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「100年後、今よりもっといい海に」光斎翔貴 立命館グローバル・イノベーション研究機構 准教授 @立命館大学オンライン講義 | 大人の学び

立命館大学のオンライン講義「学びのプラットフォームMIRAI」。
会員登録するだけで誰でも受講でき、無料のものも提供されています。

今回受講したのは、
【かもしれない未来 20XX年】眠る資源を覚醒させる(全5回)の
第4回「100年後、今よりもっといい海に」。
とても示唆に富む内容でした。

ひとことで言うと、
ブルーカーボンのために
未利用魚を使ったドッグフードの生産・販売をする
ソーシャルビジネス

の話です。


◼️講師は、光斎翔貴 立命館グローバル・イノベーション研究機構 准教授。

学部時代は物理工学専攻で、大学院ではエネルギー科学。
その方が、未利用魚を使ったドッグフードの生産・販売とは!?
(↓のデータによると、大学院時代の奨学金を、優れた業績により返還免除されておられました。そんなシステムがあるのですね!)


◼️ブルーカーボンとは?

光斎先生の研究・活動の鍵となる概念は、ブルーカーボンです。
私は今回初めて知ったのですが、15年前の国連環境計画の報告書で定義され、現在注目が集まっているようです。

沿岸・海洋生態系に取り込まれ、そのバイオマスやその下の土壌に蓄積される炭素のことを、ブルーカーボンと呼びます。
2009年に公表された国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue Carbon」において定義され、吸収源対策の新しい選択肢として世界的に注目が集まるようになりました。
ブルーカーボンの主要な吸収源としては、藻場(海草・海藻)や干潟等の塩性湿地、マングローブ林があげられ、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれています。

環境省「ブルーカーボンに関する取組み」 
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/blue-carbon-jp.html

偶然にも、翌日の日経新聞で特集されていました。

翌日の新聞での特集(本文は読めません)

◼️CO2の吸収量は陸域よりも海域の方が大きく、固定期間も長い。

講義の中で示された資料↓によれば、年間のCO2吸収量は、
陸域19億トンに対し、海域29億トン
また、先生のお話によれば、再放出までの期間も海域での方が桁違いに長い。

これが注目を集めている理由です。
海に囲まれた日本としても、やるべきこと、すべきことがありそうです。

国土交通省港湾局 「海の森ブルーカーボン CO2の新たな吸収源」2021年3月発行 2023年6月更新
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001616134.pdfより

◼️日本で藻場が荒れる一因が未・低利用魚

ブルーカーボンを進めるためのアプローチは、いくつかあるようです。上記の日経新聞で書かれていたものは…
・肥料となる栄養塩類(窒素・リン)を含む下水処理場の水を適切に調整してから放流する。
・海洋植物の成長を促す二価酸やケイ酸がゆっくり溶け出す海藻育成ガラスを海に沈める。
・深い海での、多種の養殖を可能にする多段式の海藻養殖設備を設置する。
・海中のCO2濃度を計測するセンサーや藻類の生育状況を計測する水中カメラといったモニタリングシステムを開発する。
…といったものでしたが、

光斎先生が注目したのは、磯焼けの原因となる、海藻を食べてしまう魚の駆除と活用でした。

磯焼けとは…

磯焼けとは、「浅海の岩礁・転石域において、海藻の群落(藻場)が季節的消長や多少の 経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象」(藤田,2002) である。 磯焼けが発生すると、藻場の回復に長い年月を要し、磯根資源の減少や成長不良 を招き、沿岸漁業に大きな影響を及ぼす。

水産庁
https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_gideline/attach/pdf/index-36.pdf

この磯焼け、衰退が進行していて消失率が年間2〜7%で、アマゾンの熱帯雨林の4倍以上のスピード。CO2の吸収だけでなく、海のゆりかごでもあるため、生物多様性を失う原因ともなるとのことでした。

要因は複雑ですが、
・海水温の変化で植生が変化
・栄養塩(窒素・リン)の欠乏
・植食性魚類(アイゴ・イスズミ)対策が進んでいない
といったことがあるそうです。

◼️植食性魚類をどうやって駆除するか

この魚、おいしかったら食べればいいのですが、独特の臭みがあるためこれまでほとんど食用にされていません。

だからと言って、網にかかったものを焼却処分すると、CO2が発生してしまいます。そのため、なんとかレシピを工夫して(人間が)食べようという試みもあるようです。

これに対し、光斎先生が考えた、これらの魚を大量かつ継続的に活用する方法は、質の良いドッグフードに加工して販売するというものでした。

私が理解したこのビジネスのポイントは以下の点です。

<臭み対策>
・水揚げされた漁港近くで内臓を除去して冷蔵
・委託先工場で加熱・乾燥しペレットに加工

<商品開発・マーケティング>
・食いつきテストなどを実施し、一度気に入れば同じ味を食べ続ける犬用から商品化
・比較的高額でも購入してもらえる高品質(「総合栄養食」)の商品設定
・マーケットを広げ、定期購入の設定もできるネット販売

<ビジネスとアカデミックの協働>
・ビジネス部分を担ってもらえるパートナーとの分担
・藻場再生に関する課題設定と効果測定に学術研究力を発揮

詳しくは商品販売のサイト↓をご参照ください。


◼️ ソーシャルビジネスを成立させる条件を実例で示してくれた

高校の探究学習では、おおむね
課題設定のための準備調査>研究課題の決定>仮説の設定>仮説に基づく実地調査>考察・仮説の修正〜再調査の繰り返し>結論
といった順で研究を進めます。

これに対して、ソーシャルビジネスの場合は、
同様のステップを踏みながら結論として解決策を立案するところまで到達し、同時にビジネスとしても成立・継続させることが必要になります。

学校での学習では各ステップをていねいに進めることを大切に考えて指導していま
した。しかし、現実の世の中としては社会実装まで進める必要があります。


学習の目標を必ずしもビジネスプランまで持っていく必要はないと考えますが、指 導する教員としてはそこまでを視野に入れておくことが重要であると考えます。

そうすることで、基礎的な部分の研究であっても、現実的な意味のある「本気の」 質の高い研究を生徒たちがめざせるようにチェックポイントを示すことができると 思うからです。

ー「原因はそれだけだと考えていいのか?」
ー「最も注目するべき原因はそれなのか?」
ー「これまでに取り組みはあったのか、問題は残っているのか?」
ー「その解決策は誰がどのように行えるのか?」
といったチェックポイントをです。

今回の活動紹介は、そのために必要な「ソーシャルビジネスを成立させるための条
件」を具体例で示してくれました、と考えています。

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