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「石部 目川ノ里」−参考にした地誌に物語性を加えて−『東海道五十三次』

月末の大阪遠征は卒論のための調査で向かうわけですが、かなり緊張しています。
他大学の図書館様に貴重図書を見せていただくので何かしでかさないか想像していたらブルーになっています。笑
けれどその中でモチベーションにしているのは向こうのご飯やさん探し。
2泊なので2回夕ご飯を食べられるわけですが、大学生にしては少し奮発したご飯を予約しようと考えています。
楽しみだなあ、ご飯は。

そんな緊張と娯楽の間でぐらぐらしている今日も広重。今回は『東海道五十三次』の「石部 目川ノ里」です。

東京富士美術館

◼️ファーストインプレッション

一軒の「いせや」というお店を舞台に人々の動きが描かれています。
いせやでは馬が繋がれていたり、店内に客が座っていたり、女性が商品を持って移動していたりといった光景が見られます。
旅人である客と店主の動きが宿場内での飲食店の日常風景であることが伝わってきますね。

店の表では三つの集団が動いているようです。
一番左の集団は笠を被った男性たちの集まりで、手前の数人が右の方に手を伸ばして誰かに呼びかけているようです。
ここが少し騒がしく感じられるのはその右の集団の振る舞いも影響しているのでしょう。

一つ右の集団は女性が三人と荷物持ちのような男性が一人。
女性たちが後ろを振り返って後方の男性たちを見ている様子なので、騒がしいのが気になったのでしょう。
いつの時代も「ちょっと男子〜」的な状況が起こるものですね。

もう一つ右の集団というか、二人組は後方の騒がしさとは対照的に黙々と歩みを進めている様子です。
親子でしょうか、藁でできた荷物を背負っています。

後方の集団の一人一人に対しては注目しないのに、なぜか前方の親子にはその心情や旅の背景まで想像してしまいます。
彼らの背中が語る哀愁が一際目立っており、画面の左右で世界がまるで違うようです。

今回は石部の位置、目川の位置を確認します。

◼️石部と目川

実は今回は石部という宿場で題名がついていますが、実は石部の光景ではないみたい。

どちらかというと目川という場所の光景を描いているらしいです。


石部の場所は赤ピンのあるところ。前回の水口は地図右下のエリアにあります。
ですが、今回描かれている目川はもう少し離れたところにあるらしい。


一個上のJR石部の駅の少し南に石部宿がありますが、この地図もJR石部を含めてスクショしたのでどのような位置関係かよくわかると思います。
石部宿の西の方向にまっすぐ行くと細い赤枠があります。
ここが今の目川エリアです。
当時正確にこの区画の中だったとは言い切れないので赤枠周辺としますが、石部と同じには括れないほど離れた場所にありますね。

ケンペルの「江戸参府紀行」に「村を流れている川からその名をとった目川村は、四〇〇戸ばかりで、草津から四分の一里離れた次の村である」とみえる。元禄七年(一六九四)草津宿に目川村として助郷高五九八石余で出役(深尾文書)。享保一〇年(一七二五)の改編でも同高で継承。慶応三年(一八六七)助郷高二三九石に減じられた(黒羽文書)。なお立場茶屋では目川田楽(菜飯田楽)が名物として売られた(東海道名所図会)。

日本歴史地名大系

石部というより、草津寄りであることがわかりますね。
目川では目川田楽という菜飯田楽が名物であったそう。

所名。近世、近江国東海道石部(いしべ)草津(くさつ)の間にあった村。茶屋があり名物として菜飯(なめし)田楽(でんがく)豆腐を出した。

角川古語大辞典


早稲田大学

『東海道名所図会 二』
これは今回の広重の絵と非常に酷似していますね。
もちろんこちらの『東海道名所図会』の方が先に出版されたので広重がこの資料を目にして描いたということになります。
店の表で踊っているような男性たちの集団と、それを見ている女性たちの集団が描かれている点や「いせや」の店の構図や馬の位置、女性店員の仕草においてまで非常に似ていますね。

流石に広重も取材のために滋賀県まで遠征に行くことも難しかったのか、こうした地誌を参照していたのですね。

にしても、まねしすぎだよな、、。笑

しかしなぜここを石部だと断言したのかというと、この目川の挿絵が挿し込まれているページの右ページに石部の説明がきがなされているのでここが同じような場所にあると思い込んだ可能性があります。

ここの詞書にあるとおり、菜飯と田楽は目川の名産であったけれど、その名を頂戴して菜飯や田楽を出す店のこと自体を目川と呼ぶようになったそうです。


あの哀愁親子は菜飯をちゃんと食べられたのかな。
お腹を満たして旅を続けられているといいなと思っています。

今日はここまで!
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