村岡英明先生「若手歯科医師のための臨床の技50」総義歯を読んで⑧
咬合高径の設定
臨床での基本的な考え方
最後の決め手となるのは「患者さんの自然な表情や顔つき」です。特に問題がない場合は現在の咬合高径を変更しない方が無難ですが、変更が必要なケースも当然存在します。
旧義歯がある場合の対応
旧義歯がある場合は、まずその義歯を装着した状態での顔貌を注意深く観察します。顔つきに違和感がなければ、同じ咬合高径で新義歯を作製することが望ましいでしょう。しかし、旧義歯の咬合高径が明らかに低いと判断される場合は、咬合面や唇側にロールワッテを用いて顔つきを観察しながら、新しい咬合高径を模索していきます。
旧義歯がない場合の手順
旧義歯がない場合は異なるアプローチが必要となります。まず上顎のろう堤中切歯切縁部を上唇と同じ高さにします。具体的には、上顎のろう堤を装着した状態で唇を閉じ、そこにナイフを差し込んで高さを確認します。これが上唇の高さとなり、前歯部ろう堤の高さの基準となります。
咬合平面の設定
この高さを基準に、鼻聴導線に平行となるよう咬合平面を設定します。下顎の臼歯部の高さは上顎の臼歯部と同じ高さにします。顎堤の吸収状態が中程度であれば、咬合平面は上下顎頂の真ん中に位置することが多いです。
次回のアポイントでは、臼歯部は両側47のみを配列し、下顎のろう堤と合わせて咬合採得を行います。この時点での咬合高径は、患者さんの顔つきを見ながら慎重に推定していく必要があります。
推定法としての位置づけ
ただし、これらの方法はあくまでも推定法の一つに過ぎません。実際の臨床では、これらを基準としながら総合的に判断を行っていく必要があります。興味深いことに、名人や達人と呼ばれる複数の先生方に同一患者の咬合高径を推測してもらうと、それぞれに異なる値が出ることがあります。
このことは、咬合高径には一定の許容範囲が存在することを示唆しています。しかし、経験の浅い術者がこの許容範囲を逸脱してしまうと、患者さんが受け入れられない結果となってしまう可能性があります。そのため、特に経験の少ない段階では、より慎重なアプローチが求められます。