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ひとりで映画を観た話
平日の映画館に人はまばらだった。
上映時間の少し前に劇場につくと、両手でじゅうぶん足りるほどの人がぽつんぽつんと座っていて、前日両隣に誰もいないことを確認して予約した席は、両隣どころか前後も誰もおらず、貸し切りみたいでうれしくなった。
実のところ、映画を見にいくことはそうない。映画館に足を運ぶのはよくて年に4、5回か。映画館に行くことが億劫なのではなく、わざわざDVDを借りたり配信を買ったりすることもめったにないから、おそらく映画というものに元来興味が薄い方なのだと思う。
それでも、映画館は好きだ。特にガラガラの映画館が。なんとなく寂しいような気もするし、とてつもなく落ち着く気もする。上映時間がやってきて照明が暗くなると、いつも「ひとりぼっちだな」と思う。あれだけ広い空間に、ひとりぼっち。それが心地いいから、平日夜のレイトショーは悪くない。
昨日、仕事を終わらせた足で『きのう何食べた?』を観てきた。
原作を読みたいな、と思いつつもなかなか忙しかったりで読めずにいたところ、ドラマが始まった。いろんなものが不揃いなのに心地よくおさまっているインテリアも、ふたりで囲むのにちょうどいいサイズのダイニングテーブルも、おいしそうなごはんも、とても心地よく完走した。
ドラマを最初から最後まで完走したのは久しぶりだったかもしれない。すごくおおきな事件があるわけでも、何か大きな変化があるわけでもない、派手でもないけれど、そこにある誰かの暮らし。それが見られる作品が好きだ。ただ二人やまわりの人々がそこに暮らしていることを描いた作品は、とても心地よく映った。
原作も読まずに、と思う人もいるかもしれない。けれどとりあえず昨日感じた気持ちを言葉にして残しておきたくて、ここに残しておく。
涙ぐんだりにこにこしたり、そうしてとても素敵な時間を過ごした後、スピッツの歌を聴きながら「ああ、一人で観てよかった。これは一人で観る映画だ」と思った。
あの作品で描かれているのはふたりの何気ない暮らしだけれど、観終えた時感じたのは「誰かと生きたいな」という気持ちよりなにより「今のままでいいんだ」という気持ちだった。
恋をしなくても、誰かと生きなくても、それでいいんだ、と。
そうしてほうっと一息ついた後、すこしだけ「好きな人を大切にしよう」。そう思えるとても素敵な映画だった。
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