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羊と眠る

朝、目が覚める前から今日はどこかへ出掛けようと決めていた。昨夜からそんな予感があったのだ。カメラを2つ鞄に入れたが重かったのでフィルムだけにした。

今日はあちこちで入学式らしい。
真新しい大きめの制服に身を包んだ新1年生とパステルカラーの着物のお母さんが桜吹雪の下を歩く姿はまさに春。途中電車で通りすぎた駅の名前が桜駅だったのも気分に合っていた。1本前の電車が遅れ、それに続いて速度を落として運行していたので、ゆっくり景色を眺めることができた。
電車を降りた後バス乗り場が分からず、とりあえず1番前に停まっていたバスに乗ったら合っていた。降りたら歩いてすぐ。のこぎり屋根が見えてきた。

青葉市子さんが近くに来ていると知ったのは何日か前。のこぎり屋根のアートギャラリーで滞在製作されている遠藤薫さんの作品にも興味があった。夢に作用する羊肉とワインを食し夢を見ることを試みるというもの。廃棄される汚毛からホームスパンを織るというもの。亡くなって冷凍保存された子羊を解体し皮を鞣し骨を磨くというもの。
隣のスペースには絹のパラシュートを梁から吊るした天蓋、その下に敷き詰められた布団。夢という言葉がよく似合う空間だった。ギャラリーの方が薫さんの製作や道具を説明してくれる。銭湯で録音された市子さんの歌を聴きながら寝転がってパラシュートを眺めていたら、薫さんがグリーンルイボスに生姜レモンはちみつカモミールと、もうひとつハーブが入ったお茶を作ってくれた。レモンがきいていて美味しい。はちみつを足してもらった。

もうひとり薫さんの知り合いの方と4人でお昼に行くことに。待っている間に寄ったすぐ近くの公園は桜吹雪。6枚花弁の桜を見付け知らせたら、押し花にして次会うときの約束にと渡してくれた。お昼はレタストマトベーコンの胡椒がきいたコンソメスープ。パスタが美味しいお店らしいのだが、小麦が食べられないのでスープにした。イタリア語の名前を忘れてしまったが、こういう時は美味しかったことさえ覚えていればいい。プリンという名のクリームブリュレを3口ももらい、お店の方の水と空気の話を聞いた。

うっすら眠気に包まれパラシュートと布団の空間に戻ると、もう昼寝しない選択肢はない。薫さんはお昼寝タイムだったが、私は帰りの時間を調べた後ギタレレをぽろぽろ弾いた。
おやすみなさいがさよならまたねになった。

自分のためだけの小旅行。
誰にもなにも言わず出掛けた。
3ヶ月前にはほとんどの感覚を閉ざしていた心と体に、少しずつ色が戻り始めた。市子さんの声で見上げてごらん夜の星をがずっと頭の中に流れている。今日は羊の夢を見るんだろうか。


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