【第17話】暴走族と乱闘騒ぎ?!
これまでの更新ですでに何度も触れてきたように、父の怒りのスイッチは、瞬きするよりも早く”オン・オフ”が切り替わる。
”オン”になる瞬間は予測がつかない。ただ突然駄々をこねる子供がごとく家族に当たり散らす。気に入らないことがあると、家族以外の人とも平気でケンカをする。そして、自分の怒りを発散しきると”オフ”、つまりまるで何事もなかったようにケロッとしているのだ。
今日は、そんな父が兄を引き連れて、暴走族に立ち向かっていった話を書こうと思う。幼い日の、印象深い出来事の一つだ。
*読む時のお願い*
このエッセイは「自分の経験・目線・記憶”のみ”」で構成されています。家族のことを恨むとか悲観するのではなく、私なりの情をもって、自分の中で区切りをつけるたに書いています。先にわかって欲しいのは、私は家族の誰も恨んでいないということ。だから、もしも辛いエピソードが出てきても、誰も責めないでください。私を可哀想と思わないでください。もし当人たちが誰か分かっても、流してほしいです。できれば”そういう読み物”として楽しんで読んでください。そうすれば私の体験全部、まるっと報われると思うんです。どうぞよろしくお願いします。
*読む時の注意*
このエッセイには、少々刺激が強かったり、R指定だったり、警察沙汰だったりする内容が含まれる可能性があります。ただし、本内容に、登場人物に責任を追求する意図は全くありません。事実に基づいてはいますが、作者の判断で公表が難しいと思われる事柄については脚色をしたりぼかして表現しています。また、予告なく変更・修正・削除する場合があります。ご了承ください。
これは私がまだ小学6年生の頃、天井が抜け落ちそうな家に住んでいた時の話だ。当時、父は自営業をしており、自宅の一部がお店になっていた。家族と一緒に寝ることはなく、お店の中にある小上がりスペースで、寝起きしていた父。
通りに面したお店はシャッター式。夜は当然閉めていた。田舎といってもそこは、その地域の中心部にあたり、真夜中を過ぎるまでは人も車もよく通る。車やバイクが勢いよく通ると、誰かがシャッターを叩いているみたいにガシャガシャ鳴ったものだ。ただ、さすがの父も、これくらいでは”オン”にはならない。
夜、父の神経を逆撫でするのは、田舎の暴走族だった。我が家の徒歩5分の所に、彼らのたまり場となるコンビニがある。ほぼ毎晩11時に、数台のバイクがリズミカルな音を立てて、そのコンビニを目指して我が家の前を通り過ぎる。その影響で、シャッターは台風のときみたいにガチャガチャと激しく揺れ、大きな音を出す。ボロ屋の為、余計にその衝撃は大きく感じられた。
もちろん迷惑ではあったが、通り過ぎてしまえば静かになるので、私はあまり気にしていなかった。が、そこはバッタモン家族。父と逃走アニキは、「毎晩、毎晩、うるさいな」と暴走族が通るたびにイライラを募らせていた。
普段はそうやってぶつぶつ小言だけで終わっていたが…ある日突然、父の我慢が限界に達した。いつものように数台のバイクが通り過ぎた後、父はイスから立ち上がり、拳を握りしめて言った。そう、いきなり”オン”になったのだ。
「アカン!もう我慢の限界や!あいつら、しばきに行ったる!」
え、急に?なんでスイッチ入った?
横でテレビに夢中になっていた私と母が、事態を把握するのに苦労している間に、父は3階にいる兄に向かって叫んでいる。
「おい!!行くぞ!」
「おう!行ったるわ!」
え?すでに打ち合わせ済み?
