音楽を聞かなかった人間が10回ライブに行った一年のこと

はじめに

今年のライブ納めは11月だったので今年はもうライブに行かない(気になる公演はあるけど卒論でライブどころではない)。
熱心に音楽を聞くようになったのは今年に入ってからなので、こんなにライブに行ったのは初めてで、どのライブもとてもよい体験だった。わたしはとても忘れっぽいので、忘れたくないことはきちんと記しておこうと思う。

そして、特定のバンドの曲を聞きながら音楽に対して強い興味もなかったのに、なぜ音楽を聞くようになったのか、整理したいという欲望もある。先回りして書いておくと、音楽に興味がなかったのは流通する音楽の情報の受容の仕方に関係があっただろう。身近に特に音楽を聞く人がいない環境で育ち特にテレビも見なかった人間の中で、大学進学時に上京してようやく音楽を聞く人たちに出会ったという環境の変化を通して何が変わっていったのか?

ともあれまずはライブの備忘録から。
感じ方の変化も、ライブに行って生でその音楽を聞きたいと思わせてくれた作り手がいなければ起こらなかったことなのだから。

5/23 くるり「列島Zeppェリン」@Zepp 東京

くるりのライブはこれで2回目。
はじめて聞いた「琥珀色の街、上海蟹の朝」ファンファンの声がとても合っていて。「WORLD’S END SUPERNOVA」の前奏で会場が湧く瞬間も強く記憶に残っている。
くるりのライブは曲のブラッシュアップがすごくて、普段聞き流しているアルバム曲がライブで輝く。「Tonight is The Night」は特に好んでいた訳では無いのに、演奏を聞いていい曲だな、と思えた。
アンコールでツアー名にちなんだLed Zeppelinの曲を2曲やり、1曲目でボーカルを取ったファンファンがかっこいい。弾き語りで「東京」を聞けたのはこの日だけのようでそれも嬉しかった。

7/15 くるり 列島ウォ〜リャ〜Z@広島CLUB QUATTRO

夏学期の授業が終わってすぐ帰省していたので行くことができた。(8月は院試で帰省どころではなかった)
はじめて最前列でライブを見られた。番号は決して良くなかったのだけれど、開場時間に入場している人が少なかったのと避けられがちなスピーカー横を陣取ったことによる。
セトリ自体は列島Zeppelinでと結構かぶっていた。演奏は「ばらの花」をはじめて生で聞けたこと(喜びで前奏がかかった瞬間1人で湧いた)、東京OPの早弾きが素人目に見ても超絶技巧だったことが印象深い。
君島大空のEPで知った石若駿がドラムを叩いていたので、これが遠視のコントラルトのドラムの人か、と思っていた記憶もある。
じつはMCの方が記憶に残っていて、カープファンの岸田繁がある意味ホームの広島で妙なテンションになっていて面白かった。試合が気になりすぎてMCの度に経過を裏方の人に聞く、などとある意味やりたい放題なのが見ていて楽しかった。勝って連敗が止まったからいいけど負けたら空気やばかったんじゃないかな…

8/7 羊文学 まばたき@渋谷CLUB QUATTRO

羊文学のライブに行った。聞き始めたのは1年くらい前からで、ずっと気になっていたのでワンマンライブをするのを知って即チケットを取った。
ライブだとドラムの強さが際立つのを感じたし、轟音は生だと身体に響いてよい。
「きらめき」リリースツアーの最終日でもあるので、「きらめき」の曲は全て聞けたし、「踊らない」「コーリング」「絵日記」「若者たち」など、好きな曲がたくさんかかった。
演奏だけでなく、照明がものすごく良くて、カラフルな照明ではなく色を抑えた光が使われていた。羊文学の透明感とよく合っていたと思う。
MCのときの声を聞いて、私はこの人の作る曲、バンドの演奏だけじゃなくて声がどうしようもなく好きなんだな、と思った。唯一無二の声。
「ソーダ水」が個人的ベストで、炭酸水を使って映し出された水の影を背景に聴くことが出来るのは後にも先にもこのときだけだったのかもしれない。
新曲や音源になっていない曲を聞けたのも良かった。12/4にリリースされたシングルにも収録された「人間だった」より「祈り」「生活」の方が個人的にはぐっときたのでこちらもいつか音源化されてほしいな。
このあとも2回、羊文学の演奏を聞く機会があったけれど、この日の演奏が1番強く印象に残っている。

