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おろし金を買って

ラジオでキッチン用品の専門家みたいな人が、おろしやすくてふわふわに仕上がるおろし金をオススメしていた。おろし金など普段の生活で全く使っていなかったし意識の中にも存在していなかったが、専門家の説明がやけに上手く、聞いているうちにどんどん欲しくなってきて、気づいたらネットで購入していた。

数日後、おろし金が届いた。すぐにでも何かをすりおろしたいが、冷蔵庫に肝心のすりおろすものがない。テレビのリモコンや掃除機のアタッチメントを無理矢理おろせなくもないだろうが、そんなものをおろしても仕方ないので、届いたばかりのおろし金はしばらく眺めたあと食器棚に置いた。おろし金にしてはそれなりの値段したからだろうか、佇まいも一味違って見えた。

翌日、スーパーに買い物に行った。家におろし金がある状態でスーパーに行くのは初めてで、見慣れた景色がまるで違って見えた。あれもこれも、僕はすりおろすことができるのだ!僕はすべてをすりおろす権利を有している、「おろせし人(ひと)」なのである!ひかえい、ひかえい、我こそはおろせし人なり!俺はいいけどおろせし人がなんて言うかな?18歳で一人暮らしをしてから初めてレンタルビデオショップに行ったときのような全能感を感じながら野菜売り場を闊歩する。うひょー、どいつもこいつも、片っ端からすりおろしてやりたいぜ。

迷った末に、結局大根を買った。大根といえばおろしの王道、『月刊おろし』があるとしたら表紙最多登場は確実のえなこ的ポジションの野菜である。いろいろおろしたいものはあるが、やはり最初は定番から入るべきという判断だ。ここでいきなりニンニクをおろしたりするのは調子に乗りすぎ。身の丈をわかっていない愚行である。2世タレントのタメ口キャラみたいなもので、その行動はいずれ身を滅ぼす。たとえ誰も見ていなくても、おろし神様が見ていらっしゃる。所詮我々はおろし神様のおろし金の上から逃れられない存在なのである。身の程をわきまえなくては。

帰宅後、さっそく大根をおろしてみた。ラジオで専門家が言っていた通り、力を入れなくてもすいすいおろせて仕上がりもふわふわだ。さすがはいいおろし金。明らかに能力が違うのがわかる。素人にもはっきりわかるのだから相当なものだ。おろせる…おろせるぞ!僕は夢中で手を動かした。いわゆる「おろしズハイ」的な状態にあったのかもしれない。

大量の大根おろしは、冷たい蕎麦に納豆と一緒にぶっかけて食べた。美味しかった。どう考えてもヘルシーな味がした。それでも余って、翌日はコンビニの焼き魚と一緒にご飯にぶっかけて食べた。これもまた美味しかった。大根おろし最高。おろし金最高。ラブアンドピースアンドおろし。イエー。おろしイズビューティフル。ヤー。

いやいや、いい買い物をしたものだ。

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