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033 連載小説01 災害ボランティア④ 隘路に踏み込む

030 連載小説01 災害ボランティア① 序|ohshio_t (note.com)
031 連載小説01 災害ボランティア② 災難の伏線、出発の遅れ|ohshio_t (note.com)
032 連載小説01 災害ボランティア③ 勘違い、前泊も七尾市文化ホールではなかった|ohshio_t (note.com)

 Tは七尾市文化ホールと勘違いした建物のロビーから出入り口の自動ドアを歩き、小雨の降る夜の七尾市を歩き出した。七尾線から見て初めての内陸側の散策。しかし特に不安はなく、ただ七尾市文化ホールの職員の人が登録してくれた、七尾城山野球場への道を専念することに心がけようとした。
 その時のTの服装は真冬、一番寒い時期のものではなかった。能登に地震があった週の木曜日に七尾に乗り込もうとしたが、その時は新幹線はくたかの車中で体調をおかしくした。前年の聖地巡礼が雪景色だったという経験はあったものの、震災後一回目の能登行きは能登の冬を舐め過ぎたとTは痛感することになる。
 しかし二週間に一回のペースで能登に行くことになり、徐々に能登も少しずつ寒さを脱していくのを実感できていた。だから三月の最後の金曜日と土曜日に災害ボランティアを計画した今回、ジャンパー/ジャケットは裏地はあるがそれほど厚くないものをTは選択した。ジャンパーの下は綿のシャツにランニングシャツ。それがそれほど寒くない日のTの上半身の装いである。
 下半身は薄茶色のコーデュロイにトランクスに靴下。それだけでは体重60kgないTはさすがに寒く感じる時があるので、防寒用の耳当てと毛糸の手袋を用意していた。そして七尾市文化ホールと勘違いした建物からロータリーに出た時も、Tは野球帽の上から耳当てをかけ、毛糸の手袋で三月の夜の能登の道をやり過ごそうとしたのである。
  七尾城山野球場への道行き、Tが当てにするのはGoogle Mapsで示されたルートと方向や方角を告げる音声のみ。しかも手袋ではiPhoneはなかなか上手く反応しない。Tは手袋を左手から外すしかなかった。
 他に道がない、一本道の場合は迷うことがない。しかしTは並行する道に引っかかる。元の道に戻ったり家の敷地に入ったり。その度にGoogle様を観返して正確な道を見極める。
 しかし二回目だったか、家の敷地に入って引き返した時、Tがコンクリの地面と思って足を乗せたのはぬかるみだった。体重をかけてなかった右足は早々に抜けたが歩くときに体重をかけてしまう左足はなかなか抜けず、やっと抜けたら靴を残してしまった。しかし左足を靴下だけで歩くことは考えられず、靴があるだろう沼に左手を突っ込んで泥まみれの靴の左を取り出したのである。
 暗闇でどれだけの汚れか分からないのが却って幸いだった。その場で座り込んで泥の感触のある靴に左足を突っ込み、再びTはITを当てにした散策を始めたのである。こんな夜更けに見知らぬ場所に行くなんて、まさに現代のIT技術があってこその行動。しかし文化ホールの職員がウソを登録したとは考えられず、Tは自信をもってiPhoneのアプリ、Google Mapsの指示に従い続けたのである。(大塩高志)

034 連載小説01 災害ボランティア⑤ テント村、七尾城山野球場に到着|ohshio_t (note.com)
035 連載小説01 災害ボランティア⑥ テント村で眠りにつく|ohshio_t (note.com)
036 連載小説01 災害ボランティア⑦ テントから撤収|ohshio_t (note.com)
038 連載小説01 災害ボランティア⑧ 七尾市文化ホールに到着|ohshio_t (note.com)
039 連載小説01 災害ボランティア⑨ 七尾市文化ホールでのオリエンテーション、そして仮仮置き場
040 連載小説01 災害ボランティア⑩ 仮仮置き場へ
042 連載小説01 災害ボランティア⑪(終) 思い出を砕く

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