一緒に行くはずだった同居人が行けなり、はじめて1人ライブだったけれど、同じく1人で来ていた同居人の友人(顔見知りではあった)と会場で偶然出会い、近くで見て終演後少し感想を話した。同居人から聞いていて話してみたい人ではあったのでその点も嬉しかった。

8/8 APOLLO SOUNDS presents "Lunar Orbit Rendezvous"(CRCK/LCKS 君島大空)@渋谷WWW

君島大空を知った後、そのときチケットが取れるライブで1番日程が近かったのがこのライブだった。8/24に院試の一次試験があり羊文学と連続はちょっと…と思って断念していたけれどこれも行くはずだった同居人が行けなくなりチケットをもらい受けた。

先に演奏したのは君島大空。「散瞳」からハマったのでそれが聞けて嬉しかったし、遠視のコントラルトは音源でもいい曲なのに生のバンドサウンドだと威力がえぐいな、ということを考えながら聞いていたように思う。
素人でもわかるくらいギター上手い人の演奏で、すごいものを見せられたな、という気持ちにもなった。
石若駿と2人で演奏した「琥珀の煙景」もすごく印象に残った。

三日前くらいに突然行くことになったのでこの時点ではSoundCloud上の曲の聞き込みが足りなかったのは聞き手としてあんまり良くなかったな…という反省があります。

CRCK/LCKSは2017年12月
に行ったイベント(冬銀河 DINNER SHOW 2017)で小田朋美さんが「たとえ・ばさ」を歌っていたのを聞き、それで存在は知っていて曲もちょっと聞いたことはある、くらいのバンドだった。
そのときはあまり刺さらなかったけれど、ライブに行くことになって聞いてみたらすごく良くて(聞けば聞くほど癖になる感じ)演奏を聞くのをとても楽しみにしていた。
演奏は楽器のことは何ひとつわからなくてもこれはものすごく技術のある人が、技術だけではない部分で力を発揮するとこういうアウトプットになるのだろうな、と感じた。化け物みたいなバンドという表現は失礼かもしれないけれど、高い演奏技術に形式への思考が伴わないとこういうものは作れないんじゃないか、くらいに思わせるような凄み。これはこの日見た君島大空にも共通して感じたことではあります。(楽器を弾けない人間が言うと何ひとつ説得力がないな…)
全体としてすごいもの見せられたという印象が強すぎてかえって個々の曲の演奏の印象は具体的に覚えていないけれど、「クラックラックスのテーマ」はよかったな。あの曲は明るくポップなメロディにうっすら狂った歌詞なのも好きな曲です。

ライブ自体はアンコールの最後でCRCK/LCKSと君島大空が一緒に歌ったはっぴいえんど「風をあつめて」で明るくのびやかに終わった。

9/7 羊文学@藝祭 2019

藝祭であった羊文学のステージ。フェスに行ったことがないし、今後も行くかどうかわからないから屋外で聞ける羊文学はレアだな、と思って藝祭の展示を見がてら行くことにした。

屋外だとライブハウスとやっぱり違ってなんだかさわやかな気持ちになった。ちゃんと見える場所で聞きたかったのでリハの時間からいたら、リハで本番でやらなかった「踊らない」を聞けた。
羊文学で1番好きな曲のうちのひとつ(もうひとつは「ソーダ水」)、「マフラー」をはじめて聞けたのがよかった。
ただ演奏の問題ではなく、機材の問題だと思うけれど途中ハウリングしていたりしたので、ライブハウスで聞く方が音質はいいのかな、と思わなくもなかった。

わたしは最前にいたけれど気がついたら後ろに羊文学を聞きに来た人がかなりの数いた。
終わったあと同居人、前述の同居人の友人やサークルの後輩などと出会って、羊文学が好きな人が身近にいることがわかりそれも嬉しい出来事だった。

