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知財高裁判決 AIが発明者の特許出願は認められず
判決日 :令和7年1月30日
事件番号:令和6(行コ)10006
裁判所 :知的財産高等裁判所
判決文 :https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/757/093757_hanrei.pdf
人工知能(AI)を発明者とする特許出願が認められるかが争われた訴訟で、知財高裁は、「特許権により保護される発明は自然人によってなされたものに限られる」として、AI発明の出願人を敗訴とした1審判決(東京地裁2024年5月)を支持し、控訴を棄却しました。
原告は、AIがした発明について特許出願し、「発明者」の氏名として、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載したところ、特許庁長官より、発明者の氏名として自然人の氏名を記載するよう補正命令がありましたが、その補正をしなかったため、出願却下の処分を受けていました。
この訴訟において、原告は、AI発明という概念が特許法の制定当時には無かったのであるから、特許法に規定がないことがAI発明の保護を一律に否定する理由にはならないと主張しましたが、知財高裁は、特許法がAI発明の存在を前提としていないことは、特許権付与によりAI発明を保護するという立法的判断がされていないことを意味し、AI発明を現行制度の特許権の対象とする法解釈はできないと判断しました。
知財高裁は、さらに、特許権は天与の自然権ではなく、特許法に基づいて付与されるものであり、その制度設計は、国際協調の側面も含め、一国の産業政策の観点から議論されるべき問題であり、AI発明については、社会に及ぼすさまざまな影響についての広汎かつ慎重な議論を踏まえた、立法化のための議論が必要な問題であって、現行法の解釈論による対応は困難であると説明しています。
この点について補足しますと、例えば、他人の物を奪っては駄目ということは、法律の有無にかかわらず存在するルールだと考えられますので、物の所有権については「天与の自然権」であるといえます。これに対して、特許権は、特許法という法律があって初めて発生する人工的な権利なので、特許法が想定していないAI発明に特許権を与えることはできないという考え方であるといえます。
なお、原告は、世界各国にAIを発明者とする特許出願をしており、今のところ、発明者は自然人でなければならないとの司法判断が定着しているといえますが、AI発明の保護は、日本でも特許制度についてのテーマの一つになっており、AIの進歩に伴う特許制度の在り方についての議論が進むものと思われます。
本件につきましては、最高裁への上告が予想されますので、最高裁の判断が出ましたら、改めてご報告いたします。