妃様は
このまま誰とも話さず、結婚もせず、エリーゼは一生を送るのか、、と
悩んでおられました。

そこで、同じ歳頃の若者をお城に呼び、エリーゼの話し相手をするようにと側近のウォルターに申し付けました。

次の日、ヴィターリ公爵の息子クリスがお城にやってきました。

東屋で本を読んでいるエリーゼを見つけると、
「お美しいエリーゼ様、はじめまして、私はクリスと申します。異国の話でも致しましょうか?」と
声をかけますが、
「聴きたくないわ」といい、
部屋に戻ってしまいました。

次の日、カミーレ伯爵の息子エドワードが来ました。

「エリーゼ様。天体はお好きですか?星座の話でもいかがでしょうか?」

「興味ないわ。」と
取り繕う島もない状態が続いていました。

侍女たちが
「エリーゼ様は小さい頃は良くピアノを弾いていらしたけど
もう、忘れてしまったのかしらね。」と話してるのを
ウォルターが耳にします。そして王様にいいました。

「王様、エリーゼ様のお話し相手になれるかもしれない、オリヴァーという者をお連れしてもよろしいでしょうか?」

王様は
「今まで何人もの若者が来てもエリーゼは見向きもしなかったではないか、
もう、望みはないのではないか?」と言います。

しかし、ウォルターは
王様の耳元で何かを囁きます。

王様は一瞬、顔色を変えました。
「分かった。お願いしよう。しかし、、、」と言いながら神に祈るような気持ちで窓の外の流れる雲に目を向けます。

翌日、
オリヴァーがお城にやって来ました。彼はスラリとした長身で、眼鏡を掛けていました。歳はアーサーと同じでした。

オリヴァーは
東屋のエリーゼを見つけると
静かに向かい側の席に座り本を読みはじめました。

エリーゼは
(この方は、私に話しかけない不思議な人。)と思いました。

次の日も、また次の日も同じようにオリヴァーは、なにも言わず、側にいるだけでしたが、
不思議とエリーゼは嫌ではありませんでした。

1週間ほど経ったある日の午後、いつもの様に東屋で2人で本を読んでいる時、
エリーゼの方から
オリヴァーに声をかけます。
「あの、、、紅茶を淹れてくださいます?」

オリヴァーは、一瞬、驚きましたが
ふっと柔らかい表情になって
「お任せくださいませ。」と
お城の中に入って行きました。

戻って来たオリヴァーの持つトレイのティーセットからは
アールグレイの芳醇な香りがしています。

「美味しい。。どうしてこんなに美味しい紅茶を淹れられるの?」と尋ねます。

「ありがとうございます。いつも、使用人が淹れてる手つきを見てますから。」と眼鏡の奥の瞳がとても優しい。

「そう。」と
エリーゼはたった一言だけ返事をしましたが、紅茶を口に含むたびに心の中の波が穏やかになっていくのを感じていました。


次の日も、その次日もオリヴァーは何も言わず、エリーゼの側にいました。

ある日のこと、
エリーゼの側にオリヴァーの姿はなく、
そんな頃から、何か楽器のような音がかすかに聞こえる様になっていました。

エリーゼは、(変ね、このお城には私以外楽器を弾く人はいないのに、、。)
と思っていましたが。特に気にもせず。
いつもの様に本を読んでいました。

ある日、エリーゼは
(今日はあの音が聞こえないわ)
と聞こえてくるはずの音の事が急に気になり出しました。


「サティ。いつも聞こえる音が今日はしないの。
何か知ってる?」

「いいえ、私は聞いた事がありません。なんのことでしょうか。」


エリーゼがお城の裏庭を散歩している時、
かすかに風に乗ってメロディーが聴こえて来ました。

(お城の上の方?)



エリーゼはその音を頼りに急いでお城の階段を駆けあがります。
(バイオリンの音だわ!)

お城の最上階の小さな部屋のドアがほんの少し空いています。隙間からそーっと
のぞいてみました。

バイオリンを弾いていたのは、なんと、オリヴァーでした。

驚いたエリーゼは
オリヴァーに気付かれないようにそっと階段に座り込み
(なんて素敵な音色なの!?)
と、その心地よい音に聞き惚れます。

部屋に戻ったエリーゼは
そのままベットに倒れ込み
耳の奥でまだ響いているバイオリンの音に胸の高鳴りが止まりませんでした。

翌朝、
食堂に行くと天窓からの光がシャンデリアに当たりキラキラと光の粒が壁を照らしています。

(こんなに綺麗だったかしら。)

エリーゼの表情はとても明るくなっていました。

それに気がついたお妃様がいいました。、
「エリーゼ…何か良い事でもあったの?」

「お母様、ピアノを弾いてもいいかしら?」

お妃様はとても驚き王様と顔を見合わせ
「もちろんいいわよ。」と優しく微笑み、涙を拭いました。


エリーゼは音楽室のピアノの蓋をゆっくり開け、立ったまま鍵盤の上に人差し指を乗せ、ラの音だけをポーンと響かせました。
(調律してあるわ!昨日のあの曲は、、確か、
ドビュッシーの「夢」だったわね。)
と椅子に座り同じ曲を弾き始めました。

その時、ガチャ!と
急に音楽室のドアが開き、
ハッとして手を止めるエリーゼ。

そこにいたのは
オリヴァーでした。

「エリーゼ様。先程の曲は、、」

「ごめんなさい。昨日、あなたのバイオリンを聴いてしまったの、
あなたの音、とても素敵だったわ。でも、なぜバイオリンを?」

「エリーゼ様が音楽がお好きな事を聞き、今までの胸に抱えている不安や寂しさを、少しでも和らげる事ができたらと思いまして。。」

「え、、、?」と言い、少しの間静寂に包まれます。

エリーゼは思い切って
「あなたのお名前、聞いていなかったわ。教えてくださる?」と尋ねます。

オリヴァーは
名前を名乗り一礼をします。

(この方のような素敵な音を奏でたい。いいえ!練習して、この方と一緒に演奏をしたいわ!)
エリーゼはもう一度音楽に向き合いたいと思いました。

それから、毎日ピアノを弾く様になりました。
側には、優しい眼差しで見つめるオリヴァーがいます。

ある夜、ピアノを弾いていると
オリヴァーがやって来て
エリーゼ様、今夜はだいぶ冷えますので、よかったらこれを、、と
自分の来ていたカーディガンを脱いでエリーゼに渡しました。

借りたカーディガンに袖を通すと、裾が驚くほど長く
(意識した事はなかったけど、、こんなに背が高いのね。)と思うと同時に自分の中に
淡い感情が芽生えていくのを、感じていました。

王様は
楽しそうにピアノを弾くエリーゼ達を見てとても喜んでおられました。




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