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支えになるか、クラシック? (8)

 【明けましておめでとうございます。
  今年もどうぞよろしくお願いいたします!】


バロックも含めてクラシック音楽が、内向き
という本質を持っていることは

(内向きの要素が層になっている)
と考えると真実に近いような気がします。

たとえば一番上の内向きの層は
(おしゃべりが止んで、しんとした気持ちに
なる)
といった感じ。

これが次の層まで降りていくと
(自分の外にある物理的な音を聴いているよ
うで、実は自分のカラダの声も同時に聴いて
いるような感覚)
になり

そのことを自分で十分自覚できるかどうかは
ともかく、ここまで
(入って行けた)
という実感は

そういうゾーンがあると知らなかった者にと
っては非常な驚きだし、また世界が内側に向
かって開けていく感覚の喜びでもあります。

一度でもそういう風に聴くことの出来た曲は、
旋律や展開がどうのこうのという次元で
「ああ、あの曲知ってるよ」
というだけの、単に覚えてる作品とはまるで
違ってくるでしょう。

それはもう
(自分のカラダが、ああいう反応をした、あ
の「あれ」がある曲)
になっていて、たとえありきたりな「好きな
理由」を誰かに言っていたりしても、実はそ
んな理由以上に “ご縁のある曲” になってい
る。そういう気がします。

よく世間の評判や周囲の評価とは別に
(誰が何と言おうと、自分はこの演奏が好き
だ)
とか、その逆に
(みんな「イイ」って言うけど、どうもピン
と来ない)
といった感想を抱くとき、その根拠になって
いるのは、主にこの第二層の事柄ではないの
か?

また、そういう意味でのカラダの共振を経験
していると
「この曲はこうだから良いんだよ」
と、アタマで考えた(実質、半分は間違って
いる)説明を人にしても、結果としては不思
議に通じる……と言いますか、興味や関心を
持ってもらえることが多い、という経験がわ
たしにはあります。

そうしてそういう他人の興味や関心からは、
結果としてリターンが大きい。それは
「あなたは多分こういうのが好きじゃないか
と思って」
などという形で、自分では到底たどり着けな
いような楽曲(大好きになる曲)を教えても
らえる……というプレゼントになることが多
いです。


で、この二番目の層からさらに深層に達する

(音楽の原体験)
と言ったらいかにも大げさでしょうが
(人間にとって音楽とは何か)
みたいなテーマに、針先がちょこっと触れて
来るような気がして、言い知れぬ気持ちになる。

ここからはもう
「だから何?」
と反問されても答える必要のない世界です。

というか、人に説明することからはあまりに
も遠い領分に入ってしまい、ただぼんやりと
どこかへ続く道が見えている……敢えて言え
ばその先に“起源”のようなものがあるので
しょう。

それも単に音楽の起源にとどまらず、人間に
とっての意味全般の起源にかかわるなにもの
かが。

昔、古楽のブームが起こったときに
(ああ、クラシックって基本むかしのモノの
繰り返しだから、ビジネスセンスのある人た
ちが新しい分野を開拓したんだろ)
といった冷やかな意見を聞いたものです。

ただ、確かにそういう一面を完全に打ち消す
ことは無理だとしても、クラシック音楽自体
にもともと
(人間の関心を起源に向かわせるような要素
ある)
ということも言えるのではないでしょうか?

わたし自身、クラシック音楽に親しんでいな
かったら、中世のヨーロッパ音楽を聴いて感
心するなどということはあり得なかったよう
な気がします。

こういう、昔とか内面とかにアクセスする方
向性を少し深めるだけで、誰でも意外に頑丈
な、特注品みたいなシェルターが作れます。
それは、人を振り回すもっともらしい情報や
善意や正義のふりをしたあおり、人間支配の
あざとさから自分を守ってくれるシェルター
です。

しばしばシェルターにこもって外界をシャッ
トアウトするあなたに
(現実から逃げてどうするんだ)
と言ってくる人がもしいたら、こう返して下
さい。
「現実は外側にも内側にもあるんだよ。あな
たは内側の現実から逃げない方がいい」


最後に『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあな
たに愛を込めて書いたので読んでください。』
(2019年 KKベストセラーズ)というタイ
トルの驚くべき一冊をお書きになった英文学
者・藤森かよこさんが、かつてツィッターに
書き込まれていた印象的な一文を引用させて
いただいて、このエッセイを終わります。

そもそもわたしがこれを書きたくなったのも、
藤森さんの影響なのです。上記の御本の中で
藤森さんは、読書というものが、戦場に駆り
出された兵士たちの精神的な支えになってい
たという話題を取り上げていらっしゃいます。

〈藤森かよこさんの9月15日(2021)のツイー
ト〉
「クラッシック音楽って、外部から侵食され
ない『内面』を持つ人間のみが楽しめます。
アメリカで、悪ガキ不良が集まって困ったシ
ョッピングモールがクラシック音楽をBGMで
流したら、小動物みたいな10代が集まらなく
なったそうですね。彼らや彼女たちは、自分
たちの『内面』を意識するのが不快なのです。

(終)

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