9/15 トオイダイスケ 『greyish blue』リリースライブ@渋谷公園通りクラシックス

冬銀河 DINNER SHOW 2017でトオイさんが歌っていた「双子座」、そのあとにApple Musicで聞いた「休日」は好きだったのだけど、ライブのことを知った時は前日まで旅行なので昼のライブなら起きられない可能性がある、と思って迷っていた。
このライブの企画者の佐藤文香さんからお誘いがあったことがきっかけで起床は気合でなんとかしようという決心をして行くことにした。トオイさんは俳句の書き手でもあるので、会場では俳句の友人たちとも出会った。

鴇田智哉さんの俳句の朗読とトオイさんの演奏による「greyish blue」がものすごくよかった。一度読み上げた俳句をまた別の箇所で繰り返す繰り返し方も良くて、俳句自体も音楽と合っていた。音楽と組み合わせた俳句の朗読は以前も聞いたことがあるけれど、このときのものは俳句と音楽の相乗効果を強く感じさせた(以前聞いた朗読は敢えてコミカルに仕立てていたので単純に比較できないけれど…)

インスト曲のライブに行くのははじめてで、歌モノは歌という明らかな聞きどころがわかるけれど、インスト曲で自分が聞きどころをちゃんと掴めるのだろうか?という不安はあったけれど、トオイさんによるピアノの独奏、マリンバ奏者の方との合奏は聞いていて心地よく、難しく考えずに来て良かった、と思わせるようなものだった。

来ていた俳句の人と打ち上げに合流させてもらい、トオイさんから音楽と俳句の類似点や音楽の話などを聞けたのも良かったな、と思う。
三次会で行ったお店がお新香盛り合わせできゅうりのキューちゃん2種類を出してくるようなタイプのぼったくり店でそれはそれで面白かった。

9/23 夜会vol.2 (君島大空(合奏形態) 羊文学)@新宿MARZ

君島大空による自主企画。君島大空の自主企画自体は4月にもあったのだけれど、わたしが君島大空を知ったのは7月なのではじめて行く君島大空企画のライブだった。

対バンは羊文学で最高の組み合わせだと思った。羊文学にも君島大空にも繊細さは要素として含まれていると思っているので、連続して聞くのに気持ちがゆるやかに繋がっていける気がした。羊文学は「マフラー」が藝祭で聞いた時よりずっとぐっときたことが印象に残っている。イントロを長くするアレンジだったと思うけれど、それがどきどきする感じで。「天気予報」で明るく終わるのもそれはそれでよいなあ、と思った。

羊文学の轟音に対して、君島大空合奏形態の演奏は「瓶底の夏」から始まった。動と静の対比のようで、この時点から既に惹き付けられ始める。
「夜を抜けて」と静かな曲が続いたあとに「都合」「散瞳」「鬼壓床」とまた動的になり、「花曇」「向こう髪」と君島大空1人の弾き語りになる。ガットギターの音の強弱がそのまま情動の動きのようで揺さぶられて泣きそうになってしまう。
「遠視のコントラルト」は8月にライブで聞いていたけれど、それ以上の威力で押し寄せる音の洪水という感じであり、ものすごい、という言葉では零れ落ちてしまうものの現前。
「午後の反射光」にも同様の印象を受けたけれど、こちらは繊細さが際立つ。自分が一番聞きたいと思う音楽のイデアの受肉のような気がしてずっと聞いていたかった。(気軽にイデアを持ち出すと怒られてしまうが…)
アンコールは崎山蒼志「潜水」のカバーに始まり、弾き語りだと音源の印象とまた違ってどちらも好きだな、と思った。
最後は「幻聴のあらまし」で明るく終わる。アウトロの終わるかとおもったら音が続いて終わらない感じが、この幸福な時間が引き伸ばされているようで良かったな。この曲の躁っぽさはとても好きなのでいつかリリースされて欲しい曲のひとつ。

実はこの公演、先行抽選に外れ、家のwi-fiが重すぎてもたもたしている間に先着販売が始まった時間にアクセスしたにも関わらずチケットを買えなかった。
慌ててTwitterで検索をかけて、チケットを余らせている方を見つけ譲っていただくことができた。執念は大事。

9/29 BABY BLUES Vol.29(クガツハズカム(佐藤千亜妃) 君島大空)@三軒茶屋Grapefruit Moon

合奏形態だけでなく君島大空1人のライブも一度見てみたいな、と思っていたところにクガツハズカム(佐藤千亜妃の弾き語りのときの名義)とのライブが告知された。きのこ帝国休止後の佐藤千亜妃の活動も気になっていたのでものすごくちょうどいい企画だった。

