「先生」の意味と用法
学生さんから、以下の質問を受けました:
「医師,弁護士,政治家などのことをなぜ「先生」と呼ぶのでしょうか。すなわち,「先生」という単語が呼び起こすフレームはどういったものなのでしょうか。
おそらく一番には「教育」というフレームが登場しそうですが,医師弁護士は「教育」というより「相談」という感じがいたしますし,政治家に至っては「相談」というよりも純粋な肩書き「相応の」代名詞,という側面が強いように感じます。」
ここでいう「フレーム」とは、「話者がもっている背景知識」のことです。
それに対して、以下のように回答しました:
「言葉が喚起するフレームは同じ日本語話者間でも各自の経験によって微妙に異なりますが、「先生」が喚起するフレームのプロトタイプ(典型)としては、「人間社会には、専門知識の有無や政治的力・支配力の大きさに違いがある。それらの違いに基づき人間同士の間には上下関係が存在する」だと考えます。
このようなフレームを喚起する「先生」という言葉は、「このような、専門知識や政治力・支配力の有無に基づく人間関係において、下に位置する人が上に位置する人を指す」言葉と言えます。
また、日本語母語話者各自の第一言語習得において、最初に獲得する「先生」のフレームは「人は生後しばらくは年上の人に面倒を見てもらわないと生きていくことができない。身の回りの世話をしてくれる人物だけでなく、知能面でもある程度一人前になるためにはさまざまな事物や社会的なルールに関する知識を与えてくれる年上の存在が必要である」と定義できると思います。
その上で、子供が最初に獲得する「先生」という語の意味は、「親兄弟などの親戚以外の年上の人で、さまざまな事物や社会的ルールに関する知識を授ける役割を社会的に担った存在」と言えるのではと思います。
つまり、一人の日本語話者をとっても、第一言語習得が深まる(年齢が上がる)につれ、複数の「先生」フレームを獲得していくということです。」
注:写真は、私の先祖で、江戸時代に今の大分県日田市に「咸宜園」という塾を開いた広瀬淡窓のお墓です。2023年8月撮影。