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186 『アオのハコ』と『タッチ』③ またしても輪島行きを計画中。
今回は下記のリンク先のコメントの続きです。
私がコメントしたらレスを戴いたので、そのまたレスを今日のnoteにしました。
「タッちゃんにはじっくり物を聞くとか見るとか…そういう部分が欠けているから…無理やりにでも連れ出そうとしたのに」
私は『タッチ』を南ちゃん視点の物語と思って読んでましたが、お隣さんの幼馴染みでも不可知の部分があると読んでました。南ちゃん自身、上杉家で二人きりになったとき、それは高二の夏の直前だったけど、「大事なところは誤魔化すんだから」と愚痴を本人に直接言ってたし。
とはいっても思いが通じているところがあるのは事実。実際上記の日の夜、地震があって南ちゃんは達也に抱きつく。そしてそのまましばらく、抱きついたままのコマが続く。当然南ちゃんは達也の胸板に自分の胸のふくらみを押しつけてしまったわけで、そこで達也の自分に対する想いを触感と体温と回された腕の圧力によって改めて気づいたはずで。
他の実例として高三の柏葉のしごきの合間、達也と南ちゃんは久しぶりにデートしたけどその帰りの夕方にお馴染みの川べりで一休みした時。達也は立ち、南ちゃんはガードレールに腰掛ける。思い出すのはやっぱり和也、カッちゃんのこと。それを二人は、
「何考えてた?」
「タッちゃんと同じよ、多分」
「現在の世界情勢か」
「うん」
ボケのやり取りと二人ともわかっているのに、コメディになってない。それで読者はあることを察し、
「ファイトォ! 頑張って生きるんだ。私たちはカッちゃんがこの世に生きていたという証しなんだから」
やっぱり上杉達也と浅倉南にとって、上杉和也は巨大な重し、かつ大切な思い出とわかるのです。
で、以後は南ちゃんが達也を「わかっていなかった」ことについて。一つ目は「おまえはいったい南のなんなんだ」。南風に西村と新田が(詳しい経緯は省略します)来店し、達也と南ちゃんは相席のテーブルになったことがあって。その時西村は南ちゃんに積極的にアプローチしたが、南ちゃんの隣に座っていた達也は我関せず。やり取りを聞いていたはずなのに割って入ることをしなかった。
そのことで勉強部屋で問いただされ、
「なかなか難しいことと思わないか」
と達也は答えた。それが南ちゃんにとっての「大事なこと」の一つなのですが、この関係が結構曖昧なのを白状した。
「まあはっきりしてるのはお隣さんで幼馴染み……でもそれだけじゃない! ような気も、しないでは」
この後の達也と南ちゃんのやり取りは言葉で自分たちの関係を確認する素敵な場面でした。
次は、
「タッちゃん…タッちゃん。何さっきからボケーっとしてるのよ」
「すいませんねえ。考えごとしてる顔に見えなくて」
これは須見工との練習試合でのこと。
「和也はいつも何を思って投げていたのかな」
「決まってるじゃない。マウンドに立ったら無心。打者を打ち取ることだけよ」
「そんなに割り切れる男かよあいつは。人にやたら気を遣って。優しくてお人好しで」
そこから達也が亡き弟がどんな思いでいたのかを推論する過程は、コメディもありながら説得力のある場面でした。
「甲子園、連れてって」
この南ちゃんの言葉が和也にとって魔法の言葉と結論したのです。
最後は一番、今回の趣旨に合う南ちゃんが達也を「わかっていなかった」こと。「どうしてこんなところでこんな時間に、上杉達也がいるのよ!」
達也にとって二度目、最後の甲子園への真っ只中、達也は南風で試食品のかぼちゃパイを食べていた。そんな姿に多分南ちゃんは大物感を感じ、
「いやいや参りましたなぁ。余裕たっぷり、大したもんだ」
と皮肉交じりに言ってやる。しかし達也は、
「まったく、どいつもこいつも、俺がすっかり和也の代わりになってると思ってやがる。期待するのは勝手だが忘れちゃ困る。俺は上杉達也なんだ。和也とちがって何の裏付けもねえんだよ。積み重ねたものがねえんだよ」
実は南ちゃんも須見工の練習試合の直後、
「タッちゃんがカッちゃんの代わりになるなんて誰も思わなかったでしょうね。南以外は」
と言ってしまっていた。モノローグとして明示されてないけど、南ちゃんはこの時思い出し、「私のせいだ」と思ったと考えていて。それは小二のミニバスからバスケ漬けだった鹿野千夏や木戸夢佳、環境と努力によって新体操を極める蝶野雛、少なくとも中学からバド一直線の猪股大喜とは違う部活人生。
そして実は南ちゃん自身、私は裏設定として小学六年生までバレエをやっていたと憶測するけど、新体操をやり始めたのは達也が野球を始めたちょっと後。だからインハイ優勝までとして達也の(高校)野球と同様、やはり二年弱。だからタッちゃんも同じ思いだと気付いて然るべきだった。「いい加減な中途半端男」が亡き弟のため、自分のために無理していると。
やはり人間、言葉でしか分かり合えないことがわかるエピソードと思うのです。
さて『アオのハコ』です。千夏先輩が大喜くんにとってミステリアスなのは本音を言わせていない、聞き出せていないからと思う。年下の引け目もあると思う。また詳述するとアニメのネタバレなのでぼかすと、大喜くんと二人で海に行きたいと言われた時理由を聞かなかったのは妥当と思う。しかし高二になってスキンシップがなくなったこと、付き合ってることをまだ秘密にしたいということ、それについては問いただしても良かったのではと思うのです。でもそれが未熟の青、その結果の15巻は(皮肉でなく)劇として素晴らしいと思うのです。
実際、『アオのハコ』を(主に)千夏先輩視点の小説にしようと思ってアニメを観て原作を読んでみると、千夏先輩の考え(のぶれ具合)が手に取るようにわかる。今週分はまだ観てないから先週の「良くないこと」で語ると、一線を引いた理由をその場で問いただしても本来は良かった。でも千夏先輩の言うことだから、大事なことは先輩の言うとおりにしなければならないと思ってしまうから、大喜くんは言いたいことを飲み込んでしまったと。
つまり大喜くんと千夏先輩、いい意味でも悪い意味でも言葉は魔法であることを分かってない。それが達也と南ちゃんとの関係の差、違いだろうと思うのです。
そして来週、前回の輪島行き中止の災害ボランティアのリベンジをします。水曜日に金沢で泊まり、木曜日と金曜日に参加する予定です。なので最低水曜日から金曜日はnote更新をお休みします。それ以後の更新はしばらくボランティア報告になるはずなので、『アオのハコ』関連はお休みします。そして年末年始も北陸へ行こうかと。観光で行きたいけどツアー観光は遅いのでやるなら一人旅と思いますが。(大塩高志)