合奏形態のライブでも弾き語りをすることはあるけれど、全部弾き語りなのははじめてで、これは本当にギター1本から出ている音しかないのか…?と思う。
アコギをストロークでかき鳴らしたりするけれど、どうしても音は少なく、それゆえの余白を楽しむというのが君島大空と崎山蒼志のことを知る以前の弾き語りのイメージだったけれど、弾き語りもこんなに豊かな音像がありうるのか…と知った。
特に「向こう髪」に顕著に現れる気がするけれど、ギターも歌っているようなあの音色と音の多さ…
「遠視のコントラルト」もエレキギター2本、ベース、ドラム、という編成じゃなくても合奏形態とは別の厚みを思った。

クガツハズカムは「海と花束」から始まってSTUDIO COASTで聞いたそれを少し思い出したけれど、バンドで聞いた時は切なさや苦しさを感じるが、アコギの弾き語りは伸びやかで明るい印象。
「The SEA」とかも印象は変わるのだけどこれはこれでいいな、と思う。
アンコールの「夜が明けたら」もバンドで聞いたあの轟音を経たカタルシスとはまた違って、きのこ帝国の佐藤千亜妃ではもうないのだな、と思わせるような部分もあった。
アンコールに出てきた時、楽屋に戻ったら君島大空が「金木犀の夜」を弾いていたことを話してくれて、なんだかよい話だな、と感じた。

10/19 CRCK/LCKS『Temporary』リリースライブ (CRCK/LCKS ラブリーサマーちゃん)@渋谷 WWW X

8月のライブがすごく良かったCRCK/LCKSと今年に入ってから聞き始めて気になっていたラブリーサマーちゃんの対バンなのでこれは行こう、と思ってチケットを取った。

ラブリーサマーちゃんは「PART-TIME ROBOT」がめちゃくちゃかっこよかった。
こういう消費の仕方が良いのかはわからないけれど、ステージでのラブサマちゃんの動きが全部かわいくて最高。曲の途中で足を振り上げたりする動きはかっこかわいいし、持ってきていた水がなぜか2Lのペットボトルで、MC中にそれを煽られて一気飲みするのも観客へのサービス意識がすごい。(音楽を作る人の音楽以外の部分に言及するのは気が引けてしまう部分もあるけど、ライブはパフォーマンスでもあるのでこのくらいの言及は大丈夫だと信じたい)
最後の「わたしのうた」が1番よかったな。ライブにいくと、好きではあるけどものすごく好きではない曲の良さがわかるのはすごくいいなって思う。

CRCK/LCKSはリリースライブなので新しいアルバムの曲をたくさん聞けた。アルバムの音源もいいな、と思って聞いているのにライブだと曲の表情が変わり、それがまた良いので繰り返しライブに行きたくなるタイプのバンドだな、と思う。
たとえば「O.K.」はライブだとものすごくぶち上がるし、そういう会場全体を巻き込むようなグルーヴ感を持つ曲を演奏したと思えば「No Goodbye」のような聞かせる曲もあるし本当に幅がひろいな、と思う。アンコール前の「ながいよる」の演奏が新しいアルバムの中では1番好きだった。アルバムで聞いて特にいいな、と思ったのは「KISS」「Searchlight」だったのだけど。
どのパートもすごい、ということは素人目にも分かるのだけど特にドラムの石若駿が化け物じみた凄さで、No Goodbyeのラスサビに入る時なんかはここからさらにすごくなるの?と思いました。
「No Goodbye」「ながいよる」だけは撮影可で動画も持っているけれど埋め込めない…マジですごいんですよ…
12月にアルバムがもう1枚出るのがこのとき発表されたので楽しみにしている。

11/19 夜会ツアー"#叙景1"ツアーファイナル(君島大空(合奏形態))@渋谷WWW

君島大空初のワンマンライブ。今回は無事に先行抽選でチケットが取れた。
入場時点で2列目まで埋まっており、身長が145cmしかないのでこれは見えないかも…と思っていたら前どうぞ、と譲ってくださった方がいて見える場所で聞くことが出来た。もちろんその場でもお礼を伝えたけれどそのことに対する感謝は書いておきたい。おかげでよりライブ楽しめました。ありがとうございます…!

