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頁21「いいですね」

隣の部署とも連携して業務を行うことになったので、担当の人とはチャットでは何往復もやり取りをしていたけれど挨拶したことはなく、遠目に後頭部しか見たことがなかったその人がコピー機のところにいたので、給湯室に行く途中でその背中に声を掛けた。

振り返ったその人は、人気のお笑い芸人さんがシュッとしたような精悍な感じで、部署と名前を名乗りへこへこする私に、ピンと来ていないのかな? と不安になるリアクションだった。
なので、さらに「今度あの、○○(業務)で、よろしくお願いします」と祈るように追加情報を提供すると、ようやく少し「ああ、ええ」みたいな返答をしてくれた。

コピーしてるところに悪かったかな……とへこへこ退散しようとすると、
「それ、加湿ですか?」
と私の手元を見た。

言われてハッと、じぶんの手に、コップに挿した花の形のペーパー加湿器を持っていることを思い出した。

こんな感じの。いろいろある。

一瞬あっと思った。前に、やはり給湯室へ行く途中にそういえばと上司に話し掛け、手に大事そうに持っていたカップヌードルを「カレー味?」と突っ込まれ、フランクな人だったからそんなに気にしなくてもだったけど、それでも「失礼だったかな」と反省したことがよぎった。

コピー機のタッチパネルを操作しているところに、手に花持った知らんヤツが遮ってきたら、そりゃあんな反応になるか……とまた反省しかけたそのとき、もうひと言が彼から続いた。

「それ、加湿ですか? ……いいですね

まじすかーーー!
まさかの承認。

ホッとうれしくなり、「あっ、はい。ははっ。えふぇ。ふひぇっ」とへこへこ相槌&後ずさりをしながら、フェードアウトするようにフロアを離れた。

……なんなのなんなの。
全然そんなそぶりなかったじゃん。
むすっとしてましたやん。
ドラマですか。大ヒット胸キュン漫画原作ドラマのワンシーンですか?

「いいですね」
それは魔法の言葉(笑)。

ずっと前にコワモテ上司が、私の拙い手書きテンプレートの電話メモを見て「おーしまさんコレ、いいね」って言ってくれたこと、今でも覚えてる人間だよ。

誰かのいいねは、誰かのこころにずっと残る。

今日また、そんな言葉を掛けてもらった。
私からしたら、そんなあなたこそ最高にいいんですけど。

おそらくきっと、あなたもフロアの乾燥に悩まされているのでしょう。
あなたの席までは残念ながらこのペーパー加湿器の湿気が届くとは到底思えませんが、あなたの人生がこれからも潤い続けることを陰ながら祈ります。
業務の連携もうまくいきますように。

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