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【宇宙映画博覧会】「遊星」って何?

 今回は『遊星からの物体X』(1982)の話をしようと思ったのですが、その前にまず「遊星」という言葉について語りましょう。
「遊星」がタイトルについた作品は(僕が子供の頃に見ていたテレビアニメ『遊星仮面』[1966]とか、若き日の梅宮辰夫主演の映画『遊星王子』[1959]とか)いろいろありますが、1950年代~60年代によく使われていた言葉で、1980年代の映画のタイトルとしては非常に珍しい。
 というのも、『遊星からの物体X』は、もともとが『遊星よりの物体X』(1951)のリメイクで、元のタイトルをほとんど残したまま、新作のタイトルにしたのが『遊星からの物体X』だからなのです。
「遊星よりの」だとなんだか古臭い感じがしてしまいますが(『カナダからの手紙』という有名なヒット曲がありますが、『カナダよりの手紙』だとより古臭い感じがします。まあ、既にこの例え自体が古い気もしますけど)、元のタイトル『遊星よりの物体X』を尊重した上で、今ふうのニュアンスに変えた『遊星からの物体X』というのは非常にいいタイトルだと思います。しかも、完全に同じじゃないから、ちゃんと区別もつくし。
 ということで、これは50年代のタイトル『遊星よりの物体X』の「遊星」を残したから、80年代になっても「遊星」という言葉が使われているわけです。
 さて、その「遊星」とは何か、ということなのですが、実は「惑星」(太陽系の星)と同じ意味なんですね。
 ところが『遊星からの物体X』の頃には、太陽系の星にはもう宇宙人はいないというのが定説になってしまったので、実際に来る宇宙人は太陽系外から来てるんですけどね。だから、この映画では『遊星からの物体X』と言いながら、実は「遊星」からじゃなくて、もっと遠くの星から来てるんです。
 ちなみに、この「惑星」なんですが、皆さんご存知の通り、太陽系の惑星は今は8つになりましたよね。
 僕たちが子供の頃に覚えさせられたのは「水・金・地・火・木・土・天・海・冥」の9つ。ところが、2006年に冥王星は惑星ではない、小さいから惑星には入らないと言われて、準惑星という扱いになって、今は太陽系の惑星は8つになってしまった。しかもこの冥王星、かわいそうなのは発見が一番最後だったんですよ。遠いし、暗くて見えなかったのが、望遠鏡の性能が上がって、ようやく見つかったのが1930年。新しい惑星として冥王星という名前をつけてもらったのに、そこから約70年、100年も経たないうちに「お前、惑星じゃねえよ」と言われて、 惑星から外されるという。外されたとき、僕たちの世代はショックでしたよ。
 しかも、これ、実際にあったことなんですけど、うちの子供が小学生のときに、太陽系の惑星の並び順を理科の時間に習ってきて、家で一生懸命暗記してたんですよ。そのときに「ドテンメイカイ」と言ってるんです。僕がそれを聞いて「おまえ、違うだろ。ドテンカイメイだろ」と言ったら、「え、だってドテンメイカイだもん」と言い返されて、「だったら、教科書持ってこいよ」と言って持ってこさせてみたら、本当に「メイカイ」でした。
 実は、冥王星と海王星は軌道の関係から、何十年に一度だか、何百年に一度だかに、何年間かだけ冥王星が海王星の内側に来るときがあって、「ドテンメイカイ」になったんです。ところが、その後にまた外側へ行ったから、今は「カイメイ」に戻ったのに、今度は惑星から外されてしまうという、なかなか数奇な運命をたどっているんですね。
 ところで「惑星」という言葉、僕たちはなにげなく使ってますが、漢字の意味をよく考えたら「惑わす星」と書くんですよ。なぜ太陽系の星のことを「惑わす星」と呼ぶかというと、星座とかを作っている他の星はみんな恒星なんです。要するに、昔は天動説だったわけで、地球、つまり僕たちの住んでいる地面は動かずにいて、天が回転をしている、という考え方だったわけです。
 そして、ほとんど全ての星は、同じ方向に同じように回っていく。なぜかというと、実際には地球が回転するからなんです。なのに、たまにその中に、いくつか変な動きをするやつがある。これが太陽系の惑星なんですね。地球と一緒に太陽の周りを回ってるから、遠い恒星とは動きが異なってくるわけです。
 例えば、金星って星の中でも明るくて、すごく目立つ星ですよね。だから宵の明星とか明けの明星とかって呼ばれるんですが、金星は地球より内側にある星なので、たまに戻るように見えることがあるんです。だから他の星が同じように流れてる中で、金星だけ位置が戻ったように見える。同じように、いくつか変な動きをする星があるわけです。で、惑わせるから、これを「惑星」と呼ぶんです。
 この「惑星」、今は「惑星」という呼び方で定着していますが、古い時代だと「遊星」と呼ぶんです。「遊星」も意味は同じで、いくつかだけ変な動きをするから、「遊ぶ星」と書いて「遊星」。遊びに行っちゃうんですよ、勝手に(笑)。「遊星」っていい言葉ですよね。文字どおり「遊び心」がある。なんだか、楽しくて可愛くなっちゃいます。
 さて、肝心の『遊星からの物体X』について触れる余裕がなくなってきてしまいました。
『ハロウィン』などで有名なB級ホラー映画の巨匠ジョン・カーペンター監督が豊富な予算を注ぎ込んで作ったSFホラー映画で、なによりの見どころは当時まだ若手だったロブ・ボッティンのスペシャルメイクによる物体Xたち。
 CGのなかった時代、次々にグロい変形を遂げていく物体Xをスペシャルメイクによって創造し、CGでは決してなしえないような「眼の前にある恐怖」、「目に見える恐怖」を実現しています。
 今の若い人たちは「こんなのCGを使えば、いくらでもできるよ」と思うのかもしれませんが、「眼の前にある、手を伸ばせば触れるモンスター」のリアルな恐怖をぜひとも味わっていただきたいと思います。

※有料配信のWEBラジオで語った内容を元に加筆・修正しています。

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