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出居番ラジオ♯4 藤原佳奈さん

こんにちは。
出居番(でいばん)ラジオ
パーソナリティの みなみづかおーき です。

「まつもと地域の人をつなぐ」をコンセプトに、
松本城のちょっと東にあるコミュニティスペース
「出居番丸西(でいばんまるにし)」を収録スタジオにして、
まつもと地域で活躍している方をゲストをお呼びし、
その方の取り組み内容をお聴きして発信しています。

♯4のゲストは
劇作家で演出家の藤原佳奈さんです!

2013年~2021年まで東京を拠点に活動され、
2020年6月に長野県松本市に居住を移し、
東京に限定せず活動を行なっています。

2021年のフェスタ松本には
“野楽(やがく)プロジェクト”として参加し、
地域の方と一緒に、浅間温泉の過去の景色を想像する企画
“あさまごと”を開催されました。

2022年3月から1年間、豊岡市に移住するも2023年3月より、
拠点をまた長野県松本市に戻し、
最近では松本の芸術文化を市民とともに育む活動など、
さまざまご活躍されています。

今回のnoteは、ラジオ収録の様子を音声とは別に、
私の主観で記録したいと思います。


オープニング

藤原さんは、出居番ラジオの第2回目のゲスト
books 電線の鳥 原山聡矢さんからご紹介をいただきました。
原山さんを通じて出演のオファーをすると快くお引き受けいただきました。
とはいえ、得体のしれないラジオにご出演をいただくのは
多少のためらいがあったと思います。
どういったメンタルの方なのかとても気になります(笑)

また私自身、劇作家・演出家とお話をさせていただくのは
初めての機会です。
とても貴重な機会に巡り合えたことを喜びながら、
藤原さんのキャリアや活動、思想について色々とお聴きしました!

キャリアについて

そもそも劇作家、演出家とはどんな仕事をされているのでしょうか。

身体と言葉を使って何かを表現するもの、それの裏方での取りまとめ役のような感じ。
分かりやすく言うと、映画でいう「脚本家」と「監督」。

藤原さん

作品によって違いがあるものの、
藤原さんは脚本と演出との両方を兼ねることが多いようです。

これまでの創作活動として、
スナックの居抜をつかった企画を演出したり、
高校生と演劇を創られたりしたそうですが、
“代表作”をお聞きしたところ、少し悩まれてから

10年前につくった初めての長編作で、東京で暮らす20代後半女性が抱えるモヤモヤ、共通する何かを、様々な登場人物を通じて表現した作品「夜明けに月の手触りを」があり、それを10年経った節目にリメイクした。
リメイクにあたっては、人が集う場をつくり、台本を真ん中に置いて、読んでどう思うか聴き、100人以上の人と言葉を交わして作品にした。

藤原さん

この話で興味深いと感じたのは次の2点です。

1点目は、自身の作品を見つめ直すことができる内省の力。
過去の作品について考察し、時の経過によりズレた部分を
他者の認識をつかって埋めてつくり直していく作業は、
過去の作品を客観的に見つめ、
さらけ出すことに躊躇しない精神力が必要であると思います。
創作に携わる方は当たり前にこの内省ができることに、
常人とは異なるメンタリティを感じました。

2点目は、フィクションを真ん中に置くという「場」の可能性。
藤原さんは、フィクションという台本を自身と相手の間に置くことで、
聞き手・話し手という対峙する関係ではなく、
聞き役は台本に任せることで、
藤原さんは「立ち合い人」のような中立な立場を獲得し、
話し手のインサイトを引き出していました。
他のシチュエーションでも応用できる「場」のつくり方と感じました。

続いて、松本での活動についてお聴きしました。
藤原さんは、2021年に浅間温泉で
野楽(やがく)プロジェクトというイベントを開催されました。
どんなイベントだったのか、どのようにして生まれたのかお聞きしました。

古い新聞記事にすでにお亡くなりになった芸者さんの言葉で「もう一度浅間に火を灯したい」とあり、なんとなくこの言葉を念頭においてつくったイベント。
芸者さんがいた当時の風景に参加者がタイムスリップするように、「上演」と「遊び」と「街歩き」を横断する体験イベント。

藤原さん

あさま温泉の土地に記憶された昔の情景を、
藤原さんの演出によって、現在に蘇らせた刹那の体験イベントです。
このイベントをつくるにあたっては、
最初から全てをつくり込むのではなく、
関わった人と一緒につくりあげていくという態度で望み、
企画途中の偶然や思い付きのアイデアを取り入れ、
撒いた種の芽からどんな花が咲くか楽しみ育てるように
つくり上げたようです。

移住者として

藤原さんは2020年6月に東京から松本に移住されました。
きっかけをお聞きすると、

コロナの前に、知人が松本の浅間で下宿を管理していたが、取り壊しになるかもというので、「そこで最後のイベントをしないか、あるいは住まないか」と言われた。その時は酒の入った席で、友人と「一緒に借りようか!松本にもうひとつ拠点があったら面白いやん!」と一旦盛り上がった。

藤原さん

2020年「コロナ」が蔓延し、
当時は得体の知れない感染症に世界中が右往左往し、
生活や経済活動が制限された混乱の中で、
演劇を含む文化芸術活動は「不要不急」とエッセンシャル領域から外され、
藤原さんの活動はストップしてしまった。

