見出し画像

034 連載小説01 災害ボランティア⑤ テント村、七尾城山野球場に到着

030 連載小説01 災害ボランティア① 序|ohshio_t (note.com)
031 連載小説01 災害ボランティア② 災難の伏線、出発の遅れ|ohshio_t (note.com)
032 連載小説01 災害ボランティア③ 勘違い、前泊も七尾市文化ホールではなかった|ohshio_t (note.com)
033 連載小説01 災害ボランティア④ 隘路に踏み込む|ohshio_t (note.com)

 しかしTが閉口したのは上り坂が多いこと、住宅街を縫うように伸びる路地を歩かなければならないことだった。通勤に自転車を愛用するTだが自転車ではぎりぎり漕ぎきれないだろう角度もあったが、目的が明確で気合が入っていたTには苦にならなかった。
 Google Mapsが示す狭い道、Tは本当にそうかと度々iPhoneを見なければならなかった。しかしやがてTのiPhoneの狭い画面に野球場が現れ、ゴールが近いと安堵することが出来た。それにテント村の受付の人が待ってくれるはずと思うことが出来、一刻も早く休みたいと思った。
 ここでTのいで立ちを記しておくべきだろう。服装については以前記したが手ぶらで災害ボランティアに参加することはもちろんない。前回、三月一日の海浜公園が集合場所での七尾のボランティアでは、Tが準備したのは防塵マスクとそれ用の手袋くらいだった。しかし失敗した能登町ボランティアの能登行きの前にレインウェアを近所のワークマンで、前日泊まった金沢で寝袋を購入していた。
 だから荷物を二つに分けて持って行かなければならなかった。一つはレインウェアや替えの下着などを詰めたザック、一つは寝袋などを入れたヤマノススメのキャラクターが描かれたショルダーバッグ。ザックはもちろん背負ったが、長い肩掛けの紐がついたヤマノススメのバッグは、胸の前で折った肘の関節で下げていた。
 低山でも山では到底許されない、咄嗟が出来るのは左手だけの危うい恰好である。それでもTは躓く石はなかったためか転んで受け身をとる羽目になることはなく、無事にテント村の受付に伺うことが出来た。
 受付の人は丁寧に対応してくれたが、またしてもTは失敗したことに気づく。木曜日のこの日は前泊になるので野球場を借りられるが次の日、つまり一泊二日で活動する場合の一泊、金曜日の夜の予約をTは入れ忘れたらしいのである。すでに埋まっているので飛び入りの宿泊は出来ず、Tの二度目の災害ボランティア活動は前回の七尾と同様、一日だけになったのである。
 それはそれでTは天の配剤とTには思えた。多分運命の女神はTの体力を考え、今回の活動の日数も一日だけになるよう仕向けたんだとTは解釈したのである。実際、寝袋での二泊の計画の甘さに気づき、Tはテント村になっているグラウンドに入る前、次の一泊二日に参加するときは前泊はちゃんとホテルに泊まろうと思っていたのである。
 受付で渡されたのは贈答品、あとで確かめたらバスタオルとフェイスタオルだった、関係書類、番号プレート、それにランタン。その発光源はもちろん火ではなくLEDのはずだった。確証できないのは厚いビニールで覆われていたからで、それを使ってTのテントに、テント村の係員が案内してくれるという。関係書類に野球場のテントの配置の見取り図はあったが、テント村が初めてのTは何処が何処だか分かるはずもなかった。(大塩高志)

035 連載小説01 災害ボランティア⑥ テント村で眠りにつく|ohshio_t (note.com)
036 連載小説01 災害ボランティア⑦ テントから撤収|ohshio_t (note.com)
038 連載小説01 災害ボランティア⑧ 七尾市文化ホールに到着|ohshio_t (note.com)
039 連載小説01 災害ボランティア⑨ 七尾市文化ホールでのオリエンテーション、そして仮仮置き場
040 連載小説01 災害ボランティア⑩ 仮仮置き場へ
042 連載小説01 災害ボランティア⑪(終) 思い出を砕く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?