見出し画像

地方のラブホテル

地方のあるあるだと思うのだが、田園風景広がる国道沿いの一角に、突如としてラブホテルが現れることがある。それらはだいたいプレハブ小屋を並べたような外観で、目的のために必要最低限の設備を整えました、という感じのものが多い。壁を派手な色にしたりネオンをあしらってみたりと色々工夫されているのだが、それが逆に周囲の風景とのギャップを際立たせ、なんとも言えない退廃的なムードを纏っている。

今日仕事先で久しぶりにそんなラブホテルを見かけた。電飾で表示された「WELCOME」という文字が点滅を繰り返し歓迎の念を伝えている。施設全体の色はピンクでまとめられているが、柔らかいピンクではなくポストペットの熊みたいな強めのピンクが使われていて毒々しい印象だ。看板には気の利いていないフォントの文字で「休憩3000円」「カラオケ完備」のような説明書きがされていて、その中に「女子会もOK!」という文句が踊っていた。

世間で「ラブホ女子会」なるものがあるらしいことは知っていた。最近は綺麗で食事なども充実したラブホテルが増えており、そこで女子会をするのが人気なのだそうだ。設備として申し分ない上に、ちょっと「普通ではない」感じが特別感を持たせてくれてテンションが上がるのだろう。インフルエンサー的な綺麗なお嬢様方が、あえてラブホに集まっちゃうウチらってイケてない?とばかりにSNSに投稿しているのも見たことがあるような気もする。実際にどのくらい流行っているのかは知らないが、少なくとも世の中の流れを決める何らかの機関が「密かなブームってことにします!」と宣言しているくらいの感じはあった。

だがそれも「逆に」「あえて」の目線あってこそだ。いろいろな選択肢がある中で「わざわざラブホに集まっちゃう」のがいいのであって、地方の田園風景の中の、言っちゃなんだがじめっとして陰気なラブホテルに女子が集まるというのはちょっと想像しづらい。「あえて」だとしたらハイレベルすぎるし、仮にそのハイレベルな「あえて」を実践しようとする人がいたとして、そういう人はホテルサイドから「女子会OK!」と謳われると冷めちゃうのではないだろうか。自分のセンスじゃなくなっちゃうから。

そんなことを思いながらしばらくラブホを眺めていた。入っていく人も出てくる人もいなかった。自転車に乗った高校生が走り抜けていく。セミがうるさいくらいに鳴いている。8月も終盤だが、まだまだ暑い日が続くようだった。

サポートって、嬉しいものですね!