外に出たら死ぬ!?みたいなSFの世界のような東京で、昼は公園で木を眺め、帰ってzoom会議だけの日々だった。仕事は全然ないし、コロナ疎開じゃないけど、前の浅間の下宿の話で、俳優仲間と一ヶ月ぐらい松本に借りてみようとかとなった。
松本に来て10日ぐらい経って、松本ええところやし、ちょうど愛知県での2ヶ月ぐらいの大きな仕事が入ってどうせ東京いないし、東京引き払うか!となった。

藤原さん

地方移住は藤原さんにとって大きなイベントだったと思います。
情報や人が集まるという面で芸術文化は東京がホットスポットであり、
創作活動において東京にいることのメリットは大きいはずです。
松本移住が、生活や創造活動に、どういった影響を与えたのかお聞きしました。

松本に来たことによって、東京にいる時の身体を相対化できるようになった。
大学を出てから東京にいることが当たり前になっていたが、東京では急かされることに慣れた身体だったことが分かった。
松本は「山の民」という印象。落ち着いて集中できる時間が増えた。

藤原さん

松本の身体と東京の身体を自在に行き来するのではなく、
松本にいると松本の身体に、
東京にいると東京の身体に自然となるそうです。

松本に来て、不可逆的に人生観や行動が変わってしまうのではなく、
相対化して自身を把握し、
一方向の変化ではなく、行ったり来たりの変化ができることに、
藤原さんの特徴がみえました。

移住者として、松本の印象、人の印象をお聞きすると、

松本の人は、場がセッティングされてスイッチが入るとむっちゃ喋るのが面白い(笑)

藤原さん

今後の活動について

藤原さんは、これまでの創作活動の経過を
「つくる」
「なる」
「ひらく」
という3つで区切りで考えられています。

コロナ禍で作品を作るときに「フィクションいる?」みたいな、こんなSFみたいな世の中に余計ややこしいもの増やして「何かのためになりますかね?」という気持ちになっていた。つくるを疑い始めた。
そんな中、高校生と演劇をつくった際、その土地の民話を題材にした。これまで語られてきた言葉なら戯曲として取り扱えるかもと思った。役のためのオーディションではなく、高校生一人ひとりをみて役をあてがった。民話は語り継がれたもの、高校生はここに生きているもの、その作品の始まりは私でなく、すでにあるものを提示するだけだった。
これまでは自分がつくったという意識が強かった。作品が自分の手から離れた感覚。私は種を生み出していない。拾った種を植えて水をあげる。花を育てるような心地。「なっていく」を見つめる。

藤原さん

浅間温泉でのイベントは「なる」のフェーズでの企画したものでした。
藤原さん一人で作ったのではなく
一緒に関わった人と「どうなっていくか分からへん」と進めたものでした。

しかし、人が集まり場は成立したが、
それは何となくで成立したもので、
ご自身で何か足りないものを感じていたようです。

「なる」と「ひらく」で何が異なるか。一番中心の大事なものを自覚しているかどうか。意志を持ってひらけるか。

藤原さん

今、ひらくのフェーズにある藤原さんは、
今後の活動について、どのような展望をお持ちなのか。

ひとつ目は、
藤原さんをはじめとする松本市に住むアーティストや大学院生らで、
松本の芸術文化を市民と共に育んでいく組織
「松本市民アーツコレクティブ」
を立ち上げられました。
芸術文化を通して街を育みたいと、考えられています。

芸術文化に携わる身として、価値が定まっていない活動や、分かりにくい活動、長年続いて当たり前になっている活動に目を向けたい。そんな活動や携わる人を応援して結びつきをつくり、芸術文化が暮らしのなかに入っていくための触媒となりたい。

藤原さん

もう一つ、
藤原さんは松本に「穴」をあけたいといと言います。

「穴」とは社会のシステムから逃れられる余白。肩書を外して人生を見つめるとか、自身をみつめるとか、見たくないものを見る覚悟が必要だけど、安心して自分の痛みに触れられる場所。入ると自身が変容してしまう怖さがそこにあるので「穴」という比喩を好んで使っている。
そういう場が必要だと思う。そして、そういう場がすでにあるのであれば、そこを耕したい。今年は出居番丸西のような開かれた場を見て回って話を聴いて、場について考えたい。

藤原さん

出居番丸西も、だれかの「穴」のような場所であってほしいです。

最後に藤原さんは、
演出家として「酵母菌」のような存在になりたいと言います。

酵母菌はパンをかじってもガリっとその存在を確かめられないが、確実にパンを美味しくしている。演出家として、最期は消える存在のように働きたい。

藤原さん

演出の場をトップダウンでコントロールするのではなく、
最小の関与で場が最大にひらくように意識されています。

エンディング

藤原さんのお話をお聴きし感銘を受けたのは、
ご自身の存在をメタで認知されていることです。
場をコントロールすることを放棄し、
確固たる意識をもちつつも自身を最小にし、
触媒になることで、
個人の存在を超えた価値を生み出していると感じました。

様々な関係の中で作品をつくりあげる経験を
繰り返してきたからこそ
たどり着ける境地であると思いました。

とても不思議で魅力的なお話をお聴きできました。

以上で
♯4藤原佳奈さん
をゲストにお呼びした出居番ラジオを終わります。

出居番ラジオはこれからも
ここ出居番丸西を拠点に
まつもと地域で活躍する様々なゲストをお呼びし、
取り組み内容を発信していきたいと思います。

このno+eでは、
言葉にできなかった部分を補完しながら、
これからも出居番ラジオの内容を記録していきたいと思います。

次回もお楽しみに!!


出居番ラジオ
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