嫌いとかじゃなくてわからない
ソフトバンクホークスがリーグ優勝して福岡はお祭り騒ぎである。ドラマの最終回には速報のテロップが流れ、テレビラジオ各局が優勝特番を組み、デパートでは優勝セールが始まるらしい。街全体が浮き足立っているようなムードだ。その中で、野球、というかスポーツ全般に関心の薄い人間としては、勝手ながら若干の居心地の悪さを感じている。
福岡はとにかく野球好きが多い。まずホークスファンが多いし、そこまで熱狂的ではない人も当たり前のようにホークス選手の名前やここ最近の調子なんかを知っていて喋っている。野球リテラシー的なものが異常に高い印象だ。これは全国的に見ても特殊なのではないだろうか。例えば大阪にも阪神ファンはたくさんいるだろうが、だからといって皆が常に野球の話ばかりしていることはない。だが、福岡は共通の話題がほぼ野球に統一されていて、世間話のテーマのツートップが「天気」と「野球」になるくらいのレベルなのだ。口を開いた相手が「もう」と発音したら「猛暑」か「猛打賞」の話だと考えて間違いない。もしくは相手が牛か。
そんなわけだから、ひとたび野球トークが始まってしまうと、スポーツに疎い人間は到底入り込めない。前提となる知識が圧倒的に不足しているため彼らが何を言っているのかがほとんどわからないのだ。とりあえず「アメトーーク」の相武紗季的なポジションで「へぇ〜そうなんだ」顔をして頷いているしかないのだが、相武紗季でもなくドラマの告知もないのに私はいったい何をしているんだろう?という気分にはなってくる。野球の知識を身につけるか、相武紗季になるか、野球に詳しい相武紗季になるかしないとこの場にはいられないのだが、実際問題それはなかなか難しい。(この場合の「相武紗季」というのはあくまで「話のテーマに詳しくない役回りの人」の例としての「相武紗季」であって、実在の相武紗季さんの野球の知識の有無には関係ありませんのでご了承ください)
もちろん知識と関心がないだけで、取り立てて野球が嫌いなわけではない。野球に婚約者を奪われたり、野球に畑を荒らされたり、野球に映画館で後ろから席を蹴られたりした経験がないからだ。学生時代の体育の授業とか体育祭に対する恨みはそれなりにあるが、それとこれとは別である。だから、ホークスが優勝して周りの人達が嬉しそうにしていると僕も何となく嬉しい気分にはなる。嬉しい気分にはなるが、温度的には「友人が好きなアイドルが初めてMステに出る」と聞いたときくらいの感じで、「よかったね、すごいね」と素直に思えるが、特にそれ以上掘り下げることはない。そのくらいの感覚だ。
だから、優勝に喜びを爆発させる人々の熱狂の中にあるとやはり温度差は感じるし、その時間は決して心穏やかとは言えない。何かの間違いでひとたび自分にスポットライトが当たろうものなら、己のスタンスを表明する必要が生じて、
①シンプルにノリの悪い奴
②逆張りがかっこいいと思っているスカした奴
③思ってもないくせにあえて喜んで見せる奴
という三種類の嫌な奴の中のどれかにならなければならなくなる恐れがあるのだ。それを避けるには、できるだけ自分の存在を消し、目立たないようにしてやり過ごすしかない。メタルギアソリッドだ。もしくはSIRENだ。SIREN面白かったなあ。難しかったけど世界観がとてもよかった。もう新しいの出ないのかな。
テレビのニュースでは選手たちがビールかけをしている様子が流れてくる。YouTuberが食べ物を粗末にしようものなら即炎上のこのご時世に、ビールをかけ合ってはしゃいでお咎めなしなのだから、やはり野球は福岡のみならず国民にとって特別なものなのだろう。伝統的な祭りとかに近いポジションなのかもしれない。ナマハゲが子供を泣かして文句を言う人がいないのと同じである。
僕も今年で39歳だし、ここから急に野球にハマることは多分ないと思う。だから、今後も野球に対する関心の薄さで何かと居づらくなることはあるのだろうが、それは仕方がないことだ。自分で選んだのだから、引き続きこの感じでやっていくしかないのだ。
ただ、ごく稀に自分と同じ感覚の持ち主に会うこともあって、それはめちゃくちゃ嬉しいので、ちょっとそのときが楽しみでもある。もしそんな人と出会うことがあったら、酒を飲みながら「聞いたことあるけど意味がわかっていない野球ワード」を出し合ったりしたい。閉店の時間まで盛り上がれる自信がある。
焼き鳥を齧り、冷奴をつつきながら「スクイズ!」とか「DH制!」とか言い合ってハイボールを飲むのだ。きっとすごく楽しいに違いない。それはもう、野球好きにとっての野球くらいに。
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