地域で楽しく過ごすためのゼミ 第3回 1/2

2020年8月24日、地域で楽しく過ごすためのゼミ 第2回が開かれました。

第3回の課題図書は『持続可能な地域の作り方』(著:筧裕介 2019年 英治出版)です。担当は橋本、守岡です。
この文章では、実際にゼミで使った要約文章を掲載します。

今回より担当者を2名にすることにしました。そのため要約文も2つ掲載します。

─<以下要約(橋本分)>─

(1)本の選定理由

各地で地域おこしとして行われている施策にはイベントなど一時的な効果に資金や人材が使われ、疲弊していく例が多いように感じており、次世代へ繋いでいける有効な地域おこしとは一体どんなものなのかを学びたいと思った。

(2)本の主な主題

日本の地域課題はそれぞれ独立した課題ではなく互いに影響を与え合い、時に負の連鎖を生み、地域という生態系が崩れつつある。「持続可能な地域」を実現するには、SDGsの考え方をもとに、地域内に蔓延る様々な分断を超え協働し、地域課題全体を包括的に捉えて、地域内で循環する独自の生態系を再生していく必要がある。
そのためには、「地域コミュニティ」(土)「未来ビジョン」(陽)「チャレンジ」(風)「次世代教育」(水)の4つの生態環境を地域内に整えていくべきだ。その方法論として、対話が重要であり、行政の役割はそういった対話の場づくりの援助である。

(3)論旨の展開

この本の章立てとその論旨の展開は以下の通り。
●パート1知識編
SDGsと日本の地域課題の現状を解説し、地方創生のためのSDGs活用法を提言。
<第1章> 導入 SDGsの基礎知識と地方創生のためのSDGs活用法
<第2章> 現状認識 日本の地域課題の現状をSDGsの17ゴール別に55個紹介
<第3章> 提言 持続可能な地域づくりに必要な4つの生態環境を提言
●パート2実践編
第3章で提言した生態環境の方法論を解説し、各章ごとに行政が担うべき役割を提案している。
<第4章> 生態環境①地域コミュニティ 対話によるコミュニティ力を高めて成果の質を上げる
<第5章> 生態環境②未来ビジョン 住民の対話から作り出すビジョンで未来を明るくする
<第6章> 生態環境③チャレンジ 個人の思いが仲間との対話でチャレンジを引き起こす
<第7章> 生態環境④次世代教育 対話型デザイン教育でAI時代に必要な思考力を高める
<終章>  筆者が感じた、地域にある「真の豊かさ」について解説
     (論旨上のパート1、パート2との関連性は見当たらない)

(4)各章の要約 

※本書で「地域」と言う言葉は(3)の人口減少が急激に進む小規模な基礎自治体を指している
(1)都心・経済成長追求地域(2)郊外・超高齢化地域(3)中山間・超人口減少地域


★パート1 知識編 地域の持続可能性とSDGsを理解する

<第1章 導入 SDGsと地方創生>

●SDGs(持続可能な開発目標)の基礎知識
①途上国から先進国まで全世界、全地域共通の目標
②産学官民、全セクター、市民一人ひとりが主役
③誰一人取り残さない
④3領域、17ゴール、169ターゲット
⑤2030年が目標の期限
●目標達成のためのSDGsアプローチ
①イノベーションとスリム化
②包括性とパートナーシップ
③バックキャスティング:未来から考える
●本書で定義するSDGs
住民、事業者、行政職員など、地域内外の様々なステークホルダーが自分の立場・領域を超えて、ともに幸せな地域の未来の姿を描き、その実現に向けて、みんなで協働して取り組むチャレンジ。
●地方創生の成果が上がらない理由の一つが、地域内に蔓延る様々な分断(官民の分断、縦割り組織の分断、現在と未来の分断、地域間の分断、世代の分断、ジェンダーの分断)である。この分断を超えるためにSDGsアプローチが有効である。
●地方創生のためのSDGs活用法
1 未来地図:未来への旅路をナビゲートする
2 共通言語:組織・セクターを超えて対話する
3 地域づくりの入り口:みんながどこかに関心を持てる169ターゲット
4 ものさし:世界レベルで地域の現状やSDGs進捗を測る
5 チェックリスト:誰一人取り残さないための検討リスト

<第2章 現状認識 日本と地域の持続可能実態>

地域の様々な課題は根底でつながり、互いに強く影響しあっている。目の前の一つの課題の対策域の様々な課題は根底でつながり、互いに強く影響しあっている。目の前の一つの課題の対策だけでは、根本的な解決には至らない。直接関連している領域に限らず、地域課題全体を包括的に
理解する必要がある。日本の地域が直面しているローカルイシューを55個、SDGsの17ゴール別に、課題の現状と未来
の方向性を紹介。(p 52~)

