⽊内みどりさんの生き方と逝き方ー夫の水野誠一さんが語ってくれました。
多数のドラマ、映画に出演し、東⽇本⼤震災以降は脱原発集会の司会を⾏うなど積極的に社会・政治問題に関わっていた⼥優の⽊内みどりさん。2019 年に急性⼼臓死のため突然他界し、ご家族はかつてみどりさんが語っていた希望通り、葬儀を⾏わず、遺⾻を散⾻しました。強い信念を持っていたみどりさんの死⽣観と「逝き⽅」を、夫の⽔野誠⼀さんが語りました。
多数のドラマ、映画に出演し、東⽇本⼤震災以降は脱原発集会の司会を⾏うなど積極的に社会・政治問題に関わっていた⼥優の⽊内みどりさん。2019 年に急性⼼臓死のため突然他界し、ご家族はかつてみどりさんが語っていた希望通り、葬儀を⾏わず、遺⾻を散⾻しました。強い信念を持っていたみどりさんの死⽣観と「逝き⽅」を、夫の⽔野誠⼀さんが語りました。
「延命治療なし、人工呼吸器×、読経、戒名なし……」信念感じる遺言状
みどりさんが亡くなった翌々⽇、ご家族が⾒つけた遺⾔状には、こう書かれていたといいます。
ご家族はしかし、この遺⾔状を⾒つける前から、みどりさんの理想の送り出しに沿うように動いていたといいます。それは、みどりさんが折に触れて「私が死んだら、こんなふうにしてほしい」と伝えていたからこそ。「単なる思いつきで、そういうことを⾔う⼈ではない。だからきちんとやってあげたいと思っていました」と語るのは、夫の⽔野誠⼀さんです。
まずは、どのようなお見送りをされたのかを伺いました。
仕事先の広島で急逝、火葬を済ませて東京へ
――みどりさんは 2019 年 11 ⽉、広島で急逝されたと伺っています。どのような状況だったのですか。
「みどりは広島の『平和祈念資料館』で朗読の収録を終えて、懇親会の後ホテルに戻り、⾃室内で急性⼼臓死のために亡くなりました。翌朝、みどりが約束の時間になってもロビーに降りてこないことに気づいた知⼈が部屋へ様⼦を⾒に⾏き、⾒つけてくれたのです。
それを知らせる電話が鳴ったのは、私がちょうど仕事に出かける準備をしているときでした。娘と合流して急遽広島へ向かい、娘と合流し、相談して決めたのは『遺体は東京へ搬送せず、広島で⽕葬する』ということ。
現地の葬儀社に尋ねたところ、ちょうど翌日⽕葬場に空きの時間があったため、そこへ予約を⼊れました。その夜は、駆けつけてくれた友人を含めてごく内輪の 4 名だけでお通夜をし、翌⽇に⽕葬を済ませて東京へ戻りました。
改めて考えれば、出先で急逝し、すぐに⽕葬を済ませたことで、みどり本⼈がやってもらいたくなかった『読経』や『告別式』への流れを断ち切れたのではと思います。亡くなったのが東京だったら、あるいは遺体を東京に搬送していたら、さまざまな⼈が関わるなかで葬儀への⼤きな流れに巻き込まれていってしまったかもしれません」
――その後、2020年2月には「木内みどりさんを語りあう会」が催されましたね。
「はい。みどりを本当に愛してくださった⽅々から『義理なんかではなく、楽しく語りあう会をやって欲しい』という話が出たためです。⽣前みどりが好きだった『国際⽂化会館』で、『⽊内みどりさんを語りあう会』と『⽊内みどりお別れの会』を開催しました。
本⼈の遺志に背いてしまったかもしれませんが、読経も献花もなく、笑顔に包まれた会だったので、みどりにもきっと許してもらえたことでしょう。
葬儀を⾏いませんでしたから、葬儀社に⽀払ったのはたったの 10 数万円です。お別れの会は会費制でも、それなりの持ち出しにはなりましたが、それは皆さんとともに語りあう空間と時間を⼤事にしたかったからこそ。葬儀そのものにお⾦をかけたわけではありません。
⽣前のみどりは、『⽇本では、仏教が商売になってしまっている』と嘆いていました。イベントとしての葬儀は、⽣きている⼈の⾃⼰満⾜の世界。気づいていない⼈は多いですが、葬儀というシステムに疑問を持つ⼈が、もっと多くなってもよいのではないかと、私⾃⾝も感じています」
気持ちより形式を重んじる葬儀に怒り
――みどりさんのご遺⾔に「葬儀社が仕切ること⼀切なし」とあるのが印象的でした。みどりさんが葬儀社嫌いになったきっかけは、何だったのでしょうか。
「思い出すエピソードがふたつあります。⼀つは、みどりの⺟親の葬儀で、みどりが葬儀社の社員に向かって怒っていたことです。
みどりは⺟より先に⽗を亡くしましたが、そのとき他の兄弟や葬儀社の差配により流れるように葬儀が終わってしまったことが、気になっていたようです。そして⺟親の葬儀においても、速やかに粛々と儀式は営まれました。彼⼥としては、愛する⺟とゆっくり最後の時を過ごしながらお別れしたい。それなのに葬儀社の社員は、⽮継ぎ早にいろいろな指⽰をしてくる。とうとう想いが爆発してしまったのではないでしょうか。『指図しないでください! 誰のための葬儀なんですか?』と叫んでいました。
