【書評】ライト マイ ファイア (伊東潤)
[あらすじ]
死者10人を出した簡易宿泊所火災。
警察官・寺島が捜査過程で手に入れた一冊のノートに記載された「1970」「H.J」とは何か?
調べていくうちに浮かび上がる45年前のとある事件。過去と現在、ふたつの事件の真相とは----
よど号ハイジャック事件の犯人に公安が居た、という大胆な仮説を提示。
ハイジャック事件と簡易宿泊所火災の捜査が並行して語られていきます。
注目すべきは過去サイドの中心人物である潜入捜査官・三橋琢磨。
ある時はヒロイン・桜井紹子への恋慕からくる嫉妬に悩み、またある時は革命に燃える若者たちの熱気に惹かれ、しかし自身の持つ使命故に苦しむ……この葛藤が切ない。
当時の学生運動の様子、ハイジャック事件の詳細、北朝鮮での洗脳教育、と目まぐるしく変わる状況とスリリングな展開。
誰を信じたらいいのか、読んでいる側も分からなくなるほど混沌としていきます。
極限状態に置かれるほどに人間の本質、エゴが出てくるもの。そこも容赦なく描写しているからなお怖い。吐きそう。
現代サイドの語り手・寺島がなぜここまでこの事件にこだわったのかは終盤、過去と現在が結びついた時に明かされます。
いや、その可能性は考えなかった訳じゃないけどさ。
全てが明かされた時、どうしようもない虚しさがこみ上げてきた。
過去に囚われ続けた男たち。
あの時のことはなんだったのか。
誰のために、何のために、ここまで生きてきたのか。
高みから見下ろしていた人もまた、国家という大義の前には塵芥でしかなかったのか……。
45年越しの再会が唯一の救いでした。
濃厚な読書時間でした。
大変だったけど、面白かった!
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