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お風呂で読み飛ばす本と、腰を据えて読む本の違い。ストーリはもちろんだけど、それ以外の部分の面白さ。

Amazonさんからお薦めされた「M・W・クレイヴン」の「ストーンサークルの殺人」を読んで面白かったので「ブラックサマーの殺人」「キュレーターの殺人」と続けて読んだのだけど、読むごとに面白くなってて「それはないだろ」とか「マンネリしてきたな」とか「またそんな感じ?」とかが一切なく、なんなら新しい作品になるに連れ面白くなってきて、仕込みも展開もラストもばっちりになって来ているのにやられている。

想像の範囲内の部分と想像を超える部分のバランスがいい。
刑事物ではあるけれど、イギリス人の自然に対する接し方や感じ方、登場人物それぞれの性格形成や、人生にまつわる出来事や経験なんかが丁寧に描かれていて、3冊目になってなお初めて明かされる出来事なんかも出て来て、興味深さが増す。

「M・W・クレイヴン」は「ストーンサークルの殺人」を執筆する時から「ブラックサマーの殺人」「キュレーターの殺人」に話を持っていく事を考えて書いてたんだろうか。そりゃそうなんだろうとは思うんだけど、ただ繋がってるだけって感じじゃないんだよね。

メインの事件はもちろんそれぞれなんだけれど、登場人物は同じだからその人達に関する話はずっと続いていくわけで、その塩梅がなんとも興味深い。
奇を衒うわけでもなく、ありそうだけどそこら辺に転がってる話でもなく、特別読み手に同情させたり、御涙頂戴にしてる訳でもなく、もう塩梅としか言いようがない。

登場人物に一貫してるのは、最悪な感じになって一度は「最悪だ」と本人が捉えても、カッコ悪くても進み続けるところかな。元気一杯ヒーロー気質があるわけでもなく、なんとかかんとか前に進んでいく感じ。
だって、そうするしか仕方ないんだよ的な。
でも、その妙に人間臭いところがいい。
いろんな事が起こった時、そんなに簡単に解決なんてできない。
そう言う時の違いって、やるか諦めるかだけの違いだけど、やるにしたって別にジリジリしか進めなくても考え続けて動き続けてたら、解決できるかもしれないじゃんくらいの努力。グズグズでも諦めてはいない所がなんかいい。

メインの事件も事件を起こす動機があるタイプだから、読み終わって納得できる。ソシオパスでやっちまいましたみたいな流れが多い中、犯人の心の動きも、どうしようもない理由も、とんでもない理由も、人間だからやっちゃった事なんだよねって思える。そういう理由をきちんと書き込んであるからそこも好感が持てる。
「やりたくて、やったんだ。べつに理由はない」っていうのも流行りって言うか、よく見られるようになって随分経つし、そういう犯人はたいてい子供の頃になんだかんだのトラウマがあってみたいな、まだそんな事を理由に話を終わらせようとしてるの?っていう本と違って、一貫性があっていい。

衝撃的な猟奇殺人とかもスタイリッシュに書かれてたら嫌いじゃないし、お風呂で読み飛ばすのにはいいけれど、人間の本質とかそこから滲み出てくる醜さや美しさを拾い上げて書いている作品のほうがやっぱり面白いと感じるし、心が動く。

自分の中にある感情以外のことを探りあてて書き出す力って、日頃の洞察力からくるのか、見逃さない力なのか、ただ目にした物や耳にした事から膨らませる想像力なのか。
ストーリーの合間に挟まれる、それ以外の部分の知識の深さもなんかいい感じなんだよね。

すでに主人公の「ワシントン・ポー」と仲間達がフロドとサムみたいに、私のなかに出来上がってしまった。とくにポーの右腕になったティリーが大好き。
詳しく書きたいけど、興味を持った人に読んでもらいたいからこのくらいで辞めておこう。

いま、4冊目の「グレイラットの殺人」を読んでる。
初っ端から面白い。リズムがいい。展開が意外。
Amazonさんでみたら8月末ころには「ボタニストの殺人」っていう新作が出るみたいだ。
夏休みの読書感想文はこれで決まりだな。

ただ、ベッドに入って続きを読むと、気がつくと4時5時になってしまうからそれだけが問題だ。


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