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【第18話】「バッタモン家族」は、父の蹴りから始まった

私が小学生低学年の頃、とんでもない光景を目の当たりにした。「バッタモン家族」は、父の蹴りから始まった話をしようと思う。

*読む時のお願い*
このエッセイは「自分の経験・目線・記憶”のみ”」で構成されています。家族のことを恨むとか悲観するのではなく、私なりの情をもって、自分の中で区切りをつけるたに書いています。先にわかって欲しいのは、私は家族の誰も恨んでいないということ。だから、もしも辛いエピソードが出てきても、誰も責めないでください。私を可哀想と思わないでください。もし当人たちが誰か分かっても、流してほしいです。できれば”そういう読み物”として楽しんで読んでください。そうすれば私の体験全部、まるっと報われると思うんです。どうぞよろしくお願いします。

*読む時の注意*
このエッセイには、少々刺激が強かったり、R指定だったり、警察沙汰だったりする内容が含まれる可能性があります。ただし、本内容に、登場人物に責任を追求する意図は全くありません。事実に基づいてはいますが、作者の判断で公表が難しいと思われる事柄については脚色をしたりぼかして表現しています。また、予告なく変更・修正・削除する場合があります。ご了承ください。

妹は私とは腹違いだ。私が3歳の時、父は私の生みの母と離婚。その後しばらくは、父、2人の兄、そして私の4人で暮らすことになった。もちろんその頃、”離婚”の意味なんて分からなかった。

実の母と離れて暮らすようになって1年も経たないうちに、父よりも20歳以上若い、”新しい母”が我が家にやってきた(本連載の、ヒステリックな「母」にあたる人だ)。父よりも兄たちとの方が年齢が近い。

お料理も、家事も、私たちの世話も一生懸命にしてくれた。私から「お母さん」と呼ぶには少し時間がかかったけれど、彼女には「育ての母」として感謝している。

私が小学校低学年のときに、その育ての母が妊娠。父から「Maiに妹か弟が生まれるよ」と言われた時は本当に嬉しかった。今まで1人で遊んできたから、妹か弟ができたら一緒に遊べるのだと、子供ながらにわくわくしたのを覚えている。

 「いつ生まれる?女の子?男の子?」

今か今かと待ち続けた。義母のお腹もどんどん大きくなり、赤ちゃんは順調に育っていた。

程なくして、性別は「女の子」と分かった。「一緒にお人形遊びや、お絵かきができる!」と、私はさらに喜んだ。義母も父も、兄たちさえも赤ちゃんの誕生を楽しみしていた。普段は気性の荒い父も、義母を気遣い、本当に優しかった。家族が初めてと言っていいほど一丸となり、幸せな雰囲気に包まれていた。

そんなある日、私はとんでもない光景を目の当たりにした。衝撃的な光景は、一瞬で私から体の自由を奪い去った。

「妹が…お腹の中で死んでしまう!」

頭の中だけに響く叫び声は、当然父にも義母にも届くことはない。私は金縛りにあったかのようにその場に留まることしかできない。

父が、妊婦の義母を、思い切り蹴ったのだ。



バッタモン家族には、とんでもない光景は、いつも突然現れる。

その日義母は、床に座ってテレビを見ていた。少し離れたところから義母に気づいた私は、お腹の妹を撫でさせてもらいたくて彼女の方へ向かった。義母は、いつもするように、すでに臨月を迎えたお腹をさすりながら微笑んでいる。子供の誕生を楽しみにする”母”の横顔だ。

すると父が母の隣に姿を現した。

その瞬間私は、父がまとう黒いオーラに、言いしれない恐ろしいものを感じた。反射的に、壁の影に隠れつつも、様子を見守らずにはいられなかった。今思えば「怖いもの見たさ」というやつだったのかもしれない。

父は義母を見下ろして何かを言っている。義母も父に何かを言い返している。私の耳に入ってくるのは、声と音の間の何かで、会話の内容までは理解できない。ただ、楽しくおしゃべりしているのではないことは見て取れる。

