大学の有機化学:酸塩基
こんにちは.
今回は酸塩基に関する内容になります.
今回の内容も,これまでと同様に高校で学習する内容も含まれています.
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さて,今回は酸と塩基の内容になります.
一応念のため,個人での使用に留めていただいて無断転載等はご遠慮ください.
Brønsted–Lowryの定義
酸塩基の定義にはいくつかの定義があります.
今回は内容に含めませんでしたが,最も基礎的(初期)の酸塩基は,
水溶液中でH⁺を放出する物質を酸,OH⁻を放出する物質を塩基
とそれぞれ定義していました(Arrheniusの定義).
その後,Brønsted–Lowryによって,酸塩基反応において,
H⁺を供与する物質を酸,H⁺を受け取る物質を塩基
と定義されました.このことから,酸塩基反応はH⁺の移動でとらえることができます.
酸塩基反応の一般式は,酸がH⁺を塩基に供与する形で書くことができ,図のような式になります.ここで,HAは酸(酸:acid),Bは塩基(塩基:base)を表します.また逆反応を考えると,BH⁺が酸として働きA⁻にH⁺を供与しています.そのことからA⁻のことを共役塩基,BH⁺を共役酸と言います
酸性度の評価
水H₂Oとの反応を考えることで酸性度の評価をします.酸と水の酸塩基反応の化学反応式は以下のようになります.
HA + H₂O ⇄ A⁻ + H₃O⁺
この反応の平衡定数について考えると,平衡定数は(右辺)/(左辺)を濃度で表すので,
K = [A⁻][H₃O⁺] / [HA][H₂O]
で表すことができます.水の濃度[H₂O]は一定と考えてよいので,平衡定数とまとめると,
Ka = K[H₂O] = [A⁻][H₃O⁺] / [HA]
と新しい定数Kaを定義することができます.Kaを酸解離定数と言います.ここで酸解離定数について,Kaが大きいことは[A⁻][H₃O⁺] > [HA]に対応するので,[H₃O⁺]が多い,すなわち酸性度が大きいことに対応します.一方,Kaが小さいことは[A⁻][H₃O⁺] < [HA]に対応するので,[H₃O⁺]が少ない,すなわち酸性度が小さいことに対応します.
酸解離定数を用いれば酸性度の大きさについて評価することができます.一般的に酸性度の評価にはpKaという値が用いられます.
pKa = - log Ka
この式からKaの大小とpKaの大小は逆なので,pKaが小さいことは酸性度が大きいことに対応し,pKaが大きいことは酸性度が小さいことに対応します.KaとpKaの関係についてはKaに限ったことではなく,他の変数でも用いることができます(pX = - log [X],例:pH = - log[H⁺]).
水のイオン積
次に水と水の酸塩基反応について考えてみることにします.化学反応式は以下のようになります.
H₂O + H₂O ⇄ H₃O⁺ + OH⁻
この反応の平衡定数について,
K = [H₃O⁺][OH⁻] / [H₂O]²
と表せます.酸解離定数のときと同様に水の濃度は一定と考えると,
Kw = K[H₂O]² = [H₃O⁺][OH⁻] = 10⁻¹⁴ mol² L⁻² (25℃)
と新しい定数Kwを定義することができます.これを水のイオン積と言います.この値は25℃で10⁻¹⁴ mol² L⁻²で一定です.
酸性度の比較
酸の反応
HA + H₂O ⇄ A⁻ + H₃O⁺
について,より強い酸はHAよりA⁻の方が安定であることになります.一方,より弱い酸はA⁻よりHAの方が安定であることになります.このことを踏まえると,2つの酸があってそれらの酸性度の大小を比較するとき,共役塩基A⁻の安定性を比較すればよいことになります(共役塩基が安定な方が強い酸).
共役塩基の安定性について,
まず,電気陰性度の大きな原子上の負電荷は共役塩基を安定化させます.
次に,H-Aの結合が弱ければ,酸性度は大きくなります.H-Aの結合が弱いということは,H-Aの結合が切れやすくH⁺を放出しやすいことになります.H⁺を多く放出する物質は酸性度が大きいことになるので,H-Aの結合が弱ければ,酸性度は大きくなります.
最後に,負電荷の非局在化は共役塩基を安定化させます.結合間の電子の押し引きに関しては誘起効果と共鳴効果があります.これらの効果を考慮した結果,生じた負電荷が分子に万遍なく分散(非局在化)すると共役塩基は安定化されます.これは共役塩基だけではなく,電子(負電荷)の非局在化はその化学種を安定化させます.
酸塩基反応の予測
ここまで酸塩基反応について考えてきましたが,酸性度の大きさを表す指標であるpKaを用いて,酸塩基反応が進行するかどうか判定することができます.
酸塩基反応が進行する条件は,
より強い酸とより強い塩基からより弱い酸とより弱い塩基が生成する方向
となります.ここで酸とその共役酸のpKaを比較して,酸の方がその共役酸より酸性度が大きければその反応は進行することになります.例では,アセトンとアミドイオンの反応が進行するかどうかを判定しています(式は図を参照).ここで,塩基として働いているアミドイオンの共役酸はアンモニアになります.アセトンとアンモニアのpKaを比較すると,アセトンはpKaが約19,アンモニアは約36になります.pKaは小さいほうが酸性度が大きいのでアセトンの方アンモニアより酸性度が大きいことになります.酸の方が共役酸より酸性度が大きいので,この反応は進行すると判定することができます.
Lewisの定義
ここまではH⁺の移動で酸塩基反応をとらえてきました.ここでは,電子対の移動で酸塩基反応をとらえるLewisの定義を導入します.Lewisの定義では,
電子対を受け取る物質を酸,電子対を供与する物質を塩基
と定義します.
電子対の移動で反応を記述する際には,電子対の動きを巻矢印を用いて表現します.巻矢印は必ず電子対から書き始めます.電子の移動先(原子や結合など)に矢印の先を書きます.先のアセトンとアミドイオンの反応の巻矢印を用いた記述は図に書いたようになります.アミドイオンの負電荷がアセトンの水素原子を引き抜き,C-H結合の結合間の電子が炭素原子に移動するように描きます.