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エスパー伊東さんから膨大な量の未発表原稿を託されていた、へらちょんぺ氏。エスパーさんが真にめざしたものとはなんだったのか? 盟友ならではの心情、思い出、かく語りき。
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●今回、エスパー伊東さんが生前、膨大な量の未発表の原稿をへらさんに託されていたことを知り、本当に驚きました
へらちょんぺ エスパーさんはね、ほんとは文化人になりたかったんだよね
●文化人ですか?
へらちょんぺ そうなの。たまたま最初に超能力者としてテレビに出て、でも、なにもできなくて。結果として、いまで言うバズったんだけど……。オレ、おもしろくてさ。すぐ友達の家に電話しちゃったぐらい(笑)
●エスパーさんご本人としては、元々、真面目に超能力を披露したかった?
へらちょんぺ そうだったと思う。で、あらためてフジテレビに出て、また、あの人だ! とか思ったんだけど、見たら芸名が“エスパー伊東”になってるの(笑)
●エスパー伊東誕生の瞬間……
へらちょんぺ 本人は本名の伊東万寿男で出てるつもりだったから。フジテレビが勝手に変えちゃったの(笑)
●どう考えても、フジテレビの思惑は文化人路線じゃないですよね。フジテレビは悪いですね(苦笑)
へらちょんぺ 悪い(笑)。いや、フジテレビは悪いんだけど、結果的にまたまたバズってしまって。で、エスパーさんも拒否することもなく、まあ、それはそれでいいかって
●受け入れてしまった
へらちょんぺ それまで異常に貧乏だったから。凄い貧乏だったから
●世ははでやかなバブルの中にあって
へらちょんぺ オレら芸人だったらさ、ちょっとはこだわりとかあると思うんだけど、彼は芸人でもなんでもないから。金さえ入ってくればいいって思ったんだよね(笑)
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●ハハハ。まあ、売れればいいっていうのは、よーくわかりますけどね
へらちょんぺ ただ、やっていく中で、本人的に心の中では、やっぱ文化人でありたいっていうのがあって。一緒に仕事するようになって、自分は毎回楽しくやってるんだけど、エスパーさんは違ってて。そういうのが根底にあるから、原稿書いてはオレのとこに送ってきたんだよ
●「読んでくれ」と
へらちょんぺ 「これは売れるはずだから」と。常にそういうことを言い続けてきて。ただ、一方で彼自体がどんどん売れ続けていって。年収もウン千万とかなってね
●テレビにステージにひっぱりだこ状態でしたから
へらちょんぺ そういうのを十何年も続けた。で、エスパーさんはこう考えるわけ。(芸人で)これだけ稼げるなら、文化人としてなら、もっと稼げるに違いないって(笑)
●逆転的発想!
へらちょんぺ この程度でこんだけ稼げるなら、文章や絵でもっと稼げるはずと
●自分はまったく知らなかったんですが、エスパーさんはリイド社の雑誌にマンガを描いたり、『小学三年生』にイラストを描いたりしてたんですね。そっちの分野でも完全にプロだったんですよねえ
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へらちょんぺ そうそう。仕事もそうだし、文化人としての気概は常に持ち続けてきた人。ただ、そういう中で、ちょっと心をね……、心的に苦しい、病んだ時期も訪れるようになって
●現状の芸人と、志向する文化人との意識の狭間で葛藤も……?
へらちょんぺ うん。お店(飲み屋)でちょっと暴れたり……
●いくつか、夜のエピソードは耳にしてきましたが
へらちょんぺ そういうふうになるのはわかるんだけどね(苦笑)
●自分が理想とするような、完全な文化人にはどうしてもなりきれず……
へらちょんぺ オレもそっちのほうはもっと言いたかったの。元気なうちにね。そっちの才能もあるんだよって
●業界や世間に、ですね
へらちょんぺ 実際、出版社に企画を持っていったりもしたしね。芸人本じゃなくエッセイ本の企画。ただ、エスパーさんは“1万部”にこだわるのね
●ああ、初版の数字に?
へらちょんぺ 文化人としてのこだわり(苦笑)。やっぱ、本が売れない時代にあって、出版社としても1万部は厳しいよね
●確かに
へらちょんぺ 文化人としてのこだわりと言えば、双葉社襲撃事件っていうのもあって
●講談社襲撃ではなくて?(笑)
へらちょんぺ かなり昔の話なんだけど、エスパーさんから電話があって「すぐに来てください」って。なにかと思ったら、一冊の雑誌を出してきて「これ、見てくださいよ」って。見たら「タレントIQランキング」みたいな企画で、エスパーさんの名前がガッツ石松や輪島功一らと並んでるの
●双葉社だと『週刊大衆』か、『□□大衆』といった媒体ですかね
へらちょんぺ 確か、そう(苦笑)
●いや、記事としてはフツーにおもしろい……(苦笑)
へらちょんぺ おもしろいおもしろい(笑)。そうなんだけど、エスパーさんはかなり怒っていて「どう思いますか? ひどいですよね」「いまから編集部に殴り込みに行きますから。へらさん、つきあってください」って言うの。あんまり行きたくはないんだけど、おもしろそうだからいいかって一緒に行って……
●まあ、本気で殴り込む気はないわけで
へらちょんぺ いや、エスパーさんは本気で殴り込む気なの(笑)
●えっ(苦笑)
へらちょんぺ それでタクシーに乗って双葉社まで行ったんだけど、ちゃんと受付で名前言って、キレイな応接室に通されて
●講談社襲撃事件とは緊迫感がだいぶ違う……
へらちょんぺ 違うの(笑)。で、待っていたら、編集者が現れて、「いやあ、エスパーさーん。どうもどうもー。まあまあ、外に出て飲みながら話しましょう」みたいに言われて、いい感じの料亭に連れていかれて(笑)
●近所が神楽坂ですからね
へらちょんぺ 3人で「かんぱーい!」って(笑)
●完全に取り込まれてますね(笑)
へらちょんぺ 取り込まれちゃった(笑)。「エスパーさん、この記事、とても評判がよくてですね」とか言われたら、エスパーさん、途端に機嫌がよくなっちゃって
●ハハハ!
へらちょんぺ いろいろ話していく中で「エスパーさん、本を出しませんか?」って話になって、結果、ほんとに出ることになって
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●この本ですかね。占い本ということで、文化人として納得されましたかね
へらちょんぺ ただ、やっぱりその後もメインは芸人としての仕事だったんだよ
●芸人として定着したイメージはそう簡単には覆せないですよね
へらちょんぺ 自分も含めて周りも、やれる限り働きかけはしたつもりなんだけどね。文化人としてのエスパーさんを
●かなり長い期間にわたって?
へらちょんぺ そうそう。そんな中で、いろんなことがある中で、人のよさが災いして騙されたり金を取られたり……。寂しい境遇で亡くなってしまったんだよ
●やはり、残された原稿は世に出さないとダメですよね
へらちょんぺ そう思う。そうしないと、エスパーさんが気の毒すぎるんだよ
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