くるりの20曲解説~後編~

前編はこちら

 

こういう情勢の中で、ミュージシャンのSNS上での活動が目立つ。ファンとしてはもちろん嬉しい。

もちろんSNSで目に留まるのは自分の好きな、フォローしているアーティストなので共通項は何かしらあってもおかしくないことなのだが、他のアーティストがくるりをカバーしている動画が最近よく流れてくる。

まあ、当然、この時代にミュージシャンをやっていて、全くくるりを聞いたことがないというのは考えにくい。とはいえ、明らかにくるり好きそうだな、という人から全然やってること違うやん、という人まで、本当にいろんなところで目撃する機会が増えている。

今でこそ、自分でバンドをやるようになって「くるりにガチガチに影響受けています!」と公言することが難しいのはよくわかる。そして今、こんなタイミングで、ある種カミングアウトしくるりをカバーするのも痛いほどよくわかるなあ、と勝手に共感している。

要は、みんなくるりが好きでやったー!というだけなんだけれども。後半10曲です。

11 デルタ
 8thアルバム『魂のゆくえ』収録。これまたややこしい話だが魂のゆくえってめちゃめちゃいいアルバムで、勿論一曲一曲は粒立っているのだがそれ以上にアルバムとしてのまとまりが抜群。録音が一番好きなアルバム。とにかく言いたいのは14曲揃って初めて『魂のゆくえ』感が強いということ。
 実際のところ、"三日月"とか"魂のゆくえ"とか"背骨"とかの方が単体では好きなのかもしれないが、そうするとそのあたり全部入れないと曲の良さが伝わらないという・・・。そういう意味ではデルタは、ある意味このアルバムの中で一番このアルバムじゃなくても良い曲で、かつこのアルバムの雰囲気を纏っているという少々不思議な曲である、というのが私の見立てである。

12 ソングライン
 12th アルバム『ソングライン』収録。2018年、その線は水平線のツアーでくるりをみた。その際、新曲"ハイネケン"として披露された曲。特にライブでのこの曲は最高。けむに巻いたり、いなしたりするくるりも好きだが、時折現れるこの真正面から迎えようとするくるりは、こちらも真正面から受けて立つライブでよりその真価が発揮されるのだろう。そのテンポも歌詞も、アウトロのギターソロも、節々のビートリーな感じも、逃げも隠れもしない姿勢を、民生に任せるではなく自分で歌おう、というのは岸田さんが齢を重ねたからだ、という風に勝手に解釈している。大人な曲。

13 地下鉄
 カップリングベストアルバムである『僕の住んでいた街』収録。初出は11thシングル『HOW TO GO』のカップリングである。ロックンロールをFACTORYで披露する際の出囃子として30秒に満たない時間でありながら聴衆をざわつかせた筋金入りで肝入りの一曲。言わずもがな、ひとたびこの曲を聴けばそのフィルインに心を奪われるだろう。しかし、これは我らがクリストファー・マグワイア、ではなく、我らがクリフ・アーモンドによって演奏されている。ということを忘れてはならない。とにかく、この二人以外にも石若駿やらあらきゆうこやらBOBOやら、くるりは参加ドラマーがとにかく超人なので、聴いていて飽きないんですね。

14 黒い扉
 5thアルバム『アンテナ』収録。このアルバムから唯一入ったのがこの曲。自分でも意外である。しかし、この曲の威力は並大抵ではない、というのはまず宣言しておきたい。この曲は他の曲とは少し違って、下手するとスキップしかねない曲である。曲の入りの部分でぐっと掴んでくることの多いくるりとしては、という意味である。あとしっかり長い(8分半)。玄人が好きそうなにおいがプンプンするだろう。そう思うなら尚更、一度考えるのをやめて聴いてほしい。半分が過ぎたあたりで、「おや?」となにやら異変に気が付く。気づいたときにはもう遅い。自覚症状が出たら、そこからは一気に終着点へ。終わってほしくないとすら思うだろう。終わった後、「もしかしてあれってとんでもないことだったんじゃないか」となるアレである。

15 京都の大学生
 こちらもカップリングベストアルバム『僕の住んでいた街』収録。初出は20thシングル『さよならリグレット』のカップリングである。これに関してはそこまで深入りしない人にも受けがよく、くるりの曲を勧めるときによくこの曲を紹介したり、カラオケで歌ったりすることが多い。こんな曲すら作られてしまったら、こりゃ敵わんて。京都の大学生への憧れはこの曲によってのみ醸成される。

16 ハム食べたい Schinken
 7th アルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』収録。こうして整理するとワルツを踊れが多い。粘っこさと、いい「抜け感」の歌詞。これに尽きる。「すっかり空いたウイスキー・グラス」からは、映画のワンシーンが鮮明に浮かぶ。洋風の映画のようでもあるし、一方で東京のワンルームアパートでの出来事のようにも思える不思議。甘酸っぱい、ちょっぴり苦い恋の味。

17 奇跡
 24thシングル曲。まさに奇跡のような曲。歌詞と同じかそれ以上くらいに、山内総一郎のギターが優しい。自分の大切な人の、何かしらの記念の日に、流したい曲だと心から思う。

18 キャメル
 2枚目のベストアルバム『ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER 2』収録。初出は「まほろ駅前多田便利軒(オリジナル・サウンドトラック)」であり、三浦しをん原作の同名映画の主題歌である。これまた、歌詞が切ない。実は筆者、三浦しをんも好きであり、主演である瑛太、松田龍平も好きである。そしておそらく好きな理由も近いところにあって、好きな小説家と俳優と音楽家が交わるべくして交わった、理想の結実なのである。何がそんなに好きなのかは映画を見てくれれば一目瞭然なのだが、敢えて言葉にするならば「真顔でスローボールを投げるところ」だろうか・・・伝わるか・・・

19 HOW TO GO (single ver.)
 くるり初のベストアルバム『ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER』の最後に収録されている曲。11thシングル。もちろん、5thアルバム『アンテナ』収録のバージョンではなく、この打ち込みのシングルバージョンにしているのは意図的である。クリスのドラムは最高に好きなのだが、どうしても、この打ち込まれたドラムに耳が魅了されてしまっている。ソースが全く思い出せないが、打ち込みでグルーヴを出すためにスネアを何十分の一くらいだけ後ろにずらしている、みたいなのを見た気がして、それにしてやられていると衝撃を受けたのが何年前だろうか。この曲の、この歌詞には自分の人生の指針が詰まっている。この先死ぬまで、私の支えになるだろう。

20 ジュビリー Jubilee Gemischt Von Dietz
 7thアルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』収録。このくるりの20曲大トリを飾るのは、こちらも人生の指針となる曲である。ムーンリバーさながらの美しいオーケストラの旋律と、喜びと別れを表現した歌詞。「さよならだけが人生だ」と、井伏鱒二による勧酒の名訳があるけれど、「失ってしまったものは いつの間にか地図になって 新しい場所へ誘ってゆく」という歌詞からも、そこに通ずるものが少なからずあることは、明白である。悲しい別れも、今や過去のつらいことは、未来が待っている限りは大丈夫なんだと、さあ、今は酒を飲もう、つらくとも、今に寄り添う素敵な歌詞である。


当然ながら、この20曲に入り損ねた、大好きな曲はごまんとある。折を見て、それらの話もできれば良いなと思う。

是非、くるりを聴いてみてほしい!

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王甘
あざます