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もし君を一途に愛していたならば… Ⅲ

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幼稚園の頃、私はいわゆる陰キャだった。でも親同士が仲良かった大介とはよく話した。
そこに、転入してきたのは勇也だった。
勇也は暗かった。瞳が異様に綺麗だったことは覚えている。ガラス玉のように透き通った瞳をしていた。
でも太っていて背も低い。いつも部屋の片隅で絵本を読んでいた。

私は思い切って声をかけた。
「勇也君、何読んでるの」
勇也は私の目を見つめた後、何も言わずに本を閉じてどこかに行ってしまった。
私の中には変な人、という印象と彼の美しい目だけが残った。

幼稚園の遠足とか、散歩では隣の男の子と手をつなぐのが定番だ。
私の隣は勇也だった。
今まで何度も勇也と手を繋いだ。
それ自体に意味はないけど、今となっては運命じゃないか、何て思ってしまう私が恥ずかしい。

あの日。隣のクラスのイケメンと目があった時。あの日以上に運命を感じた日はない。
彼はいつの間にか変わっていた。
彼の努力の賜物だろう、全て美しくなっていた。
ただ、一つだけ何も変わっていないものがあった。
瞳だ。
あの美しさは、依然変わっていなかった。

「あ。葵、久しぶり。」

彼が席から私に声をかけてきた。
周りの女子の視線が私に一気に集中する。

「久しぶり…。元気そうだね。」
「そっちも」
「うん、じゃあね」

私は周りからの視線に耐え切れずトイレへ駆け込んだ。
うーわ、これはいろんな人から事情聴取くるやつだわ。
そんなことを考えながら冷たい水で顔を濡らし、トイレを出た。

「ちょっと葵!あのイケメンと知り合いだったの!?」

ほら、やっぱり。
勇也が声なんかかけてきたから。一生恨む。

「ま、まあ。でも全然仲良くないですし。」

あまり話したことない人から急に呼び捨て、タメ口で話しかけられたせいで変な緊張をした。

「へえ、羨ましい」

そういわれても、私は何て返せばいいのか…。
私はじゃあ、とお辞儀をして教室に入った。

私の席の近くで待っていたのは、麻美と春香だった。
「ん、葵」
「ちょっと話聞かせて」
またか…。
最悪だよ本当にもう!
私は勇也の顔を思い浮かべながら自席につき、2人からの事情聴取をおとなしく受けた。

麻美「どういう関係なの?」
私「いや、幼なじみというか、知り合いというか...」
麻美「幼なじみ!?」
私「え、まあ。」
春香「どこで出会った感じ?」
私「んーと幼稚園で」
麻美「仲良かった?」
私「背の順で隣だったくらいかな。」
麻美「へえ、いいなあ」
春香「過去に付き合ってた、とかは?」
私「ない、全くない」
春香「そっか」
過去に付き合ってたか、という質問に対しては、”全くない”と断言した。

彼とはもう何年も会っていなかったし、今日会って彼のことを思い出した。
常に心の中にいたわけではないし、彼に思いを寄せているわけでもなかった。

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