ツアーのタイトルでもあるインスト曲「叙景#1」の後に、音が鳴る。小気味いいけれどどの曲のイントロにもない音で、何が来るんだろう、というわくわく感。始まったのは「都合」。1曲1曲の音を聞きとろうと努め、理論なんてわからないなりに感覚にすべてを投げだすことに集中していると音の快楽で脳が溶けるような恍惚に身を任せてしまって、それぞれの曲の記憶はあるけれど順番が全然思い出せなくなっていた。
「都合」以外の曲も曲の入り方にアレンジがあってイントロが違うと最初はどの曲がわからなかったりしたけれど、音源と同じフレーズより前にどの曲か分かるとなんだか嬉しかった。
新曲の「笑止」がものすごくかっこいい。歌詞は覚えられてないけれど曲名的に「都合」「翻弄」のような辛辣ラインの曲なんだろうか、と思ったり。音源で聞ける日を楽しみにしている。
「散瞳」は今まで行ったどのライブでも演奏していたけれど、私が知る中のベスト散瞳!だと思った。すべての音があるべき所にはまっている感じ(音楽のこと何も知らないくせに何を言っているんだ?)。この曲、聞くたびに軽めの躁になったときのちょっと無敵感のあるテンションの高さを思い出してしまう。
前回の夜会の時も思ったけれど「花曇」からの「向こう髪」の流れは優しさと苦しさが透き通った心地よい音に昇華していく流れのように感じられて、聞いていると自分では訳の分からない情動(自分のものではないのに妙に生々しい)がせりあがってくる。

今回は「遠視のコントラルト」「散瞳」のPVを撮影した松永つぐみさんの映像が背景のスクリーンに投影される演出が一部の曲にあり、たしか「花曇」「遠視のコントラルト」「午後の反射光」で映像が使われていたように思う。
その映像自体の美しさ(美しいという言葉を使うのは怠慢な気はするけどそれ以外思いつかない)と音像の複雑さが生む効果がまたなんとも言えなくて、そのふたつが最上の合わさり方をしたのがアンコールの「午後の反射光」だった。

松永つぐみさんの映像に映されている対象自体は何の変哲もない自然の、都市の風景だ。ただ、その風景の輪郭、たとえば建物の輪郭が曖昧になりその外側と溶けあうような映像だった。受容者である私たちの中に蓄積されている何でもない風景と対象自体は似通っているために、特別な風景が溶けているのではないために、それは知っている風景の溶解のようでもあり、見つめ続けていると自分自身の視覚が蕩けているようにすら思える。
だからこそ、「午後の反射光」の複雑で繊細で美しい音像と合わさったとき、視覚と聴覚、要は感覚を蕩尽しているとき特有の多幸感が生まれたのだと思う。

「午後の反射光」の後、他のメンバーがステージから退出して、君島大空1人による「夜を抜けて」でライブは終わった。
豊穣さから幽さへ移り、そうして終わる。

1回のライブでこんなに多角的な音楽の表情を見ることが出来るということにも驚くし、合わせて4回生演奏を聞いているけれど聞く度に同じ曲でも演奏から受ける印象が少しずつ違うので本当に何度でもライブに行きたくなる。

夜会ツアーの追加公演も無事にチケットを確保出来たので、次のライブを楽しみにしている。

広い流通を絶対の価値にせず、偏愛を信じること

数えてみたら今年は10回もライブに行っていた。3年くらい前から聞き始めたくるりやきのこ帝国、去年から聞き始めた羊文学、そして今年から聞き始めたラブリーサマーちゃん、君島大空、CRCK/LCKS。ライブに行ったことのある人やバンドだけ挙げればそう数は多くないけれど、今年から、特に七月以降以前に比べたらかなり多くの音楽を聞くようになった。

