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FREEK TALK #006 岩井ダダンダンに聞く「M-1」のはなし

本企画は、編集部員であるとんこが毎回異なるゲストを呼び、その人の「好き」を「自由」に語ってもらいつつ、根掘り葉掘りおしゃべりするものです。
今回は、応答編集委員の岩井ダダンダンに、年末に迫ったM-1について聞きました。が、インタビュー途中まさかの事実が発覚し……。

とんこ 岩井ダダンダン(以下、岩井)のお笑い好きなイメージは長いことあるねえ。昔から好きなんだっけ?

岩井 小学校の時から、エンタの神様とか爆笑レッドカーペットは見てたね。M-1に関する最初の記憶はオードリーが出た2008年かな。

とんこ 私はドラマ(「だが、情熱はある。」)で追体験した年だ! 競馬場が敗者復活戦の会場だった回だよね。

岩井 そうそう。明確に覚えてるのはその年。うちは親父がお笑い嫌いなんだけどおふくろがお笑い好きで、たまになんとか見られてた。両親がいない別の部屋で見てたこともあったな。

とんこ 今、M-1の公式サイトを見てるんだけど、2010年から2015年までは開催されてないんだね。

岩井 いわゆる2001年から2010年が前期M-1で、2015年から現在が後期M-1って言われてる。元々は結成10年以下が条件の大会だったのが、2010年から5年のブランクができたことで15年以下になったのよ。M-1がなかった年は、今となっては演芸番組のTHE MANZAIが賞レースとして開催されてたよ。

とんこ あー! THE MANZAI、そうだったかも……。そうだ、そもそもだけど、賞レースでもキングオブコントじゃなくて明確にM-1の方が好きなんだよね?

岩井 そうだね。言葉遊びだったり、前提がひっくり返るようなネタだったりが好きなんですよ。そういうのってコントより漫才の方が多くて。コントは小道具とか使うからなかなか丸っきりは騙せないけど、今までいなかったタイプの人が急に出てくるのって、やっぱり漫才。あとはシンプルに、M-1の方がクオリティが高い気がするなあ。番組としてもだし、ネタとしても参加者数が違うからかな。今年は10000組とかエントリーがあったはず。

とんこ 確かに岩井もその一つの例だけど、近い人がたまに出る感じにもなってきてるのかも。

岩井 僕は2回出てますからね。M-1さえ優勝すれば売れるっていう夢がある大会だからもあるんだろうな。コントは2回売れなきゃいけないって言われてるんですよ。優勝した時のコントのキャラに加えて、自分そのものでも跳ねなきゃいけない難しさがある。あとはコント芸人の方が作品としての面白さを作りたい、でもおしゃべりは苦手っていうタイプが多くて、それがM-1とかに比べて華々しさが少ない理由なのかも。

とんこ 面白い分析だ。

岩井 でも最近は、コント芸人の方が時間が経つにつれて味が出るような気もしてて。今の東京03とかかもめんたる、シソンヌあたり。脚本の仕事ができるって強いし、長い時間をかけて世間にキャラがわかられていった感じがある。

とんこ 確かに、バラエティ見てるとその中の誰かしらはいるかも。M-1優勝者って、みんながみんなずっとテレビに出続けてるわけじゃないイメージもある。直近の令和ロマンもそう。

岩井 そこに関しては令和ロマンのくるまの本『漫才過剰考察』に全部書いてあります。ただこの本、めちゃくちゃ面白かったんだけど、それなりにM-1のことを知ってないと楽しめない本でもあるかも。令和ロマンとしては、テレビは自分たちでは役に立てないから出ないんだって。あとはとりあえずM-1優勝者をうちの番組に呼んで貢献してもらいましょうよ、ってテレビじゃなくて、令和ロマンさん大好きです、ここが合ってると思うんですって言ってくれるYouTubeとか雑誌の方が出たいっしょって話もしてた。これはわざと過激にした発言だろうけどね。

とんこ くるま、まさか本まで出してるとは。

岩井 テレビだけが稼ぐ手段ではないし、時代が変わってきてるよね。芸人そのものに力が集まり始めてる。優勝した後に歩む道がそれぞれ違うのは健全だと思う。。でもなんだかんだ大概はテレビ出てて、例外はパンクブーブーくらいかな。パンクブーブーは唯一M-1もTHE MANZAIも頂点取ってるのに、過小評価されてる気がする。当時の協賛会社がオートバックスで、一年はオートバックスのCMをやる流れだったんだけど、「パンク」ブーブーって名前だから縁起が悪くて取り扱いが大変だったらしいよ。

