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目力を増して
食材を買いにスーパーに出かけた。ついでに近くの無印良品に寄り、買おう買おうと思っていたけど毎回買い忘れてしまうあれこれ(メジャー、湿気取り等)も購入した。これで長さが測れるし、湿気が取れるぞお!とホクホクで帰宅していると向こうから人が歩いてくる。ああ、この後すれ違うなあ、とぼんやり考えていたが、不意に大変なことに気がついた。
そのとき僕は、ボーダーのTシャツにチノパンという服装で歩いていた。それは別にいいのだが、あろうことかその状態で手には無印良品の袋を下げてしまっていたのだ。ボーダーにチノパンに無印良品。これは、あまりにもだ。なんというか、あまりにも「そのまんま」すぎる。
股引きに腹巻きのカミナリ親父、三角メガネにパールのネックレスのPTA役員、頭にタオルを巻いた作務衣の路上詩人、ツーブロックにバレンシアガのTシャツにクラッチバッグの反社会勢力……ボーダーにチノパンに無印良品の袋の男というのは、それらに並ぶくらいの「そのまんま」具合だ。ドラマや映画の現場だったら「リアリティがないんだよ!」と演出家に怒られそうなくらい、ステレオタイプなタイプ分けのど真ん中にいるのである。
一人として同じではないはずの人間を服装や見た目でカテゴライズするなんて乱暴すぎるし品がない行為なのだけど、やってしまうことはある。口にすることはないが、そういうことを思ってしまうことは誰しも経験があるのではないか。だからこそ僕は、これからすれ違う人に「あーあの感じの人ね」と思われそうで恥ずかしくなったのだ。
違う、違うんだ!いつもこうなわけではなくて、今日はたまたまボーダーとチノパンと無印が重なってしまっているだけなんだ!ジュラシックパークのTシャツとかオオカミが月夜に遠吠えしているTシャツとかも持ってるし、軍パンを穿くことだってあるんだ!信じてくれ!
そんな弁解が頭に浮かぶが、見ず知らずの通行人に伝えるわけにもいかない。せめてもの抵抗として僕ができたのは、目元にグッと力を入れ、若干目力を増した状態で相手とすれ違うことだけだった。ボーダーにチノパンに無印良品の人は柔らかい表情をしているイメージがあるので、その逆を行ったのだ。
そんなことをして何になるのかと言われれば何にもならないが、そういう問題ではない。
そういう問題ではないのである。
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