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FREEK TALK #005 小腹に聞く「ZINE」のはなし

文/構成:とんこ

本企画は、編集部員であるとんこが毎回異なるゲストを呼び、その人の「好き」を「自由」に語ってもらいつつ、根掘り葉掘りおしゃべりするものです。
今回は、編集部とんこと一緒のサークル「なくてもいいBOOKS」としてZINEを作っている小腹がゲスト。まさにそのZINEについて、お気に入りのものやZINE作りってここがいいよね!という思いを熱く語らいました。


とんこ
 そもそもなんですが、いつからZINEというものを知ってた?ZINEについて改めて定義を書いておくと、「《magazine(雑誌)の略》雑誌。特に、少部数の自主制作雑誌。」と大辞泉にはありますね。

小腹 高校生の頃は知らなかったね。漫画の同人誌とかは近所の古本屋にも売ってたんだけど、いわゆるZINEと呼ばれるものとかミニコミ、リトルプレスは知らなかった。大学で、我々は出版文化にほど近い学部に所属していたわけじゃないですか。そうなるとなんとなく周りで観測するようになるじゃん?

とんこ いまいち覚えてないんだよね…。

小腹 トミヤマユキコ先生がZINEを作る授業をしてたんだよね。私は抽選に漏れたか何かで参加してなくて、でもトミヤマ先生がSNSで学生たちが作ったZINEを紹介してて。それががっつり存在を知った瞬間だったかな。「#編集実践」で検索すると今も見られるよ。

とんこ (調べて)わ、この水についてのZINE、めちゃくちゃいいな…。

小腹 この一連のツイートを見て餅井アンナさんの『食に淫する』ってZINEを買ったんだ。食と性にまつわる映画・文芸作品へのレビューやエッセイが載ってる。続刊に、パフェ評論家さんへのインタビュー回もありました。ZINEというものをはっきり認識したのはこれが初めてだったな。

餅井アンナ『食に淫する』1~3

とんこ 私たちは自分たちでもZINEを作ったじゃないですか。一緒に作っておいて私が聞くのもアレだけど、やっぱり概念を知ったら次は自分でも作ってみたいと思ったの?

小腹 思ったから作ってるんだろうね。でもそこに執着があるかと言われたら、そういうわけでもないかも。単純に大学生の時は他にやることがいっぱいあったし。卒業もしてある程度時間ができた時、作ってみたいなという軽い気持ちで始めたね。

とんこ なるほどね。ちなみに、どんなZINE持ってる?

小腹 建物、街、モノ系が多いね。モノ系だと『収集百貨』っていうZINEを持ってるよ。雑紙とか小物とかおもちゃとか、ちょっとレトロなものの写真がひたすら載ってる。この膨大な情報量すごいでしょう。

『収集百貨』1~3

とんこ これ、見たことある!

小腹 色んな本屋さんで見かけるし、新刊も出てるしね。このガチで断捨離の逆をいくような、必要のないものを集め続けるみたいなところが好き。去年私たちがつくったZINEを見たらわかると思うけども。ZINEがまさに絶対的に必要なものでない上、内容もそういうものなのがザ・ZINE。

とんこ 私らの去年1冊目として作ったZINEのテーマ、まさに「なくてもいいもの」だもんね。

とんこ 『収集百貨』、ビジュアルがビビットでかわいいね。

小腹 デザインの参考にもなるので重宝してます。銭湯の写真集もお気に入りだな。台南のホテルのZINEも持ってる。時間が積み重なってるのを感じるような建物が好きで。

FUJIO KITO『銭湯/SENTO』、あべゆり『小町湯』
necco(ぶちこ)『新東亞旅埕 台南百年老屋民宿』

とんこ 建物自体の作りが凝ってるとかより、背景や歴史もある方がグッとくるのかな。

小腹 両方あると嬉しいかも。インテリア系ではゆきさんという方が出している『部屋本』『私の好きなインテリア』がお気に入り。建築業界で働かれている方みたいで、お部屋とインテリアのイラストと、それについてのコメントが載ってる。アナログっぽくもありデジタルっぽくもあるこの絵がまず大好き。誰に言われるでもなく、自分の好きなものについてつらつらと書いてるのもいい。

