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038 連載小説01 災害ボランティア⑧ 七尾市文化ホールに到着

030 連載小説01 災害ボランティア① 序|ohshio_t (note.com)
031 連載小説01 災害ボランティア② 災難の伏線、出発の遅れ|ohshio_t (note.com)
032 連載小説01 災害ボランティア③ 勘違い、前泊も七尾市文化ホールではなかった|ohshio_t (note.com)
033 連載小説01 災害ボランティア④ 隘路に踏み込む|ohshio_t (note.com)
034 連載小説01 災害ボランティア⑤ テント村、七尾城山野球場に到着|ohshio_t (note.com)
035 連載小説01 災害ボランティア⑥ テント村で眠りにつく|ohshio_t (note.com)
036 連載小説01 災害ボランティア⑦ テントから撤収|ohshio_t (note.com)

 Tは事務所にランタンを返し、七尾城山野球場を出る。降りしきる雨の中、頭は野球帽をかぶって防寒用の耳あてをかけ、その上からレインウェアのフードをかぶる。手には毛糸の手袋、ヤマノススメの半袖のTシャツは結局脱がず、その上に綿のシャツを着てレインウェアの上を着た。下は特にズボン下を履かず、コーデュロイの上はレインウェアの下だけだった。
 背にはレインウェアはないと言っても着替えとテント村プロジェクトからの贈答品を入れたザック、取っ手が長いヤマノススメの手提げバッグには乱雑に押し込んだテント。
 テントが濡れてはまずいとバッグごと大きいビニール袋に押し込んだのだが、やはり取っ手が使えないと抱きかかえる形になり、持ち歩くのに不便とTは分かった。だからアニメ絵で描かれた雪村あおいと倉上ひなたには申し訳ないのだが、雨に晒して目的地まで歩くことにした。
 昨日来た道を帰るだけだから造作もないとTは思っていた。しかし、昨日設定してくれたのは七尾市文化ホールの職員の人。今日はT自身が出発点を七尾城山野球場、目的地を七尾市文化ホールと設定し、Google様に尋ねた。つまり行きと帰りで別のルートがあり得ることを、Tは忘れていた。
 それでも最初の細かい路地は昨日の到着直前の道と見当を付けることが出来た。しかし暫く歩くと左手に広がる運動場の施設、本当に昨日右手に広がっていたのかTには確証が持てない。決定的だったのは足を突っ込んだ沼地を見つけられなかったことだった。人家の敷地内かも知れなかったが、周囲を見ながら歩いても、そんな場所は見つけられなかった。
 そんな中で墓地があったのをTは記憶していた。そして正に墓地があり、昨日のルートと重なっていることをTは確認できたのである。そして何と、Tは災害ボランティアの一回目、三月一日のオリエンテーリング/集合場所を発見した。Tは感慨を抱きつつ、素通りした。
 しかしそこでTのiPhneが機能停止してしまう。スイッチが効かなくなり、何も表示されない。後で修理に出した時の診断は、水が入ったためだった。Tもそれくらいは察しがついた。確かに昨日からの雨の中、さんざんGoogle Mapsで使い倒していた。本体カバーは強化ガラスで、防水対策が出来ていないのは明白だった。
 電子機器が使えない以上、アナログを使うしかない。といっても地図を持って来てないTには人に尋ねるしか手はなかった。幸いTが通ってきた道が大通りにぶつかり、右に行くとすぐにセブンイレブンがあった。食べてなかった朝食を買えることもあり、Tは安堵して入ったのである。
 パンの三個の会計を済ませた後、Tはついでのように七尾市文化ホールの場所を店員に聞いたのだが、最初は要領を得なかった。しかし年嵩の人が出てきて、その人は妙なことを言うとTは思った。その人は嘗ての市役所と言い出し、すぐそこ、店を出て左を歩いてすぐと言ったのである。
 それは正にTが今来た道である。Tは半信半疑だったが自信ありげな表情に押され、お礼を言ってセブンイレブンを出て、来た道を戻ったのである。
 歩いてすぐ、一分も経ったかどうかでTが確認したのは、昨日Tがタクシーから降り、明かりが点いてるのを確認してロビーに入った建物。それでTの疑問は氷解した。さっきパンを買って、場所を尋ねたセブンイレブンが、昨日Tがタクシーの中で見つけたセブンイレブンで、七尾市文化ホールはTが今いる敷地の中。
 ということはと、Tは敷地内を散策した。そしてTは三月一日に入った建物を改めて確認し、扉の上に横書きで「文化ホール」とあるのを確認したのである。Tは思った。運命の女神はどうしても自分に災害ボランティアをやらせたいんだと。
 T自身は自棄になることはないつもりだったが、取り返しのつかない状況になれば災害ボランティアから手を引くつもりだった。実際、能登入りした木曜日から金曜日の朝に七尾市文化ホールを見つけるまで、Tには判断ミスやタイミングを悪くして計画が水泡に帰すタイミングが何度もあった。しかしTは様々な機転と偶然で、今回の七尾市災害ボランティアの集合場所/オリエンテーリング会場に着くことが出来たのである。
 こうなったら運命の女神の期待に応えてやろう、そうTは決意した。(大塩高志)

039 連載小説01 災害ボランティア⑨ 七尾市文化ホールでのオリエンテーション、そして仮仮置き場
040 連載小説01 災害ボランティア⑩ 仮仮置き場へ
042 連載小説01 災害ボランティア⑪(終) 思い出を砕く

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