つまみ細工ヒルナンデス騒動と生徒さんに教えられたこと
先日、お昼の番組ヒルナンデスで、つまみ細工を含むハンドメイドを「稼げる副業」として紹介したことが、ちょっとした炎上を起こしています。
以下引用です。
ハンドメイド作品をめぐっては、日本テレビのバラエティ番組「ヒルナンデス」が材料費180円、販売価格1180円などと稼げる副業として紹介。別のハンドメイド作家は、「今日のフリマはただただ心に傷が付いただけでした。材料費かかってなさそうなのに…こんなに小さいのに…【高い、高い、高い】」とTwitterに投稿。「テレビのやつはこんなに高くなかったわよ、とも言われました。ヒルナンデスの悪影響、確実にハンドメイドの作家さんにダメージが出てますよ」と訴えている。
実際に作家さんがお客さん(?)から高いから負けろと言われたという例も上がっています。
作家さんにとって悪影響が出ているという論調です。
さて、この件に関しての私の考えですが、今回の騒動がハンドメイドの作家さんにとってマイナスになることはないと考えています。
作品や商品の価格には、そのものに使われている材料原価の他に、道具代やその技術を取得するまでにかかった費用と時間、段取りを含め制作にかかった時間、そのデザインを考えるに必要とした時間やスキルを含めたデザイン費などがかかっています。
これを本業として成り立たせようと思ったら、これだけでは済みません。
家賃水道光熱費はもちろん、製造だけでなくネットショップや実店舗の販売員の人件費、その保険及び福利厚生費、カード手数料、梱包ラッピング資材や什器レジ備品などの販売管理費、販売プラットフォームに払う手数料、パンフレットや広告に使う宣伝広告費など、かかる経費は枚挙に暇がありません。
でもそれって、社会活動をしている大人なら、ほとんどの人が理解していることですよね。
今回の騒動の世間の論調を見ていても、ほとんどの人は値引きをする人を批判していますし、取り上げられた迷惑なお客さんも、ほんの小さな一例が大きく取り上げられたに過ぎません。
われわれものづくりをしている職人の世界でも同じです。
値切られることなんて、日常茶飯事です。
まさかお店に来られたお客様から面と向かって値切られることは殆どありませんが、BtoBの世界では当たり前のように値切られます。
昔のものづくりの流通は、
職人→メーカー→産地問屋→地方問屋→小売→お客様
というのが主流でした。
小売が値上がりを嫌い、その結果上流に行くほど値切られていき、しわ寄せは職人に来ていました。
それでもたくさんものが売れていた時代は良かったのですが、時代が変わって大量生産品が世に増えて手作りのものが売れなくなると、注文数は減り、材料原価は上がり、工賃は上がらず、職人は食べていけなくなりました。
そして、世の中から伝統工芸の職人はほとんどいなくなってしまいました。
本来、モノの値段は売り手と買い手の合意に基づいてなされるべきものです。
高い安いは第三者が介入することではありません。
どれほど高くても、その値段で買いたい人がいれば売買が成立するのが自由経済主義です。
様々なプラットフォームが発展した現代では、両者のマッチングや適正価格での取引は、一昔前に比べて格段にやりやすくなりました。
売りたくない人には売らなければいいのです。
作家さんは、誰にいくらで売るかは自由なのです。
作家のみなさんは、今回の騒動に反応して憤慨したりことさら経費がかかっている、などのアピールはしないほうがいいと思います。
ほとんどの人はそれらを理解しているし、好きな作家さんやお店さんが、作品以外のお金の話をネガティブな論調で話しているのは、お客様からしても積極的に見たいものではありません。(人のこと言えませんが笑)
そもそも、なぜハンドクラフトをを始めたのか。
作家の皆さんの殆どは、作るのが楽しくて、誰かのために作ってあげたくて、世の中の人に見てもらいたくて・・・そしてそれが少しでも活動の足しになり、家計の足しになれば、という感じだと思います。(はじめからプロを目指して作り始めた方には失礼かもしれませんm(_ _)m)
そのあたりを無視して、「ハンドメイドで儲かる!」という論調で放送してしまったテレビに苛立つのはわかりますが、「全然儲からないんだから!」という反論は、見事に同じ土俵に上がってしまうことになります。
minneを作った、阿部さんのツイート。
ほんと、そのとおりですね。
儲けは後からついてきます。
ハンドメイドを楽しみ、技術を究め、好きなものを作り、誰かのために作ったものが、その他の誰かの欲しいものになる。
もし儲けがあるとしたら、その対価です。
うちは商売としてやっていますが、それは変わりません。
職人として、お客様の気持ちを豊かにするため、大切なその日を飾るため、一生の思い出を飾るために、全力で髪飾りを作ります。
そして経営者として、家族や従業員、会社の存続のために、全力で利益を追求します。
そのことに、1mmのやましい気持ちもありません。
最後に、うちの生徒さんの作品をご紹介します。
かわいいですよね。
彼女は、この作品をあるイベントに出展するために、材料を集め、デザインを考え、時間を割き、習った技術を駆使し、土台が見えないように工夫しながら、本当に気持ちを込めて製作しました。
(ちなみに、彼女は初級コースからつまみ細工を始め、まだ歴半年です)
そして、決して安くはない金額でお嫁入りしていきました。
ここで重要なのは、彼女はこの作品を、その金額で販売するために作ったのではないということです。
そのイベントで展示するために作り、大変ながらも楽しみながら、自分がデザインしてかわいいと思えるものを形にしたのです。
それが人の目に留まって売って欲しいと言われ、まだ売りたくない彼女は、「この金額以下なら売りたくない」という金額を提示したそうですが、そのままお嫁入りしたのだそうです。
生地に詳しい人が見れば、大体の材料費はわかります。
でもそんなことは作品の価値とはなんの関係もありません。
欲しい人がそれ以上の価値を見いだせば、価格はお互いの合意に基づいて決まります。
商売としてものづくりをしている身として、「どんなものが売れるか」という視点でついついものづくりをしてしまいます。
もちろんそれは大切なのですが、たくさんの仕様の決まった商品を作る中で忘れてしまいがちな、ものづくりの本質を教わった気がしました。