ゆき『部屋本 インテリアオタクの偏愛暮らし』『私の好きなインテリア』

とんこ 「もの」を語るZINEは私も大好き。

小腹 京都のhoka booksが出している『たやさない』もおすすめ。超ミニサイズの雑誌のような本なんだけど、副題が「つづけつづけるためのマガジン」。続けることってとりわけ社会人になってからはやっぱり難しいじゃないですか。それについて各々が考えてるZINEです。vol.03とvol.04だけ持ってて、vol.03が「創作と生活」特集で。書き手の皆さんが「たやさない」というテーマを念頭に置きつつ、日々何を作ってどういう風に暮らしているかを書いてる。エッセイというか思想の本という印象かも。好きですね。

嶋田翔伍(烽火書房)『たやさない つづけつづけるためのマガジン』vol.03,04

とんこ 仕事・暮らし哲学みたいなことかな。

小腹 まさに。vol.04の特集は「恥ずかしげもなく、野心を語る」。他の人の野心を聞くことによって、続けていくモチベーションになった…ということが書かれていたかな。「たやさない」は見た目も可愛いし文庫サイズですぐ読み終わるけど読み返したくなっちゃうし、おすすめです。

とんこ めちゃくちゃ良さそう。買っちゃおうかな。

小腹 モチベーションと言えば、ZINEのカルチャーとかZINEを作ることってって虚無から一番遠いところにあるよね。全部自発的に内容を考えて、編集して、デザインして、印刷して売って。自分に全てが懸かってる。イベント会場もいい感じの熱量だし、みんな楽しんでやってるんだなって感じられる雰囲気が好きなのかも。「無じゃない!」みたいなね。普段、虚無に陥りがちなんで…。

とんこ わかるよ。ZINEを出すまでのスケジュール頼りで生きていけるよね。ZINEづくりって人を巻き込んだものであればあるほどやることが多いし。

小腹 新刊(※詳細は末尾へ!)を作るにあたって15人にお願いしてわかったけど、めちゃくちゃ大変だったね。

とんこ 本当、色々な取りまとめありがとうね〜。

小腹 いえいえ、こちらこそ。まだおすすめのZINEあるよ!一つは『離婚って、ふしあわせ?』。京都にあるシスターフッド書店 Kaninが出してる。フェミニズム、ジェンダー関連の本をいっぱい置いてくれている本屋さん。そこの店主さんが二人とも離婚を経験されてて、WEBで離婚についての文章を募って1冊にしたもの。離婚ってどうしても負のイメージがついて回るけど、実際はどうなのかとか、違う視点で考えてみたりとか、離婚に対するマイナスイメージや罪悪感を払拭するような文章がいっぱい載ってます。

シスターフッド書店Kanin『離婚って、ふしあわせ?』

とんこ Kaninのサイトを見てるけど、THE・シスターフッド書店って感じの選書だね。

小腹 Kaninは本棚を見てるだけでも楽しいよ。あと、とれたてクラブさんの漫画同人誌『祈りとスキンケア』もいいですよ。ゲイの漫画でありBLである。このちょっとラフな、80~90年代ぐらいの線の感じがいい。

とれたてクラブ『祈りとスキンケア』

とんこ 確かに、少し昔の雰囲気があるね。

小腹 あらすじとしては、主人公はミチっていうゲイの男の子なんだけど、「家父長制的でモノアモリー的で(男性としての)特権性のある恋愛観」に待ったをかけているがゆえに失恋してしまって、めそめそ川沿いを歩いてたら、関東大震災の朝鮮人虐殺の追悼碑(手作り)に手を合わせているユンジェという男の子と出会うところから始まる。その二人が「パレスチナで起きている虐殺について調べてみよう」って調べていくうちにちょっとずつ距離が縮まっていき、でも社会と属性が二人の関係の邪魔をして…という展開。ミニマムかつ大きな話をしていて、パレスチナへの連帯に繋がっていくんだよ。

とんこ タイトルがおしゃれだなって思ったけど、そこからは想像できないようなあらすじだ。

小腹 「スキンケア」って、祈りと連帯の喩えとしてユンジェくんが言ってたことだけど、キャラ達のセリフやことばの選び方に注目してほしい!主要キャラの二人の教養ゆえの皮肉とお茶目さがとても魅力的。って過去に自分でやったインスタライブで私が言ってました。

