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祖母が死んだ。衰えていく姿は私そのものだった。
御年90歳。ぼけ知らずのはっきりした頭脳で、目も耳も良く、病室で一緒に新聞を読んだのが彼女との最後の思い出。
きびきびした話し方も考え方も最後まで変わらなかったけれど、身体の衰えは明らかだった。
真夏の日、エアコンをつけないと室内はサウナのように暑いのに、身体は氷のように冷たい。
大好物だった蒸しパンをお土産に持っていっても一口も食べてくれない。
うとうとしていると思ったらすぐに覚醒する。よくよく聞いたら長い間まともに寝ることができていないらしい。
冷たい身体は毛布を足して、時々直接身体をさすって温めてあげられたけど、食欲と睡眠はどうにもならなかった。点滴と服薬でどうにか補っていると無愛想な看護師さんが教えてくれた。
病院側のそっけない対応が、祖母はもう長くないと暗に伝えられているようで気持ちが暗くなったけれど、当の本人が「会いに来てくれて嬉しい」と手放しに喜んでくれるから、私も嬉しくて、手を繋いで色んなお話をした。
「元気でやっているの?」と聞いてくれるから「まいにち楽しいよ」と答えたし、
「あなたの手すごく冷たい!」と心配してくれたから「末端冷え性なの」と困ったふりをした。
本当はパワハラを受けて休職中だったし、ご飯も食べれなくて、眠れなくて、身体は理由もなく四六時中冷たかった。
祖母が老衰していく姿を見て初めて、私の身体も限界を訴えているんだ、とはっきりと認識できた。
私今無性に死にたくなる時があるの。
こんなこと、正直に話せるわけがなかった。
健康体の私が、天寿を全うする祖母と同じ症状が出るレベルに死にたがっていることの情けなさ。
「幸せに、まいにち楽しく過ごしてほしい」「周りに感謝して、仲良くね」「多少の困難は負けん気で乗り越えて」
祖母が伝えてくれた人生のイロハはひとつも守れないまま、死にたがる身体を引きずりながら、ずるずると今日も生きている。
ごめんなさい。おばあちゃんが思ってくれるほど、私は自分のことを大切には思えない。
きっと今、おばあちゃんは天国にいるんだよね?
もしそちらで会えても、私のことは無視してほしい。おばあちゃんとの約束も守れず、お願いも叶えられなかった私の、ボロボロでみすぼらしい姿、どうか見ないでほしい。
逞しく生き抜いたあなたの死に際に、何も成し遂げないまま共感してしまうような出来損ないでごめんなさい。
この孫のことはどうか忘れてください。