「全然興味ないから」男子発言ノート33
リュックを背負って歩き出した途端、得も言われぬ負荷を感じた。
何者かに後ろから押さえつけられているような感覚に、おっとっと。
振り向くと、帰りのタイミングが一緒になったバイト先の男子が、私のリュックのファスナーを閉めてくれていたのだった。それが何者かの正体だった。
優しい……!!
もう、ちょっと、それだけで好きになる。
優しくされただけで、目ばかりか心の瞳孔も開くってもンだ。
わかってる。私が期待してしまうようなことは何もない。
そこに山があったら登るように、開けっ放しのファスナーを人は閉めるもの。
けれど小さい時分に、父親から手放しに愛され守られていた"原始のじぶん"みたいな感覚に包まれて、へへへと気持ち悪く笑ってしまっていた。
女の子って、頭ポンポンとか車のバック駐車とか、男子が示してくれる父性みたいな優しさや強さに弱いんじゃないだろうか。
*
そんな数日後、優しさファスナーの余韻さめやらぬ夕刻、またしてもバイト上がりのタイミングが重なったあの男子と「飲んで帰りますか」という段取りに。
30代も半ばの彼は、落ち着いていて穏やかな物腰。だけど芯はしかとあって思考は常に研がれていて。本職のキャリアは満ち溢ち、人望も厚い。で、見た目は僧侶。高徳な。すっごい山奥の総本山にでもいそうな。すっごい節制してる、優しい僧侶。
まぁでも、そんな僧侶でもお酒飲むのが好きな優しい僧侶男子なので、私も気楽にお酒がすすみ、お互いにいろんなお喋りをした。
で、話題が恋愛話にも及んだ頃、彼がこんなことを口にした。
「よく優しいって思われがちなんですけど俺、それって、その相手のこと俺、全然興味ないから優しくできるんですよね」
どぇっっふ!!!
“全然興味ないから”!!!
……はーい! ここに、該当者いまーす! へへへ。思った思った、あなたのこと優しいって。へへ。そっか、そか全然私のこと、興味ないのね。りょうかーい!
続く彼の話をよそに、笑って相槌を打っているかのように見えて実は、心の中で哀しみファスナーが大全開であった。
あゝ誰か。
私のファスナーまた開いちゃってるんで、閉めてもらっていいですか?
優しさじゃなくて、下心からでもいいです(?)。
* * *
でも確かに。
背中のカバンのファスナーを開けっ放しで知らずに歩いてる人がいたら「財布盗られるよ!」とか心配になって、見ず知らずの人でも「開いてますよ」って声、私も掛けちゃう。
そこに、優しさと解される心持ちこそあれ、好意までと受け取られた日には困りものよね。トゥーマッチよね。
それでもあのときの、「ギィっ」とファスナーを閉めてくれた彼の指先から伝わる振動が、私の心も揺らしてしまったのだった。それだけのこと───。
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