歴史的痕跡の保存/Porsche 959 Paris-Dakar
写真説明)959パリ-ダカールが人々の記憶に残した伝説……それは1986年のパリ-ダカール・ラリーに於ける1-2フィニッシュでした。WRC(世界ラリー選手権)へのスポット参戦を狙っていたとされる959でしたが、タイミング的にWRCのグループBが廃止され行き場をなくし、活躍の場をパリ-ダカール・ラリーに求めた事で誕生したのが959パリ-ダカールだったのです
959パリ-ダカールが成し遂げた偉業
ポルシェ(ポルシェAG)は「アフリカ大陸の砂漠やサバンナで14,000kmを走破出来るクルマなら世界中の何処へだって行く事が出来るでしょう」と言います。そのポルシェがパリ-ダカール・ラリー(注1)にチャレンジしたのが1984年。この初チャレンジでは実験的意味合いの953が3台出走し、それぞれが総合優勝、6位、28位という結果を残しています。
ところがチーフエンジニアのヘルムート・ボット氏が「一度の勝利では十分と言えない。我々はもう一度行かなければならない」と発言。そうして1985年には、初めて959の名を冠したモデル(注2)でパリ-ダカール・ラリーにエントリー。しかし残念ながら、この年のチャレンジは出走した3台全てがトラブルによるリタイアという結果に。
そもそもパリ-ダカール・ラリーは、フランスから西アフリカまで(注3)の過酷なラリーとして知られていました。ただ、この過酷なラリーを世界に知らしめたのは、1978年12月26日にスタートを切った第1回大会で創設者(故ティエリー・サビーヌ)が残した「私に出来るのは、冒険の扉を示す事。扉の向こうには、危険が待っている。扉を開くのは君だ。望むなら連れて行こう」という言葉だった様に思います。
この言葉によって人々は“めちゃめちゃハードな冒険候”への関心と共に憧れを抱き、どれほど過酷なラリーなのだろうとパンパンに膨らんだイメージと実際の報道によって、ある者は冒険心を駆り立てられてしまい、ある者はチャレンジングスピリットに火が付けられてしまったというのは間違いのないところでしょう。結果として多くの人々が興味を持ち、そしてスタートラインに立とうとした事で、必然的に、この過酷なラリーへの注目度が増してステータス性も高まった様に感じます。
そんなステータス性までも備えた過酷なラリーにエントリーを決めたポルシェですが、チャレンジ開始から3年目になるとグループBカーとしてWRCの舞台にデビューするハズだった959を用いて必勝体制を組んできたのです。そう……“不本意な総崩れ”といった前年のリベンジを果たすべく、本気度MAXで挑むというワケです。ちょうどグループBホモロゲーション取得を目的に959の限定生産が始まっていた事もあり、この正当959をベースとしてパリ-ダカール・ラリーでの勝利をもぎ取るべく投入されたのが959パリ-ダカールでした。
レーシング・ディレクターのピーター・フォーク氏は「1980年代、チームは2年をかけて959をラリーカーに改造しました。エンジニアはフロントアクスルのダブルショックアブソーバー化で足回りを強化すると共に、全地形対応タイヤを装着。路面や地形に合わせてフロントアクスルとリアアクスルの間で動力を適切に分配する電動油圧制御式センターディファレンシャルも装備。その結果、マシンは最終的に最高210km/hの速度に達する事が出来たのです」と959パリ-ダカールについて語っています。
こうした努力の甲斐もあってツッフェンハウゼンが送り出した959パリ-ダカールは、1-2フィニッシュという最高のカタチでこの過酷なラリーを制覇しました。優勝はルネ・メッジとドミニク・ルモインのフランスチーム。次いでジャッキー・イクスとクロード・ブラッスールが2位。そしてサービスカーだった3台目の959パリ-ダカールにはプロジェクト・マネージャーを務めたローランド・クスマウルとウォルフ・ヘンドリック・ウンガーが乗り込み、6位フィニッシュという結果に。これは恐らくですが、チームのシナリオとして想定以上の結果を収めたのだと想像します。
ピーター・フォーク氏はこうも言っています。「1984年、その一度の勝利では十分ではありませんでした。ヘルムート・ボット氏の発言もあって我々はもう一度行かなければならないと判断しましたが、1985年は3台のマシンが悉く脱落するという壊滅的な結果になってしまいました。すべてを失った我々は、皆がすべてに少しうんざりしていたのです。それでも再びレースをしようと我々は決意し、1986年に再びスタートを切る事が出来ました。そして我々の3台のマシンはすべてが完走し、しかも1-2という最高のカタチで勝利する事が出来たのです」と。
※今回の記事は2023年2月のリリースを元にしています
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