教員給与の大ジレンマ
先生は忙しい。
その事実が大々的に知られるようになって久しい。
しかし、先生は教職調整額といって基本給の4%(1966年時点の平均的な超勤時間に基づく)が定額で支払われるだけで、どれだけ残業しようと手当は付かない。
なんと言うことだ!!!!
と、いう話ももはやかなり有名になってしまった。
さらに、平均的な残業時間は、小学校・高校で大体月50時間程度、中学校は60時間程度と言われている。実態としては、月80時間以上の「過労死」水準でコンスタントに働かれている方も、ザラに居る。
(文部科学省が公的に、「教員勤務実態調査」を行っており、ハッキリと過激な労働実態がデータで明らかにされている。)
これだけの働きに対して、半世紀前の月8時間程度の残業時間に基づいて決められた分だけしか手当されていない。(実際には、教職調整額は基本給のみならず、ボーナスや退職手当のベースにもなり、さらには一般行政職より1割程度優遇された基本給であるため、全体としては8時間分以上に手当されている。)
なんと言うことだ!!!!
国家の明日を担う子供たちを育てる、重要すぎる仕事をしているのに、この惨状である。
改善すべし!!!
今、まさにこの問題について大きく機運が高まっている。
しかし、である。
実際に手当を改善するとして、打てる手立てがなくなってしまったのだ。
どういうことか。
文部科学省のものをはじめ、様々な調査で信じられないほどの残業をしていることが証明されてしまっているということは、教職調整額を廃止して時間外勤務手当を支給することとなると、財政が秒で破綻するのである。
こうだ。
平均年齢が40歳くらいで、その基本給は大体35~36万円ほど。いまはここに4%がついている。
しかし、時間外勤務手当となれば、基本給を1月の所定内勤務時間(約160時間)で割って時給を出し、1.25倍したものを、残業時間分掛ける。
つまり、
350,000円 ÷ 160時間 × 1.25 × 60時間 = 164,040円
公立学校の教員はおそよ90万人居るので、
160,000円 × 900,000人 = 144,000,000,000円……
約1,400億円……
これが、1ヵ月分の残業代である。
12ヵ月を掛けると……もはや目も当てられない額となる。
ちなみに、ご存知のことと思うが、休日出勤ならば時間外勤務手当は1.35倍、午後10時を過ぎた分と月60時間を超えた分は1.5倍であるが、上の計算はそれを考慮していない。
さらに言えば、公務員には地域手当というものがあり、最大で20%が基本給に加算されるが、当然時間外勤務手当にも跳ね返る。それも、考慮していない。
つまり、無理、なのである。
もし、公的な調査も何もなく、今でも教師は月10時間くらいしか残業してません、「ということにできていたなら」、教職調整額の廃止と時間外勤務手当の創設をセットにできたかもしれない。
しかし、もはや教員の苛烈を極める残業量が白日の下に晒され、時間外勤務手当を払うならばその分全てを手当しなければ辻褄が合わなくなってしまった。
これこそ、
行くも地獄、行かぬも地獄、戻るも地獄
である。
ちなみに、妥協策として、教職調整額の4%を1ポイント上げて5%にします、という計画にするとしても、ほぼ無理と思われる。
簡単にするため平均年収を600万円とする。(本当はもっとあるが、詳しくは割愛する。)
そのうちの1%なので、
一人あたり、年額で60,000円の増額ということになる。
60,000円 × 900,000人 = 54,000,000,000円
さらに、前述のように退職手当にも跳ね返る。
大体年間の退職者数が32,000人くらい。
その手当額は少なめに2,000万円として、その1%が増える。
つまり、
200,000円 × 32,000人 = 6,400,000,000円
540億円 + 64億円 = 604億円
これはかなり少な目の見積もりである。
地域手当は教職調整額も含めた基本給に掛かるので、教職調整額が増えれば、地域手当も自動的に増える。
1%上乗せするだけで、年間600億円以上の負担増となる。
我が国に、いまのこの国に、ポンと600億円を出す余力が、果たしてあるだろうか。
…………
絶望的、、
そう、ジレンマなのである。
残業代を払うならば、財政破綻。(とは言わないまでも、財源のアテなど全くない。)
教職調整額を増やしても、1%上げただけで600億円以上の負担。しかし、5%の調整額では月60時間の残業を補うには果てしなく遠い。その程度では働きに見合う分増やしたことにならない。
ヤバい。ヤバすぎる。
人材確保特措法によって一般公務員より給与を優遇したことにして、給特法の教職調整額によって年収の天井を定め、一般公務員以上には稼げなくする。
直接子供たちを育てるという崇高な使命を背負う、という聖職者感を醸し出して、奴隷労働させる。
これが、紛れもない今の我が国の教育の姿なのだ。
どうすればいいか。
簡単である。
教師の仕事を根本から変える、いや、元に戻せばよい。ただ、それだけ。
ご存知だろうか。日本の先生は、子供が家出したら探しに行かなければならない。
ご存知だろうか。日本の先生は、子供が補導されたら警察に行かなければならない。
ご存知だろうか。日本の先生は、給食の際、専門知識も無いのに子供のアレルギー管理をしなければならない。
ご存知だろうか。日本の先生は、新型コロナウイルスに関して、校内の対策をほぼ全て考え実行しなければならない。誰も教えてくれない消毒作業をし、深夜までかけて出るかもわからない親のケータイに休校連絡を掛け続けなければならない。
これらの仕事には、手当が出ないことも、とても多い。
なぜこんなことを教師がしているのか。しなくてもいいのに。
本来、家出対応も補導対応も親の仕事である。
アレルギー管理をしなければならないならば、専門知識のある栄養士や栄養教諭を必要数分配置するべきである。
コロナ対応も、同じく専門知識のある者を必要数分配置したり、電話要員は暇な役所の窓口部署から引っ張ってきたりすればよい。
それをしないのは、教師が「定額働かせ放題」だからか。
私たちが今するべき議論は、教師の仕事を減らすこと。
いや、議論するまでもない。
明日にでも、やらねばならない。
遅すぎたが、やらねばならない。
今目の前でこの国が壊れていくのを止めなければ、壊れきる前に、止めなければ。
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