とんこ 気になりすぎるな…。

小腹 他に、ZINEやミニコミ文化について概観したいぜって時には、ばるぼらさん・野中モモさん共同編著の『日本のZINEについて知ってることすべて』がいいよ。ZINEのあれやこれやが書いてあります。60年代、70年代は思想を軸に集まって作ったペーパーが多いなとか、デザイン系は昔からあるんだなとか思いながら読んでます。

とんこ 歴史からきちんと紐解かれてるんだね。これ、2017年発売か。そこから10年くらい経った今の状況もいつか書かれる日が来るのかなあ。シンプルに、ZINE作る人口は右肩上がりなんだろうな。

小腹 ツール的にも作りやすくなってるしね。

とんこ イベントの盛り上がり方もすごいよね。5月の文フリに遊びに行った時、帰りの流通センター駅のホームで何人も買った本を電車待ちながら読んでるのを見て、いい光景だなと思った。なんというか「こんな場所があったんだ」と。

小腹 会社で働いてると、ターゲットを決めてどうしたらたくさんの人に手に取ってもらえるか考えるけど、そういうのとはまた違うからね。

とんこ 多くの人に手に取ってもらえるようなものになったらそれはそれで嬉しいけど、でもやっぱり出したいものを出したいっていうのが一番ですよね。そう言えば私も今回、持ってるZINEを引っ張り出してみたけど、食べ物関係が8割ぐらいかも。あとは日記本も多い。私の友達には知らない人のエッセイとか日記には興味がもてないって人もいるけど。面識ないし、今後会うこともないだろうという方の日記もいくらでも読めちゃうんだよね。

小腹 結構狂気に近いよね…。どういう気持ちで読んでるの?私も全く知らない人の日記とかはあんまり読めないかも。知り合いの知り合いの知り合いぐらいまでだったら読める。

とんこ 他人に興味がありすぎる可能性が高いな。パーソナルかつどうでもいい話を聞くのが本当に好きで。仕事とか恋愛とかよりも、好きな野菜ランキングベスト3とか、家事を普段どうやってこなしてるみたいなことに一番興味があるんだよね。

小腹 それは私も好き。面白いよね。

とんこ 人と直接話してる時にそういう話ってあんまりしないけど、日記だと朝起きて何してっていう、人にわざわざ話さないことも見えるのが面白いなと。

小腹 今回作ったZINEでも、日記を書いてって言われないと書かれないことをたくさん読ませてもらった。話は少し変わるんだけど、最近思うのが、そもそも「読む」って「書く」とか「作る」よりも難しくない?と。文章に対して自分が思うことに正解がない分、ずっと感想が宙に浮いたままというか。読む時間を取れないみたいな問題もシンプルにあるしね。

とんこ その気持ち、すごく分かります。今、平野啓一郎さんの『本の読み方』っていうスロー・リーディングを提唱している本を読んでて。私は家に本が山積みになってるのを見て焦ってざくざく消化しがちだけど、やっぱり本当の意味では読めてないんじゃないかとか、考えさせられてます。元々全くスローリーディングタイプではないのもあるが。

小腹 走り抜けるタイプですか?

とんこ 走り抜けられなかったら一旦読むのをやめるタイプ。でも今、そういう意図で話してなかったけど、ZINEって基本的にそんな厚みがないじゃん。集中すれば数十分とか読めるものが基本的だし、この手軽さも好きなところかも。うちはトイレの大きめの棚にがさっと並べてるんですけど、トイレ読書にちょうどいいくらい。

小腹 すぐ読めるとちょっとした達成感も積み重ねられるしね。私たちが作ったZINEはかなり分厚くて、ZINEというより「本」って感じだけど。

とんこ そうだね笑 いや〜、今回は私も好きに話したな。

小腹 このFREEK TALKって企画に対してもメタな話をした気がするね。


2人の所属する「なくてもいいBOOKS」から、新刊『あなたと関係してしまった記録』が9月に発行されました。
友達、恋人、夫婦、フォロワー、二度目まして同士…いろいろな「ふたり」による日常の記録と、各々が経験やフィクションを通じて「関係性」について考えた記録です。
内容詳細・購入方法などは以下からご覧ください!
(文中に登場した既刊『のみものZINE:なくてもいいもの』も同ルートでお求めいただけます。)


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