以前は新しい音楽を知るための手だてをそもそも知らなかったために、昔熱心に聞いていたボカロ曲以外は街でも耳にするようなJ-POP以外知らなくて、でもそれが身に沿わなかったために世間で流通する音楽にほとんど関心がなかった。
時々ファイナルファンタジーのサウンドトラックを聞いていたり、何故か家にあったクラシックの音源を聞きながらぼんやりすることは嫌いではなかったけれど、まあ大雑把に括ってしまうと身近な人が支持していた大半のJ-POP(それもEXILEだとかbacknumberだとか、ごく狭い範囲の)に興味がなくて、それが世間にある音楽のすべてだと思っていたのだと思う。

その上たまに見る音楽番組では名の知れたものや今勢いのある人の音楽以外に価値はないように思わされてしまっていた。そこでは誰もが聞くものこそが取り上げられ、誰かの偏愛を受けるが広く流通しないものは決して取り上げられないし、過去の音楽はただノスタルジーの対象として消費されていたからだ。
名の知れたものしか価値がない(ように自分の目に触れるところでは取り扱われている)のに、その名の知れたものは一部の例外を除けば飛び抜けて魅力的とは思えない。耳を傾けようとしなくても耳に入ってくるような音楽は大抵男/女らしさを強く纏い、応援ソングという形で「元気がない」ことは良くないことだと無邪気に発信し、恋愛を尊び家族のつながりを賞賛する、という歌詞の背景にある価値観が自分にフィットしなかったこともあり、世間で流通する音楽自体はわたしにとって魅力的なジャンルではなくなっていった。

それでも、テレビもろくに見ず、音楽の話題を追わなくても、サカナクションのようにものすごい魅力を持った音楽に出会うことはあったし、友人が聞いていたandymoriやくるり、チャットモンチー、偶然知ったきのこ帝国、二度見た映画の主題歌と挿入歌を担当していたtofubeatsなど、大学に入ったあたりから魅力を感じる音楽がだんだん増えていった。結局音楽に対してわたしが無知であっただけなのだ。
このように、好きだと思えるものが少しずつ増えていって、音楽というジャンル自体への信頼も回復し、プレイリストなどに頼りながらでも、やっと自分で新旧問わず音楽を探せるようになったことを喜ばしく思う。
それでもうっすらJ-POPにたいする苦手意識はあって、あいみょんやOfficial髭男dismなどは少し聞いてみたあとはぜんぜん聞かない。King Gnuだけはオラつきを感じない曲だけライブラリに入れて聞いているけれど。
広く流通し、多くの人が好むものでもたぶん自分の身に沿わないと思うものを無理に信じようとする必要がない、ということもわかった。

よく聞くようになったFishmansやスーパーカーはもうライブに行くことは出来ないけれど、それでもそれが自分でしっくり来ると思えるものだからこれからも何度も聞き返すだろう。過去の音楽は決して単なるノスタルジーの対象ではなく、今も作品として生きている。
最近は音楽をよく聞く人ならば当然のように知っているだろうCorneliusなどの固有名詞、現在音楽を作る人たちが参照項としているであろう音楽を少しずつ把握しながら、CINRA.NETなどの記事を頼りに新しく出る音源を漁りながら音楽を聞いている。

今年聞いていいな、と思った中で長谷川白紙や崎山蒼志*、諭吉佳作/menなどは機会を見てライブに行きたいと思うし、今はconteという名前になっているけれど、Orangeade、D.A.N、ミツメ、Lamp、millennium parade、Yogee New Waves、集団行動など、規模も向いている方向も出てきた順番もめちゃくちゃだけれど惹かれるものが少しずつ増えてきたのはとても良いことだと思った。
SoundCloudもせっかくダウンロードしたので時々色々聞いている。最近だとPOOL(Japan)という人の「cream soda」という曲を聞いて好きになった。

ここで名前を出した音楽は必ずしも全ての人に親しまれてはいないだろうけれど、結局自分が信じられる作品や作り手がいればそれでいい、ということがわかってきたので、偏愛、かもしれなくても自分が好きだと思えるものを大切にしてゆきたい。これは音楽に限らず。23歳になってようやくわかるのは遅すぎるとは思うけれど、一生気づけないままでいるよりはずっといいだろう。





*崎山蒼志自主企画ライブに申し込んでいるので行けたらいいなどころか行くつもりだけど、こればかりは当たらないとどうしようもないので当たれ〜!と思っています

12/31追記:下北沢440のカウントダウンライブに行くことにしたので結局ライブは納まらず、合計11回ライブに行くことになった。






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