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[Vol.1]持続可能な未来のつくり方を探索する:トランジションデザイン研究会スタート!

「富士山、11月になってもまだ初冠雪ならず」これは観測史上130年で最も遅い記録だそうです。秋が深まるこの時期、例年なら肌寒さを感じるはずの朝も、今年は少し暖かく、東京科学大学の大橋研究室へと向かう坂道では、心地よい秋の陽射しを浴びながらも、不思議な気持ちになる日が続いています。
毎年更新されるように感じる気温の上昇や異例の天候は、気候変動という地球規模の課題が私たちのすぐそばにあることを改めて感じさせます。このような変化は、研究室への道のりだけでなく、日常生活や産業にも影響を及ぼしており、これまでのシステムや価値観を根本から見直す必要性を問いかけています。

毎年更新し続ける気温の原因と考えられている気候変動は、地球規模で発生している問題であり、研究室に向かう歩調に限らず、私たちの暮らしや産業にもすでに多くの影響を及ぼしています。解決に向けた取り組みが、今まさに世界中で求められていますが、様々な要因が絡み合ったこの問題を解決するのは非常に難しく、明確な一つの解決策はもはや存在しません。私たちが目指すべきは、むしろこれまでの社会の枠組みを超えた、システムレベルでの変革であり、このような背景から生まれたのが持続可能な未来への移行に向けてシステム全体の再構築を目指す「トランジションデザイン」というアプローチです。
東京科学大学大橋研究室では、このトランジションデザインを用いて、農や食、防災・まちづくり、半導体人材育成など、多様なテーマに取り組んでいます。2024年夏から研究室ではトランジションデザイン研究会を発足し、本noteではこのトランジションデザインに関係する学術的な知見を収集、研究室内で議論し、そこから得られた知見を順次発信していきます。

トランジションデザインの必要性
私たちが生きる現代の社会は、複雑で深刻で、かつグローバルな社会・生態系の問題に直面しています。歴史的に多くの人間社会が経験してきた重大な課題は、その影響を受ける地域や期間が限定的でした。しかし近年の課題は、次世代やそのまた次の世代だけでなく、非人間的な要素を含む生態系にも長期的な影響を及ぼします。このように、現在の社会技術システムは、多くの点で持続可能ではありません。
例えば、自動車産業は便利な移動手段を提供していますが、大量のガソリン消費と排ガスによる環境汚染問題を抱えています。また、プラスチック製品の大量生産と廃棄は、海洋汚染や生態系への深刻な影響を引き起こしています。
このような地球規模の問題に加えて、多くの社会的課題も存在します。例えば、清潔な水、食料、エネルギー、医療、教育、社会的平等、収入と雇用などの基本的な社会基盤が十分に提供されていない地域が多くあります。これらの課題に対処するためには、現在の社会技術システムの根本的かつ変革的な再構築が必要です。
トランジションデザインは、既存の枠組みや価値観、慣習などを今一度 問い or 再定義し、単に技術革新だけではなく、制度的、組織的、社会文化的な変革を視野に入れた包括的なアプローチです。具体的には、多様なステイクホルダーとともに持続可能な社会への移行を目指して、以下のプロセスを進めます。

  1. 問題構造の共通理解:既存の社会技術システムの現状に関する共通理解を深めます。

  2. ありたい未来の策定:理想の状況やありたい未来に関するビジョンを策定します。

  3. 変革の理論の導出:策定したビジョンを基に、未来に向けた変革経路である「変革の理論」を構築します。

この「変革の理論」を基に、社会実験を行い、必要なエコシステムを形成しながら、変革に向けた具体的な活動を進めていきます。トランジションデザインは、多様なステークホルダーと協力し、持続可能な社会への移行を実現するための強力なツールとなります。

トランジションデザインのプロセス


トランジションデザイン研究会のこれから
「トランジションデザイン研究会」では関連する論文を読み解き、そこから得られる知見を解説していきます。これにより、持続可能な社会の実現に向けた方法論の普及を目指しています。また、トランジションデザインは学際的な分野であり、社会科学、イノベーション学、デザイン学、マネジメント学など多様な領域の重なりの上に位置付けられています。このnote記事シリーズでは「持続可能な社会への変革」をテーマに、広くトランジションに関連する学術分野や事例についてご紹介していく予定です。ぜひご期待ください。

記事シリーズの構成

このシリーズでは、以下のトピックを順に取り上げていく予定です。

  1. トランジションデザインとその関連分野の学術的な潮流

  2. 具体的な事例研究とその解説

  3. 実践例とその成果

それぞれの記事で、関連する論文や研究をわかりやすく解説し、読者の皆様にとって有益な情報を提供していきます。ワクワクするような内容でお届けする予定ですので、どうぞお楽しみに。


書き手の紹介

ここで、今回のシリーズを執筆する私たちの紹介をさせていただきます。

まとめ

持続可能な社会を実現するためには、私たち一人ひとりが新しい知識を学び、行動することが重要です。その一つの方法論であるトランジションデザインに関する理解やその普及に向けて、このnoteシリーズが一助になれば幸いです。


本記事の著者:大橋匠

編集:藤崎真生子、尾﨑豊

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