カテゴリーエラーの話
賞に応募するとき、いつも悩むのが。
「この募集に、この話を送って大丈夫なのかな?」です。
例えばミステリー求めている大賞に、ミステリー全く関係ないバンド小説を送っても、どんなにできがよくても落とされます。
例えば純文学求めている大賞に、「前世は冴えなかったけど、現世ではモテてモテて困っちゃう話」を送っても、送る賞を間違えてると、無視されます。
その賞が求めている作品ってなんだろう?
新規レーベルや新しくできたばかりの賞だったら「これなに書いたらいいの??」とものすごく困りますし、募集要項読み込みながら延々と悩むところだと思います。
ただ。全部のカテゴリーエラーが「却下」される訳でもありません。
例えば私の話。
元々送ったのがマイナビ出版主催の「お仕事小説コン」という、お仕事小説の大賞でした。
お仕事小説っていうのは最近流行りのライト文芸って呼ばれる大ジャンルの中のひとつで、社会人主人公で仕事しながら物語が展開するというものです。
送った作品は『失恋美容院』(『サヨナラ坂の美容院』は編集会議で決まったタイトルで、私はあまりにも捻りのタイトル付けて出したのでした)。
・メインが女子高生と美容師と美容院のアルバイト。
・ゲストに一話ごとに女性が失恋エピソードと引き換えに髪を切る。
・主人公の葵、恋愛についてわからんと思っていたのが、興味を持つようになる。
そんな連作集だったので、「お仕事小説……?」と書いた本人すら思っていました。
ですので、最終選考に残ったメールをもらっても、受賞の連絡が入っても、「いつ間違えましたって言われるんだろう……」と不安になっていました。
担当さんから連絡いただいたとき、「なにか質問ありますか?」と言われて、ずっと疑問に思ったことが口をついて出ました。
「なんでこれ、受賞したんでしょうか……?」
カテゴリーエラーじゃないの?
ごくごく普通に思っていました。
「この話くらいでしたねえ、高校生主人公の話は。メイン三人の掛け合いがよく、読後感がよかったからですよ」
担当さんにあっさりと返されて、拍子抜けしました。
どうも、私が「カテゴリーエラーじゃない?」と思った部分が、そのまんま選考で選ばれた理由だったようです。
後日、打ち合わせの際になんの気はなしに「全部読めてなかったんですけど、どんな作品が多かったんですか?」と賞の話を伺いました。
そのとき担当さんは教えてくれました。
「ものすっごく、お菓子の話が多かったです」
それには私も「ああ……」と納得しました。
第一回のお仕事小説コンで選ばれたのは
「万国お菓子舗 お気に召すまま」。
このレーベルで一番シリーズが続いている作品で、とにかく出てくるお菓子の量とほっこりする読後感が魅力的な話です。
担当さんは言いました。
「どうしても賞には前回の受賞作に似た話を応募する人が増えます。もちろん送ってくれてもかまわないんです。ただどうしても見る目が厳しくなってしまうので、その作品にしかないってものが見つからないと落としてしまいます。だからそのジャンルは外したほうが目立つんですよ」
それには妙に納得しました。
当時既に『神様のごちそう』を連載していたため、わざわざ飯テロネタを公募のために書いても、互いの作品が埋もれてしまうと判断して、速攻でネタ出しの候補から外したのでした。
カテゴリーエラーの一番の長所は目立つことです。
ただ、悪目立ちしたら「却下」されてしまうので、ギリギリのラインを見極めないといけません。
例えばミステリーものでも、日常ミステリーだって、警察小説だって、叙述トリックだってある訳ですから、どのラインを狙うかをいろいろ考えるのもありでしょう。
ファンタジーだって、魔法学園もの、冒険活劇、日常ファンタジーにあやかしものだってあるんですから、お約束だけにこだわる必要はありません。
「吸血鬼が血の不味いお疲れ社会人に食育する話のカテゴリーってどこなんだろう?」
「乙女ゲーム好きのアラサーの次の職場が乙女ゲームの舞台によく似た学校で高校生の仲人したり恋愛したりする話って、ジャンルなんだろう?」
「何度も何度も自分が殺される夢を見るんだけど、夢の中で自分を殺しに来た女の子にまた殺されかける話って、恋愛ジャンルでいいんだろうか?」
賞の応募のときに、本当に悩みます。
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