とんこ そんな弊害が笑 

岩井 他にもM-1の関連書籍があって。谷良一さんの『M-1はじめました』。M-1って、島田紳助とこの人の2人が作ったとされてるんだよね。僕は読んでないんですが、漫才ブームが下火になってた当時、漫才界を再び盛り上げるために何をしていったかが書かれてるらしい。いわゆるエピソードゼロ。NON STYLEの石田さんが『答え合わせ』、ナイツの塙さんが『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』って本を出したりもしてる。でも塙さんの本はこんなタイトルだけど、ちょうどこれが出た年にミルクボーイが優勝したし、そこからマジカルラブリーだったり錦鯉だったり、実際は関東の波が来た。

とんこ どれもこれも全く知らなかった。売れてる芸人、仕事しすぎじゃないか。

岩井 くるまの本でも塙さんと似たような主張として、関西弁が有利って話をしてて。関西弁は少ない文字数に情報を詰め込めるから短い間で話を進められるし、語尾にアクセントがあるから笑いやすい。ツッコミも、関東弁だと「なんでだよ」って言わなきゃいけないけど、関西弁なら「んでやねん」で通じるよね。ノイズを減らして大事なところを整理して届けるって意味では、デザインと近いかも。

とんこ 芸人って、お笑いそのものもM-1のことも、めちゃくちゃ分析してるんだ…。ところで、M-1見る時のルールとかってある?

岩井 前提として、我々お笑いファンにとってはM-1当日だけがM-1じゃないんですよ。まずちょうど今の時期にアップされ始める3回戦の動画を見る。誰のネタがやばいとか、好きな芸人のネタを見たりとか。迎えた当日は早めにお風呂に入って、昼から敗者復活戦を見る。僕は実際のところ、敗者復活戦は見れたり見れなかったりするからこれは理想の一日ではあるんだけど。そして決勝が始まって、23時に優勝者が決まって終わって、そこからはネットで千鳥の打ち上げの放送があるから、1時か2時までずっと見続ける。これを毎年やるね。

とんこ 長い1日だな〜。いつも人と見てるの?

岩井 僕は基本的には人と一緒に見てる。笑ってる人が近くにいてくれた方が自分も面白くなるタイプなんだよね。でも一度、お笑いに厳しい友達とキングオブコントを一緒に見たことがあって。にゃんこスターが出た年で、1本目で死ぬほど盛り上がったあの大塚愛のさくらんぼネタの後の2本目が、1本目と同じフォーマットだったんだよ。僕はそれも面白かったんだけど、その友達は同じので来ちゃったか〜って反応で。それは嫌だったな…。

とんこ お笑い、リラックスして見たいよねえ。

岩井 今年は12月22日なのか、予定入れとこう。あれ? 待って、やばい生で見れないかもしんない。その日、結婚指輪を受け取りに行って結婚式の式場の試食に行く日で…あああ、大事な用事すぎて絶対に移動できない。

とんこ たしか18時くらいから番組がスタートするよね?

岩井 がっつり被ってるよ。どうしようかなまじで、M-1を生で見れなかったことってあるか? 2015年以降ないかもしれない。とろサーモンが優勝した2017年からは確実に見てる。いや、パンクブーブーも生で見てるから2009年からずっと毎年見てるかも……動悸がしてきた…ライフワークが………いや、今は一旦インタビューに集中するか。

とんこ なんとかなるといいが……あれ、何の話だっけ?笑 そうそう、ちょうどいい時期だから今年の見どころを聞きたいと思ってたのよね。

岩井 3回戦で気になるところを見た限り、コーツがすごかった。多分限定ユニットかな。元々スパナベンチっていう学生芸人やってた時に天才だって言われてて。マセキ芸能社が目をつけたんだけど、1組だけだと感じが悪いし馴染めないんじゃないかって、真空ジェシカと一緒に引き抜かれてるね。

とんこ そんな経緯なんだ。

岩井 スパナペンチは解散したんだけど、そんな元スパナペンチの永田敬介が組んだコンビ。形式的にはブラマヨっぽくてどんどん話が飛躍していくネタで、美しいです。やりたいなと思ってもやれないような掛け合いをするのよ。1個1個の玉が重いし発想もめちゃくちゃ飛んで気持ちいい。概要だけ言うと、下着泥棒が街に現れるとカバディ部が弱くなるから、下着泥棒は憎いけど捕まえるのをやめようってネタ。

とんこ どういうこと?笑

岩井 3回戦なんてお笑い好きしか見ないって前提で、常識をぶっ飛ばしたようなネタとかも結構あるよね。ニッポンの社長とかもそう。とんこさんはエバースが好きだと思うな。みんなが憧れるしゃべくり漫才、全年齢にウケる金属バットというか。