兄は、父の「行くぞ」だけで何が起きているかを理解したらしい。いつも犬猿の仲の2人が、一致団結しいる。何やらただならぬ雰囲気だ。
どかどかと兄が3階から降りてきた勢いで、彼らは暴走族を追いかけて行った。父はバットを手にしていたが、兄は手ぶらのまま。果たして大丈夫なのか…?と、母と二人で2人の背中を見送った。
「なぁ。お父さんたち、暴走族とケンカすんの?大丈夫なん?」
「さぁ?知らん、知らん。放っておけばいいのに、アホやな。」
「2人とも数で暴走族に負けるんちゃう?」
「どうやろうな。まぁ止めても言うこと聞かへんし、好きなようにさせたらええねん。ほっときほっとき。」
そうは言っても、一応は家族。心配だ。私は3階の自室(兄と同室)に行き、窓を全開にして聞き耳をたてた。田舎の夜は虫の鳴き声も聞こえるほど静かだ。近くで乱闘騒ぎなんかあろうものなら、少しくらいの距離があっても聞こえるはずだ。部屋の窓からコンビニの明かりが遠巻きに確認できる。車のクラクション、バイクの音、何を言っているのかは聞こえないが、人の怒鳴り声で騒がしいのは明らかだ。
「あ~。やっちゃってるな~…」
どうやら本当に暴走族に立ち向かっていっているらしい。
ほどなくして、パトカーが我が家の前を通り過ぎる。そしてコンビニの前で止まるのを目にする。警察が出てくるくらいなのだから、さすがに大ごとなのではと不安になり、急いで1階の母に報告した。
「お母さん!窓から見てたんやけど、今警察がコンビニ向かった!お父さんとお兄ちゃん、捕まるんちゃう?!」
「ええーー!もう止めてほしいわ、めんどくさい!」
母は母で、怒りではなく”ヒステリック”のスイッチを備えている。私の報告を聞いて、叫びだす一歩手前のようになる母。二人してそわそわしていると、バタバタと裏口のほうで物音がする。父と兄だ。
私が「あ!」と思った瞬間にはもうすでに、母がのヒステリックスイッチが”オン”になっていた。矛先は父だ。
「あんたら!何してんの?!警察来たんちゃうの?!」
「来てた、来てた!ほんでもその前に逃げてきた。」
「逃げてきたって…誰もケガさせてへんよな!?面倒事は嫌やで!」
「はは!さすがにワシはそんなことせんわー!ほんでもアイツは、立ち向かっていきよったで。」
父が指さしていた兄を見ると、口の端がうっすら赤いような…血だ!
「お兄ちゃん、血が…ほんまに、大丈夫?!」
「大丈夫、大丈夫。アイツらと揉み合いになったときにな、メガネ飛んで行ってしもて、何にも見えへんくなってん!ほんで、メガネ拾おうと思って気取られたら殴られてしもたー。はは!」
「………。」
「…ん?どうした?」
「…ダッサ。心配してちょっと損した。」
蓋を開けてみれば、父が持っていったバットは”脅し”で、実際はいつも私達にするように、暴走族の前で怒鳴り散らしていただけだったそう。兄も少し武勇伝を気取っていたものの、どちらかと言えば、暴走族に向かっていったというより、相手に胸ぐらを掴まれた流れでもみ合いになり、”事故”でメガネにヒビが入ったようだ。
…はぁ…なんとも歯切れの悪いこと。
私の知っている限り、その件に関して、父と兄に警察からのお咎めはなかったはずだ。うちに警察の人が訪ねてきたという記憶もない。ただし、警察は暴走族が誰と揉めていたのかは把握していたのではないかと思う。なぜかというと、実は父が暴走族と騒ぎを起こすのは、これが初めてではなかったからだ。
何度か暴走族を追い回したり、家の前を彼らが走ったら「うるさいんじゃー!」と外に向かって怒鳴ったりしていたから。そういった行いを警察になだめられる…なんてことは実はそれまでに何度もあった。私としては、それもあって彼らが飛びてていったことを心配していたのだ。
父がなぜそこまで暴走族を目の敵にしていたのかはわからない。彼を父に持つ私としては、シャッターの音だけが理由だとすれば、それはそれで器の小さい話だなと思ってしまう。ただ、父は暴走族と乱闘騒ぎを起こしてから、もういくら追い回しても、怒っても、ケンカしてもどうにもならないと気がついたみたいだ。次の家に引っ越すまでの数年間は、罵るのは家の中だけに留め、外向きには大人しくしていた。
新しく引っ越した家は海に近く、昼夜通して静かなエリアだった。住み心地も良く、もちろん暴走族は居ない。そこに越してからというもの、こと暴走族に関しては、夜の父は外と同じくらい静かになったのだった。