エッセイ:料理をしない私が料理上手な主人に感謝をする話

好きな食べ物はやきとりだ。
保育園の頃からやきとり屋さんの常連だった。母は女手ひとつで仕事をしながら私を育ててくれた。残業の多かった母と食べる夕食は居酒屋とかやきとり屋さんだった。母の手料理は、上手くはない。いや、おいしいけれども、上手ではない。ちなみに、祖母も働いていたそうで、そんなに上手くはなかったらしい。
私はやきとりと居酒屋の雰囲気が大好きなひとになった。お酒は飲めないけれども。飲めないと言っても、ドクターストップの方の飲めないだが。

さてはて、母が働いて苦労をして、娘の私はさぞかしお手伝いをしたのだろうと思ったそこのあなた。ブブー。私はのんびり怠け者であった。なぜならば、母がなんでもこなしてしまうテキパキさんだったからだ。家事は下手だけど、それでも仕事に家事に育児に励む姿はかっこよかった。頭は今でもあがらない。

私は料理のお手伝いはしなかった。なぜなら、台所が狭かったからだ。いわゆる対面式キッチンで、細長い。料理できるのは一人だけで、私が来ると邪魔だった。

たまに料理をつくろうとした。レシピを忠実に再現した。母は言った。
美味しい。
ところが、私は洗い物をしなかった。これがまずかった。叱られた。
また、食材の余りをどうすればいいか分からずに放っておいた。これどうすんの、とまた叱られた。残念。

ある日、私は一からはじめようと思い直して、ホットケーキの腕をあげることにした。ホットケーキの腕はメキメキあがった。なにせ一ヶ月毎日、ホットケーキを作ったのだから。ホットケーキを。そう、ホットケーキだけを。

ホットケーキ。
ホットケーキ。
ホットケーキ。
……。

そうして。ホットケーキだけは作れるようになった。
次はチャーハンだ。と思った矢先。諦めた。流石に一ヶ月毎日チャーハンはちょっと……。いや、ホットケーキもだったけれども。これで、私の料理研究は終了した。

その後、結婚した。結婚すれば、料理作ると思っていた。
主人の好きそうなオムレツをつくってみた。中に主人の大嫌いなブロッコリーが入っていた。主人は一口も食べなかった。捨てた。私はもう、料理をする気はなくなった。いや、もとからなかったのかもしれない。

主人のおかあさまは料理が絶品だ。見習いたいと思った。ところが、私は体力がなかった。仕事と家事の両立はできなかった。部屋は荒れはて、料理はコンビニ。そんな日々が続いた。

数年が経ち、立ち上がったのは、主人である。主人は私よりも働きながら、料理を作った。ものすごく美味しかった。
その後、主人は料理の腕をメキメキと上達させた。絶品である。まさに、おふくろの味。

私は思う。主人と暮らせてうれしいな。
それは、ごはんが美味しいから。
そして、主人が大好きだから。

ごちそうさまでした。




参考


いただいたサポートは、本を買うことに使っていました。もっとよい作品を創りたいです。 ありがとうございます。