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「企業特殊熟練」=「その企業でしか価値がない技能」への投資はどうなるか
最近の企業経営周りで気になるニュースが2点あった。①東京海上が新卒の給与をなんと最大41万円に上げること②企業の構造改革が進展され日本全国で早期退職募集が1万人以上となっていること、の2点である。
この2点は実は合せ技で考察すると日本経済の構造変化への新たな視座となる。人的資本と労働市場の観点である。
日本的経営の特徴として終身雇用と年功賃金が言われてきた。この2点は日本の経済システムの悪しき点として論ずる向きもある。いわゆる日本の労働市場の硬直性の問題で日本が新規産業に人材がなかなか移動されない由々しき問題とされてきた。
労働者個人の人的資本はどこの企業でも一般に使える「一般熟練」と当該企業でのみ通用する「企業特殊熟練」に分類出来る。民間企業はどうしても企業それぞれで必要とされるその企業特有の「企業特殊熟練」が発生する。組織とはそういうものだ。
ではその「企業特殊熟練」に教育投資するコストを労働者個人が払うインセンティブは今まで何だったのか?「企業特殊熟練」は自分が働いている企業が繁栄しているときのみ意味をなす。転職しても使える「一般熟練」とは違うのだ。個人は転職できる武器としてどうしても「一般熟練」への投資を好むものだ。
今までの日本企業は終身雇用でしかも賃金をなるべく後払いにして年功賃金にすることで労働者に長く同じ企業で働いてもらい、「企業特殊熟練」に自らが人的投資をするインセンティブを労働者に与えてきたのだ。
ところが日本の産業構造が変わる中で企業が構造改革として早期退職制度を利用して終身雇用の慣例を崩し始めてきた。企業のコストカット上やむを得なかったのだ。まさに失われた30年での日本企業の生き残り策だ。
終身雇用が崩れるとしたならば労働者は「企業特殊熟練」への投資インセンティブを失い、それとともに自分の商品価値が高いうちになるべく高い給与水準の企業へ転職しようとする。これが若者の転職の増加と若者の定着が悪すぎて人を集めるために新卒のうちから高給を払おうとする企業サイドの動きである。
この投稿の冒頭で2つのニュースを裏腹の事情として考察すべきと言ったのはそのことである。特に損保営業職などは高度な自社製品である損害保険への豊富な特殊知識と全国津々浦々へと転勤を繰り返すことが要請される。これこそ「企業特殊熟練」の典型である。
今後この動きは加速する一方だろう。企業は労働者に「企業特殊熟練」へと投資させる方法論を何らか開発しなければならないだろう。それは僕にもわからない。