とんこ 確かに、私はしっかり漫才感のある漫才を好きになる傾向があるね。

岩井 食べる時は右利きだけどスポーツは左利きっていうボケに対して、かっこつけんなよお前、じゃあこれは?これは?って進んでいくネタ。他にもツッコミの町田の下半身をケンタウロスに改造するネタがあって。一生のうちにかかる交通費を計算したらいくらだったから、そのお金を使って町田の下半身を馬にすれば交通費が浮くみたいな、なんとも想像力を掻き立てられる。今年か来年、エバース行きそうな気がするんだよなあ。

とんこ 勢いがあるんだねえ。

岩井 あるある。お笑いファンからはフースーヤもやばいって言われてたけど、今年は落ちちゃったね。あとはトムブラウンも面白い。今年もゴリラを3匹合体させて15リラにするネタをやってた。9番街レトロも、霜降り明星の冠番組枠の後を引き継ぐくらいの勢いだけど、落ちちゃったなあ。個人的には真空ジェシカに早く優勝してほしい。それだけです。あ、こたけ正義感とサツマカワRPGのユニットの頭虚偽罪も面白かったよ。

とんこ 頭虚偽罪、Xで流れてきたか何かでなんだこれはと思ったな。そういえば、敗者復活戦の会場って最近変わった?

岩井 去年から新宿の住友のビルの三角広場になった。ルールも変わって、視聴者の人気投票だったのが、タイマン形式で会場の客が審査する形式になったんだよ。だから実力で立ち上がれるし、でっかいディスプレーがついたから顔芸も通用する。例えばシシガシラはツッコミの脇田さんを泳がせて、浜中さんが馬鹿にしながら笑いをこらえるネタなのよ。このネタって表情が見えなかったら何も面白くないんだよね。

とんこ タイマン形式って、つまり都度都度一対一ってことだよね。

岩井 そうそう。これまではネット投票だったから、知名度と人気がある者勝ちだったんだよ。トレンディエンジェル、和牛、スーパーマラドーナ、ミキ、和牛、インディアンス、ハライチ、オズワルド…。でも去年は急にシシガシラだからね。お笑いファンとしてはかなりアツいシステム。

とんこ 審査員も、毎年のようにどんどんレベルが上がってきてって言ってるじゃん。どう選り分けていくのか、運営側も四苦八苦してるんだろうなあ。

岩井 お客さんのお笑いリテラシーも上がってると思う。今まで、出順で後ろの方が有利とされてたんですよ。会場が徐々にあたたまってきて、最初は笑いづらかったお客さんがだんだん慣れてくるから。でも去年、令和ロマンが1組目で優勝したじゃん。それって第1回の中川家以来の快挙なのよ。どんどんボケ数も多くなってきてるから、むしろ後半の方が疲れちゃってあんまりウケない現象が起きてる気がする。最初の方が新鮮に見れるし、有利なんじゃないかな。

とんこ 確かに…。一視聴者としてその感覚はわかるかもしれない。

岩井 けど逆の場合もあるんだよなあ。精密な作品を見せられた後にバカバカしいのを見ると、もうめちゃくちゃ面白くなっちゃうっていう現象。本当に運を味方につけないと優勝は難しいんじゃないかな。

とんこ 順番って恐ろしい。ここ数年やっと気づいてちゃんと見るようになったけど、10組全部面白いしな。

岩井 そもそも決勝に行ってる時点で上澄みも上澄みなのに、M-1の10位は最下位って扱いを受けるよね。いやいや、ベスト10ですから!

とんこ そうだよねえ。

岩井 僕は特に後期M-1から好きだよ。そのあたりから、うまい漫才が勝つ大会じゃなくなったんだよね。僕はザコシショウみたいな破壊的なお笑いが好みだから。それまでが、見取り図、スーパーマラドーナ、かまいたち、ジャルジャル、ギャロップ、ユニバース、ミキ、トムブラウン、和牛だったけど、2019年にすえひろがりずとかぺこぱとか、色物が上がり始めたんだよ。おいでやすこが、錦鯉、ウエストランドとかも出てきて、明確に上手さ以上に「破壊力」という別軸が現れたなと思う。

とんこ それって、見ながらリアルタイムで感じるものなの?

岩井 明確に後期の方が好きだから、2019年あたりで今年から面白くなったなって思った。そこから最近はもうずっと面白いなあ。

とんこ 今年も楽しみだ〜! ひとまず岩井は、見られるといいね…。

岩井 いいオチになっちゃったよ!


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