見出し画像

社会起業家の実践本に書かれていた探究学習で大切な手順

いわゆるソーシャルビジネスについての本です。

実践者である田口氏が
①ある社会課題を解決するためにどうビジネスを組み立て運営するか、
②そのようなビジネスを運営する人をどう増やすか
について自分と仲間の経験をもとに詳しく語っています。


最近新聞で見た田口氏の会社ボーダレス・ジャパンの活動↓


「社会課題はたくさんあるので、ソーシャルビジネスを行う人も増えなくてはならない。」との考えに基づき、そのために必要な、意欲のある人たちが評価・助言し合いながら自走するしくみや、運営が軌道に乗った人たちが後進を育て支えるしくみについても書かれており、興味深く読みました。

この本の中で、探究学習で大切だと感じていたことが言語化されている部分がありました。私なりに解釈して紹介したいと思います。

それが書かれているのは
第3章「社会問題を解決するビジネス」のつくり方
1. ソーシャルコンセプトを考える
イケてないソーシャルコンセプトにならないように「本当のようなウソ」に気をつける
の項でした。

表面に見える課題しか見ていないと、もれなくイケてないソーシャルコンセプト(=実態に合っておらず、課題解決につながらないもの)が出来上がります。

<中略>

「世の中ってこういう構図だよね」といった概念がメディアを通して入ってきます。それらは「本当のようなウソ」であることが少なくありません。たいていの情報と言うのは、事実ではあるが、決して全体を表したものでないことがほとんどです。メディアは一部を全体にように伝えがちですし、僕たちも一部を全体のように捉えがちです。情報だけで作られた知識・概念を怪しむことも大切です。

田口一成『9割の社会問題はビジネスで解決できる』

この既成概念の罠、探究学習の、特に研究の初期に一度は通る道、とも言えます。ただ、出発点としてはこれでもいいと私は思います。
最後の文にあるように、これは「仮説」としてそのままは信じないで次の段階に進みます。

続く田口氏のアドバイスは…

 だから、ソーシャルコンセプトを作るときに必要なのは、「それって本当?」と常に疑う姿勢です。「一般的にはこうだと言われているけど、それって本当?」と疑って自分の頭でちゃんと考えることです。
 そして、実際の現場に出かけていき、当事者や関係者からたくさん話を聞かなければなりません。机の前に座ってこうでもないと考えていても、答えは出ないのです。概念で考えるのではなく、リアルの現場に行く、当事者に会いに行く。そうしてはじめて、「自分はこういう人たちのために頑張りたいのだ」と、対象者の顔がありありと浮かんでくるのです。

同上

実際の現場に行く、当事者に会いに行くことで本当のことがわかってくるよ、ということでした。

この時に、仮説をもっているからこそ行くべき現場やそこでの質問が考えられる、認識の誤りに気づくのだと私は思います。だから仮説も大切だと考えています。

さらに数点アドバイスが続きます。

… 社会問題の裏側には、複数の原因が存在するのが一般的です。…「これが本質的な原因だ」という唯一の正解があるわけではないのです。また最もインパクトがある対策でなければならないわけでもありません。それよりも大事なことは、それが効果的な手であるかどうかです。
 いろいろな原因が考えられる中で、何を原因と捉えるのか。同じ社会問題を解決するのにも、社会起業家が3人いたら、三様の捉え方があります。
 その中で、自分はどの原因に対して対策を講じていきたいのか。それを追求していくことが大切です。
 みんなで同じことをする必要はないのです。 …ソーシャルビジネスと言うのは、みんなで社会の穴を埋めていく作業です。

同上

ビジネスの文脈で書かれていることですが、これは研究の独自性についても言えることです。複数の原因があることをわかった上でどの原因に注目しどんな解決策の可能性を検討するかが、その人が研究する意味=オリジナリティーと言えると思います。

最後に取り上げたいのが、アンケート調査についての考え方です。

 リアルを知る一番いい方法は、当事者へのヒアリングです。その社会問題の当事者一人ひとりに直接話を聞いていく。そうすることで、実際はこうだとか、本人はこんなふうに考えていたんだ、といったリアルな状況や隠れた原因が出てきます。
 だから、僕は常々「アンケート調査はやらないでいい」と言っています。いくら大勢の人にアンケートを実施しても、おおまかな傾向を知ることはできますが、対象者のリアルな姿に迫ることは絶対にできません。…

同上

これも探究学習にあてはまる注意点だと思いました。
中高生が実施できるアンケートには、対象数やサンプルの抽出の点で限界があります。
また、大規模なアンケートがすでに実施されていることもあります。

(↑社会調査データを収集し、蓄積されたデータを研究・分析のために
提供しているデータアーカイブや関連するサイトへのリンク集)

自分でアンケートを実施して数字が出てくると、「やった感」が得られるのですが、リアルに迫るための入口以上のものではないと考えるのが、意味のある研究には大切だと思っています。

   *****

新しい学習指導要領により高校で全校実施となっている「総合的な探究の時間」。数年後、社会の課題を鋭く見る眼を持った世代が世の中に出てきてくれるのは、とても楽しみです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?