もう⼀つは、20 年くらい前のことです。親族の葬儀があって、みどりは仕事先から⿊い洋服と⽩いバスケットシューズで現れました。みどりとしては、⿊と⽩の服装なのでマナーとしては⼗分だと考えていたようです。しかし親族の⼀部から『バスケットシューズでお葬式に来るなんて⾮常識な⼈だ』という声が上がり、みどりの⽿にも他の親族づてに、その声が⼊ってしまいました。
ふだんから常識や形式、慣習に縛られて⽣きるのは嫌だと⾔っていたみどりです。『⼤事なのは気持ちなのに』と憤慨し、すっかり形式的な葬儀が嫌いになってしまったようです」
みどりさんご⾃⾝の⼿記にも、こうあります。
段ボールの棺で納棺体験、散⾻への憧れ
――葬儀というシステムに疑問を持っていたみどりさんですが、そのぶん「このように送られたい」という気持ちが強かったことが、遺⾔状からもみてとれますね。
みどりさんがウィルライフ社の段ボール製棺「エコフィン」を気に⼊って、棺へ⼊ってみる「納棺体験」にも参加されたと伺っています。
「私もみどりもかねてから環境問題に興味を持っており、また『お⾦は心豊かに⽣きるために使いたい。亡くなったときに、お⾦をかけて欲しくない』という気持ちがありました。⽇本では、どんなにシンプルな⾒送りにしたとしても、遺体を棺に⼊れなければ⽕葬してもらえないと聞いています。最終的に必要なのが棺であれば、環境負荷が少なく、経済的にも負担が少ない段ボール製の棺が好ましいと思います。
広島では急いで⽕葬をする必要があったので、エコフィンを取り寄せることは不可能でしたが、⽣前に 1 回、⾃⾝が希望する棺の中に⼊れたというのは良い体験だったのではないかと思います。」
――散⾻についても、実施されたのでしょうか。
「はい。みどりは常々、遺⾻の弔い⽅にも疑問を呈していました。遺⾻を骨壺に⼊れて、針⾦で縛って、暗いお墓の中に⼊れられて。そのうち陶器内には⽔が溜まり、遺⾻が濡れてぐちゃぐちゃになってしまう。そんな状態で弔われるのはイヤだ、と。
また、船酔いする体質だから海ではなく⼭に散⾻されたいとも⾔っていました。結果、⽣前にみどりがここと決め、⼭の持ち主に散⾻の許可を得ていた場所に、粉砕してパウダー状になったサラサラの遺⾻を撒きました。
その散⾻場所へは、私もみどりに連れられて、⾏ったことがあったのです。『あなたの遺⾻を僕が撒くわけないでしょう。どうして、僕がその場所を⾒に⾏かなきゃならないんだ?』と、ぶつくさ⾔いながら(笑)。当時は、私の⽅がみどりよりも先に逝くものだと思っていましたから。私の⽅がいくつも年上ですし、男性の⽅が⼥性よりも平均寿命が短いですからね。でも、みどりは常々『どうも、私の⽅があなたより先に死ぬような気がする』と⾔っていたのです。結果、予感通り、まさかの出来事が起こりました。普段から直感⼒に優れたみどりのことです。広島で急逝の連絡を受けたときも、頭が真っ⽩になるほどのショックを受けた反⾯、『やはり』という不思議な納得感がありました。娘も『お⺟さんが⾔っていたとおりになった。納得した』と⾔いました」
シンプルな葬送サービスが、この国には必要だ
――みどりさんはもとより、⽔野さんご⾃⾝も、とくに近著『否常識のススメ』を拝読すると「今までの常識を⼀度疑って否定してみる」ことが⼤事だとおっしゃっています。⽔野さんは、ご⾃⾝の⾒送りについてどのようなご希望があるのでしょうか。また、⽇本の葬送は、どのように変わっていくべきと思いますか。
「私も、みどりの影響を受けているのかどうか、葬儀についてはしなくていいなと思います。お別れ会程度でよいのではないでしょうか。お墓も⼊りたくありません。
実は、みどりの希望する散⾻場所へ ふたりで訪れたとき『この場所はいいね。僕もここへ散⾻してもらおうかな』と⾔ったのです。するとみどりには『あなたはあなたで、気に⼊ったところを探しなさいよ』と⾔われてしまいました(笑)。
みどりは⽣前『あなた、なんでもやるんだから、新時代のお葬式屋さんをやりなさいよ』なんて私に⾔ったことがあります。『今までの世代は常識に縛られて形式的な葬儀をやってきたけれど、これからの若い世代は違う。宗教やしきたりを⼀切排除した、シンプルな葬儀のサービスが 必要だ』と。
また、みどりは『今後、みんなお墓参りなんてしなくなる』とも⾔っていました。葬儀だけではなく、遺⾻の⾏⽅にも、みんな困りつつありますね。私⾃⾝、複数ある先祖の墓の墓じまいに困っています。墓じまいをするにもけっこうお⾦がかかるようで、どうしようもなくて今のところは放置状態です。
シンプルな⾒送りをした後、遺⾻を粉砕して、散⾻までサポートしてくれるようなサービスがあったら、とても理想的ではないでしょうか。きっとこういった、新しい葬送のスタイルを求めている⼈がいると思いますし、今後、益々求められていくのではないかと感じます」
常に常識を疑い、形式的なだけの葬儀を嫌っていた⽊内みどりさんが熱望した⾒送りの形。みどりさんの想いに、⾒事なまでに応えた⽔野さん。みどりさんが訴えた「だから、葬儀社が嫌い」という気持ちへ真摯に向き合う責任が、葬儀業界には、あるのではないでしょうか。
語ってくださった⽅:故・⽊内みどりさんの夫、⽔野誠⼀さん