<第3章 提言 地域の生態系を再生する>

●地域は生きている
地域を構成する要素は互いにつながり、機能を補い合い、常に少しずつ入れ替わりながら、一定の平衡状態を保っている。地域は生物(生命体)だ。
地域とは動的平衡状態にある一つの生命体であると同時に、無数の生命体が集まりつながり、循環している生態系である。持続可能な地域とは、時代環境の変化に応じて、要素同士の相互作用により、失った部分は補い、傷ついた部分は修復し、新しい機能を加え、進化を遂げていく、好循環の「生きているシステム」が存在する地域である。

●生態系を壊す負の連鎖構造
地域課題の相互関係を示した負の連鎖マップ(p 146)では5つの負のループが見える
経済衰退ループ、生活困難ループ、孤立無縁化ループ、教育水準低下ループ、環境破壊ループ

●地域課題の深刻化・悪化を引き起こす、2つのレバレッジポイント
①コミュニティの弱体化 ②若者の流出・地場産業の衰退

●再生に必要な4つの生態環境
「持続可能な地域」を実現するには、外部に流出する流れを食い止め、地域に人と経済の流れを生み出し、地域内で循環する独自の生態系を再生する必要がある。そのために、「地域コミュニティ」「未来ビジョン」「チャレンジ」「次世代教育」の4つの生態環境を地域内に整えていくことが重要だ。

★パート2 実践編 持続可能な地域づくりを実践する

<第4章 土 つながり協働し合う「地域コミュニティ」>

●つながりが地域と住民にもたらす効果
①幸福度を高める
②生命力を高める
③生産性・創造性を高める
④利他性を高める
⑤経済的利益を生む

●コミュニティを育む
地域に必要なのは、地縁型とテーマ型という2つの既存コミュニティが融合した、特定の地域課題解決のために集まるタスクフォース型コミュニティである。地域に深くコミットしつつも、出入りが比較的自由で義務的ではないもの。地域と縁が薄い移住者や若者にとってはタスクフォース型コミュニティが地縁型コミュニティへの入り口にもなる。

●関係の質を高める対話
個人の思いを深める内省的ダイアログ、チームでの思考と行動と結果の質を高める生成的ダイアログという2種類の対話を通じて、個人は成長し、コミュニティも進化する。対話を通じて、コミュニティのレベルは(他人ごと段階)から(対象化段階)、(自分ごと段階)へと進化していく。当事者認識をもち、主体的に行動できる人が増えれば、地域はコミュニティの力を強めていく。

●行政の役割
①良質な対話の機会を増やす
②ファシリテーターを育てる
③行政が組織の壁を超えて一つのチームになる。
④マイノリティのためのタスクフォース型コミュニティを設立・支援する

<第5章 陽 道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」

●ビジョンの役割
①持続可能な未来への道しるべ
②現在思考から未来思考への転換
③住民のエネルギー源、行動の動機、地域愛の醸成
④チーム力を上げる絶好の機会
⑤地域外からの求心力を生む

●ビジョンづくりのポイント
①みんなでつくる
②個人の思いを緩やかに束ねる(取捨選択や合意ではなくみんなが共感できるもの)
③プロセス重視(対話の意義と共創のプロセス)
④未来へジャンプする工夫(理想的なビジョンを長期的に描く)
⑤誰一人取り残さない
⑥伝わるデザイン(地域内外の人を動かす言葉とデザイン)

●ビジョンづくりの工程
想いと仲間を集める→未来を語り合う→ビジョンを表現する

●行政の役割
①チームをつくる
②過去・現在・未来を確認する
③行政施策へと落とし込む

<第6章 風 一人ひとりの生きがいを創るチャレンジ>

人口が減少しようとも、チャレンジ人口さえ維持できれば、日本社会、地域社会の活力を保つことができるはず。
●チャレンジを起こすために必要なのは「熱=個人の思い」と「仲間」

地域の内から湧き立つ「地熱」、よそ者が持ち込む「外熱」、内と外の相互作用で生まれる「化学反応熱」。これらの熱を生みチャレンジを起こすには「仲間」との「対話」が重要である。

●チャレンジを起こすステップ

0対話の場を設計する
1自分と仲間と地域を知る
2イシューを定める
3発想する
4自分と仲間で深める
5持続可能性を検証する
6はじめてみる

●行政の役割
①チャレンジの伴走者になる
②熱の発生・伝播装置をつくる
③地域内外人材を呼び込み、定着させる
④優先課題を決め、職員自らチャレンジする

<第7章 水 未来を切り拓く力を育む「次世代教育」>

●地域の子どもを取り巻く社会環境変化
①拡がる学習機会の格差(都会と地域における学習意欲や将来展望、自己肯定感の格差)
②弱体化する育の生態系(中高生の思春期におけるつながり格差、外の師匠不足)
③激変する働く環境と必須スキル(AI代替時代に必要な思考力)

