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クリスマスプレゼント

私に、真っ先に気がついたのは、Aちゃんと言う女の子だった。
大きな目をキラキラさせながらそばに寄って来る。
見上げるように顎を少し上げて、ふふーっと笑った。

先生、来るの遅かったね。

そう言葉にした後で、顔をくしゃくしゃにして微笑んでいた。
来てくれるかな?と、躊躇いながら両腕を広げると、待ってましたと言うように飛び込んでくる。


11月末に退職をしてからも、私が来るのを
こんなふうに待ってくれていたのかしら。

先生、来るの遅いよって。

ここに来たばかりの頃は、まだ一歳半になったばかりで。

柑橘類が苦手で、みかんやオレンジが出ると、口をキュッと結んで食べるのを拒否していた。
みんなが食べ終わった後も食べられずに、じっとにらみつけるようにして見ていたことを、今もまだ憶えている。



直近で受け持っていた子は三人で、一人は早くに帰っていて会えなかったけれど、二人はその場にいた。

二人のうち一人は、早くから私に気がついていた様子だったけれど、元来の気質から、なかなか寄ってこようとはせずに目だけで私を追っていた。

だんだんとその距離が近づいて、確かに届いたころ、すんなりと触れることを許してくれた。

会いたかったんだよ、と

抱きしめる回数ごとに、硬い表情は柔らかくほどけてゆく。
一緒に過ごしていた頃のあの笑顔に。

少し人を寄せ付けないところがあるけれど、両手で頬を包み覗き込むと、人懐っこい目をしていた。

包み込んだ頬のあたたかさを、忘れずにいようと想う。

そうして、
遊びに夢中になっていたもう一人が、帰り間際にようやく気がついて、愛嬌のある笑顔で駆け寄ってきた。
駆け寄ってきては、くるりと背を向け向こうへ行こうとする。
そう見せかけて、私を振り返り振り返りして、見ていてくれるかを確かめている。

ちゃんと見ているよと、そう目で伝えると、満面の笑みを返す。

見てほしいから、反対のことをする。
気づいてほしいから、怒られることをしてみる。

大丈夫。
ちゃんと気づいてる。

そんなやり取りの後で、私にお尻を向けると、膝の上に座り、指をしゃぶり始めた。

よかった。
安心してもらえたことにほっとする。

その日はちょうど、12月24日だった。

思いもよらず温かなプレゼントがもらえたような気がして、熱いものが込み上げてくる。

プレゼントは必ずしも
形あるものだけではないのね。

命あること。
そうして
再び会えること。

言葉でなくともその想いだけで。

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