私のいる壁の影から、次に父の横顔が見えた瞬間、何かが一線を越えた感覚を覚えた。父の形相は明らかに険しく、拳を握りしめている。もしかして殴られる…?直感で「止めなきゃ!」と足を踏み出したその瞬間…

…ドッ!!…

父が、義母の背中を蹴った。

臨月の母に向かって、思い切り足を振り抜いたのだ。

思いがけない光景を目の当たりにした私は、まるでサッカーボールを蹴るみたいだ、と見当違いな感想を抱いた。

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義母はお腹を抱えてうずくまっている。痛みに耐えているのか、肩が震えている。「お願いだから、この子だけは傷つけないで」と、父に懇願しているようにも見える。父はまだ母を見下ろしたまま。私は、さっき一歩踏み出した状態のまま。

 (嫌だ!妹が死んじゃう!!)

硬直した全身をとっさに駆け巡ったのは、そんな危機感だった。

まだ小さな子供だった私に”妊娠”の知識なんてものは無かったが、妊婦さんを蹴り飛ばすのが許されないことくらいは分かる。そもそも妊婦さんでなくても、人を簡単に叩いたり、蹴ったりしていい理由なんてどこにもない。

状況が頭に染み込んで来ると同時に、父への怒りがこみ上げてくる。

「ヒドイ!お母さんの背中を蹴るなんて!お腹には赤ちゃんがいるのに!」

本当はそう声を上げたかった。父がしたことの酷さを分からせてやりたかった。でも私は何もできなかった。父はお腹を抱える義母を残して立ち去った。彼女はまだその場で震えている。

父が居なくなると、金縛りが解けたみたいに体が自由になった。義母の元へ駆けつけてあげたい衝動に駆られたが、やめておいた。さっきよりも肩の震えが大きくなっていて、その場に行っても、自分の無力を実感するだけになりそうだと思ったからだ。何もできない子供であることがもどかしかった。

父が母にした許せない行為、独り肩を震わせる義母の姿。その時目にした光景の全てが、しばらく脳裏に焼き付いて離れなかった。何かがきっかけで、自分もあんな風に蹴られるかもしれない…その可能性を考えるだけで、体の奥から恐怖心が染み出してくるようだ。そして何より、お腹の妹が大丈夫なのか気が気ではなかった。

妹は…なんとその数日後に、無事に生まれた。あの光景を見た後で本当に心配していたが、幸い元気に生まれてきてくれた。父は、義母を蹴ったことなんて無かったことかのように上機嫌で、妹の誕生を心から喜んでいた。私や兄たちも小さくて可愛い妹に顔がずっとほころんでいた。

父の腕に抱かれる妹を見ながら、義母は一体どんな想いを抱いていたのだろうか。

念を押して言うが、いくら妹が無事に生まれてきてくれたとは言え、父の行動は許されることではない。妊婦さんに暴力を振るうなど、良い悪い以前に、異常だ。「もし、蹴りが少しでもお腹に当たっていたら…精神面でお母さんに何かあったら…」と考えただけで怖くなる。そんな”紙一重”の部分が何か違っただけで、もしかしたら妹はこの世にいなかったかもしれないのだ。

父は、機嫌が良ければ本当に優しく、子供好きで、誰もが羨む程の”良いお父さん”だ。母のこともお姫様のように気にかけたり、労ったりする。怒りに任せて怒鳴り散らしたり、拳を振り上げたり、そんな姿などこれっぽっちも想像できないくらいに。

だからこそ私は、私達は、いつもどれが”本当の父”なのか混乱していた。

あの時の光景は、今でも鮮明に思い出せる。なぜ父が義母を蹴ったのかは今も分からない。でも今思い返せば、あれは彼の暴力的な本性のほんの一端で、私がそれをその時”たまたま目にしただけ”なのかもしれない。

そう。あの時から、彼の蛮行は歯止めが効かなくなっていった。この出来事を発端に、私はそれをどんどん痛感していくこととなる。


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Mai🍁いとをかしな日常
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