バブの残り香
昨夜、湯船にバブを入れた。先日行った居酒屋で手土産に渡されたものだ。もらったときは「なんかセンス出してきたな」とか思ったのだが、いざ入れるとなるとけっこう嬉しい。腐らせることもないし、居酒屋の手土産としてかなりいいチョイスなのかもしれない。
僕はとても簡単な人間なので、バブを入れた風呂に浸かるとすぐに、炭酸ガスの効果によって体中のコリがほぐされているような気持ちになってきた。血流も良くなり、摂り過ぎた脂肪は燃焼され、内臓の働きが活発になり、肌は若返り、オーラの輝きが増し、運気がぐんぐん上がっていく(個人の感想です)。久しぶりに入ったがバブ入りの風呂はいい。なにせイベント性がある。細かい効能はさておき、それだけで気分が上がるのだ。
せっかくなのでいつもより長めに湯船に浸かって風呂から上がった。最後にシャワーを浴びようかと思ったが、バブの有効成分を残しておくのも良いかと思いそのまま体を拭いた。さっぱりしていい気持ちだ。あとは夕飯を作ってゆっくり食べるだけである。そう、僕はバブ風呂のイベント性によるテンションを利用して、「晩ご飯前に風呂を済ます」という偉業を成し遂げていたのだ。これはでかい。完全に勝ち組である。ありがとう。
異変を感じたのは、完成したちゃんこ鍋を食べ始めたときだった。鍋は美味しいが、なにか違和感がある。ハイボールを飲んでも違和感。もう一口鍋を食べるとまた違和感。そこで気づいた。「バブ臭」だ。シャワーで流さずに風呂を上がった僕の体からは、強烈なバブの残り香が漂っていた。その人工的なフローラルの香りは、鶏だしスープの鍋の味わいを見事にぶち壊した。単体だと悪くない香りも、食事の場では圧倒的に場違いで、出汁主体の和食の味ではとてもではないが太刀打ちできない。晩ご飯がねるねるねるねとかハリボーグミだったら気にはならなかっただろうが、あいにく僕は個性派アイドルではないのでそんな趣味はなかった。
鍋の具材を器によそうたび、箸を口に運ぶたびに、バブ臭は僕の鼻を突き刺した。避けようにも香りは自分自身から発されているので逃げ場がない。僕は為す術なく、強烈なフローラル臭とともに鍋をかき込み、流れ込んできた味と香りの情報を脳内でバブとバブ以外に仕分けすることで、なんとか食事を楽しもうとした。先に風呂を済ませて優雅に堪能するはずだった晩御飯は、バブ臭のおかげでなんとも慌ただしいものになってしまったのだ。
驚いたことに、このバブ臭は翌日も続いた。ただ、鼻を刺すような刺々しさはなくなっており、むしろふとした瞬間にほのかに香る香りは心地よくすらあった。これなら食事の邪魔にもならないだろう。「バブ臭は一晩寝かせろ」これが今回学んだ教訓である。
しかし、それ以上に重要なのは、「風呂を上がるときにはシャワーを浴びろ」ということだ。