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エッセイのご紹介432 「詩のモチーフ」(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今回も、産経新聞の「from」に掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 「from」には9作品掲載されていますが、残念ながら自筆原稿が残っていませんので、掲載された文章をご紹介いたします。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

「詩のモチーフ」
                            小黒 恵子

 NHKの首都圏ネットワークで、神田神保町の古書祭りを取り上げていた。
 縦一㍍、横七十㌢、重さ二十㌔ほどの大きな鳥の本を紹介していた。開いたページにある、ツバメがヘビをくわえて飛び立つ絵が妙に印象に残った。
 ツバメといえば、スマートな燕尾(えんび)服で敏捷に飛び、人家や学校や幼稚園の軒先などに営巣し、昆虫をとって子育てする身近な鳥だけに、意外な絵だった。
 持ち主の松村書店三十年も老いてあるという本で、最初三十九万円の売値だったのを三十万円引いて売るとのこと。「ザ・バード・オブ・アメリカ」のタイトルで、一八二七年から三十八年にかけてオーデュボンが絵と文章を書いた。
 その本は今、私の部屋に鎮座している。何秒かの映像で、なぜ情熱的にわが物としたのか不思議である。強いていえば、縁があったということかもしれない。
 かつて私は九官鳥を飼っていた。言葉をよく覚え、数多いレパートリーの中で、「シツレイシマス」が大好きで得意だった。おかげで家中が、靴をはくときも、鍋のふたをとるときも、勝手に転んだときも、「シツレイシマス」といっていた。
 私の初出版の本のタイトルも「シツレイシマス」だった。あるレコード会社の目にとまり、十四曲のLPとして発売され、日本作詩大賞童謡賞の栄に浴した。
 その後、デパートで衝動的にチャボのひよこのつがいを買った。何カ月かしたある朝、ピンポン玉ほどの小さな卵を産んでいた。
 雄は毎日、コケコッコーの練習をしていたけれど、「ケッケ、コロッケコロッケ、コロッケ、ケッコー」と叫んでいた。これが『ぼくんちのチャボ』となり、NHKの「みんなのうた」から流れた。私の詩のモチーフは、形の違った家族たちが提供してくれている。
 今は「オグロインコ」を飼っている。こうして振りかえってみると、鳥と私の関係は、枚挙にいとまがないほど縁が深い。

産経新聞 from 2004(平成16)年12月20日
 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回も、2004年~2005年に産経新聞に掲載された小黒恵子のエッセイをご紹介します。(S)

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