●そんな時代の中高生の地域教育に「対話型デザイン教育」を提案する。
①生徒同士が、教え合い、刺激し合い、学びの意欲を高め合う授業
②生徒自らが、自分なりのゴールを設定し、自ら行動する授業
③人・地域・社会が抱える課題解決に取り組み、具体的なカタチにする授業

●行政の役割
①組織横断型プロジェクトを作る
②チャレンジ人材と学校をつなぐ
③教員の地域活動への参加を促す
④対話技術を学ぶ機会をつくる
⑤誰一人取り残さない、公教育を実現する。

<終章 epilogue 地域にある真の「豊かさ」>

筆者が感じた、地域にある真の「豊かさ」を解説。
①貨幣経済に依存しない豊かさ
貨幣経済依存の大都市では、人間関係が希薄になり、道徳心が薄れる。贈与経済や自給経済、共有経済など複数の経済を使い分ける地域では「ギブ」から始める不等価交換で、人が支え合う関係を作る。

②正しい時間で生きる豊かさ
資本主義や金融の仕組みの中で、超高速で生きる大都市と違い、地域では、四季ベースの緩やかな時間の中で、共同体や仕事に手間隙をかけることができる。

③自分の仕事ができる豊かさ
産業革命による分業で、経済的豊かさを享受した一方で、精神的豊かさが犠牲になった。情報革命によって個別化された商品を届けられる現代、公私一体で、自分の仕事を作りあげられる地域での暮らしは豊かだ。

④百姓として生きる豊かさ
専門性を求められる大都市に比べ、地域では百姓経済、兼業感覚があり、複数の知の領域を自在に横断して、100万分の1の価値を生み出し、自分だけの働き方ができる。

⑤身体と技術を使いこなす豊かさ
産業革命が奪った仕事の喜びと個性を、情報革命が取り戻していく。地域では、テクノロジーによる「機械の知」と、自然環境で培われる「身体の知」を融合し「手ごたえ」ある働き方ができる。

(5)本全体の要約 

「持続可能な地域」を実現するには、SDGsの考え方をもとに、地域内に蔓延る様々な分断を超え協働し、地域課題全体を包括的に捉えて、地域内で循環する独自の生態系を再生していく必要がある。そのためには、以下の4つの生態系を地域に整える必要がある。
対話によるコミュニティ力を高めて成果の質を上げる「コミュニティ」
住民の対話から作り出すビジョンで未来を明るくする「未来ビジョン」
個人の思いが仲間との対話でチャレンジを引き起こす「チャレンジ」
対話型デザイン教育でAI時代に必要な思考力を高める「次世代教育」
行政は、そういった場を作る援助をすべきである。
地域には、産業革命以降の大都市で失われてきた真の「豊かさ」があり、現代では情報革命によって、そういった地域の「豊かさ」にさらに価値が見出されている。

(6)感想・批判

総じて、コミュニティや対話の重要性を述べていて、その場をどう行政が作るかが書かれている。
対話やコミュニティ単体では成果が見えにくく、チャレンジの増加や地域の魅力が向上することによる移住者の増加として成果が現れることとなる。行政の性質上、成果が求められるが、地域の魅力を向上させるという成果が見えにくいものが地域おこしのゴールなのだろうか。
対話には、ファシリテーションなどの能力が必要で、取り入れるためには誰かがその手法を習得しなくてはいけないことがネックだ。
本書の提言を受けて、自分の地域や他地域の地域活動について、4つの生態環境が整っているかという指標で地域おこしが進んでいるかについて評価することができる。確かに、4つの生態環境を実現している地域では、魅力ある地域づくりが行われているようにも感じる。
SDGsアプローチの3つのうち、「包括性とパートナーシップ」「バックキャスティング:未来から考える」については提言に盛り込まれているが、「イノベーションとスリム化」についてはあまり触れられていない。手間隙かけることや対話することを重要視している一方で、その実行を助けるはずの生活のスリム化やイノベーションの導入についての手法の記述が見当たらない。対話の重要性については賛同するが、地域づくりの担い手が多忙であることも多く、そこを解決しなければ対話の場づくりも難航するのではないか。現状の地域づくりとして有効ではないものを削減し、その代替として対話の時間を作りたい。
筆者が定義する「真の豊かさ」は、地域の現状を称賛しているように感じる。筆者は地域の暮らしにおける精神的豊かさを重視しているがそれは一面に過ぎず、経済的豊かさや文化的豊かさなどをバランスよく享受できることが理想ではないだろうか。経済的に不安で、地域の将来に希望を持てない親世代の姿を見た若者が地域から離れていくのが現状である。情報革命後の現代だからこそ、大都市の暮らし方の利点を享受しながら地域で生きていくことが可能になっているのではないかと思う。地域も貨幣経済の中にあり、貨幣を稼ぎ、地域経済が循環しない限りは若者誘致も難しく、持続可能な地域には遠く感じる。筆者はなぜ終章として論旨と離れた、豊かさについて語ったのかその真意はわかりかねる。

─<以上要約>─
次に続きます。

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